金融ファクシミリ新聞社金融ファクシミリ新聞

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「投資信託の発展を地固め」

投資信託協会
副会長・専務理事
大久保 良夫 氏

――現在の投資信託の純資産総額は…。

 大久保 2015年7月末の契約型公募投資信託の純資産総額は101.5兆円であり、そのうち公募株式投資信託は84.3兆円となっている。純資産総額の増減要因としては、資金増減と運用等増減の2つがあるが、資金増減については、公募株式投資信託において1998年から17年連続で年間純資金の流入が続いている。特にアベノミクスが始まって以降、円安・株高に支えられて純資産総額の増加ペースが早まっている。

――とはいえ、個人金融資産に占める投資信託の割合はまだ低い…。

 大久保 主要国における個人金融資産に占める投資信託の比率(日銀資金循環統計)を見ると、米国では12.9%(2015年3月末)を、欧州でも8.0%(2014年12月末)を占めているのに対し、日本は5.6%(2015年3月末)の低い水準にある。なお、米国投資信託協会(ICI)が公表(FACT BOOK 2015)する、401(k)プランなど確定拠出年金(DC)やIRA(個人退職口座)で投資された分を含めたデータによると、米国における2014年末現在の家計の金融資産に占める投資信託(ミューチュアルファンド、ETF、closed-end funds、UITsの合計)の割合は24%となっている。このように、米国や欧州で投資信託の割合が相対的に高いのは、確定拠出年金やIRAといった制度面に拠る部分が大きい。米国の投資信託の歴史を振り返ると、エリサ法でIRAの制度が出来た1974年以降に少しずつ残高が増加し始め、1981年に401(K)プランが整備された以降は、株式市場の堅調も背景に、特に増加ピッチが強まった。

――日本でも確定拠出年金制度が導入されているが…。

 大久保 日本においても確定拠出年金制度が徐々に普及してきており、制度改正により今後もこの方向性は続いていくだろう。現に本通常国会で確定拠出年金法の改正案が審議されており、改正案には、制度の大幅な拡充、個人型確定拠出年金に専業主婦や公務員が加入できる加入対象者の拡大等、老後に向けた個人の継続的な自助努力を支援するための措置が盛り込まれている。確定給付年金と違い、確定拠出年金の場合は個人が自らの判断で金融資産を選び資産を形成していくものであり、この投資先として投資信託が果たす役割は非常に大きいと言えよう。

――2014年からスタートしたNISAの影響は…。

 大久保 投資信託への資金流入が続いている要因としては、NISAが始まったことも大きい。金融庁が本年6月に公表した「NISA口座の利用状況に関する調査結果(平成27年3月末時点)」によれば、総買付額は4兆4,110億円、そのうち投資信託は2兆9,154億円、ETFは563億円、REITは409億円(この3つで全体の68%)となっている。NISAで投資信託を購入するメリットとしては、1万円の少額から投資が始められるほか、毎月の積み立てによりドル・コスト平均法のような形で資産形成ができるという点もある。REITについても、NISAでの購入に対応するため、投資口の分割を実施している。また、投資信託は少額であっても内外の株式・債券や不動産など多様なアセットクラスへの投資が可能で、分散投資によって内外の経済成長を自らの資産形成に取り込むことができる点も魅力といえるだろう。

――販売会社が投信の乗り換えを次々と薦め、手数料収入で儲けているとの指摘がある…。

 大久保 金融庁のモニタリングレポートでは、投資運用業者において販売会社にとって売りやすい投資信託や高い販売手数料が得られる投資信託の提供が少なからずみられるとの検証結果が指摘されている。投資信託協会として販売手数料等の水準自体にコメントすることは避けたいが、投資信託にかかる販売手数料、運用手数料(信託報酬)等はきちんと開示される仕組みとなっており、また、買付時に販売手数料がかからないもの(ノー・ロード)も増えてきている。また、信託報酬は商品によって様々だが、これについては国際的にどのような水準になっているかよく調査してみる必要があるだろう。プロがきちんと資金の管理・運用や顧客説明の責任を果たすためにはそれなりのコストはかかる。ただし、効率的な運用がなされることは非常に重要であり、商品間の競争を通じてより良質な投資信託が作られていくことが重要と考えている。

――煩雑な開示によって投資信託のコストが高くなっている…。

 大久保 この点については金融審議会等でも数年かけて様々な議論が交わされ、その後制度改正が行われている。この結果、顧客に交付する目論見書や運用報告書の内容を簡潔にした「交付目論見書」及び「交付運用報告書」を交付し、より詳しい情報を求める投資家には別途詳細な「目論見書(全体版)」及び「運用報告書(全体版)」を交付するようになったほか、Webを通じた電子交付も可能となり、コストの面ではかなり軽減されうる環境も整ってきた。また、投資家の使い勝手も向上したのではないか。手数料やリスクについて十分説明しなければいけないのは当然だが、そのやり方については更に工夫の余地があるのかもしれない。

――投資信託協会の来年度に向けた税制改正要望については…。

 大久保 投資信託協会は日本証券業協会並びに全国証券取引所と共同で税制改正要望を提出するのが例になっているが、実現を最も求めているのはNISAの恒久化だ。16年にはジュニアNISAがスタートすることなどは歓迎されるが、NISA、ジュニアNISAとも非課税期間や投資可能期間が5年、10年に限定されているため、取扱いが複雑になり、また真に長期投資を目指す投資家には、利用にためらいもあるのではないか。税制全体の公正性に配慮しつつも、企業の経営や自らの資産形成にリスクをとっている投資家に対して国が一層親切な税制にしていくことがあって良いと思う。金融商品課税の一体化が進んでいる点は評価される。

――最後に、今後の目標は…。

 大久保 まずは投資家に投資信託のことを正しく理解してもらうことが重要だ。投資信託協会のホームページでは、個別ファンドの基準価額や販売会社、リターンを網羅した「投信総合検索ライブラリー」を公開しており、アクセスは非常に多い。今後は、交付運用報告書についても簡単に見られるようにするなど、このライブラリーの内容をさらに充実させていきたい。これからの年金制度や日本の財政、雇用の形態を考えると、個人が自助努力で退職後の資産を形成していくことの重要性は非常に高まっていく。資産の投資先としては株式・債券・不動産など様々な選択肢があろうが、投資信託には分散投資や少額から積み立てが可能というメリットがあるためその中心を占めると考えている。投資信託のさらなる発展に向け、しっかりと地固めをしていきたい。

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