名古屋証券取引所
代表取締役社長
竹田 正樹 氏
――東証の新規上場銘柄のうち、約3割を地方企業が占めている…。
竹田 東証と大証の合併により巨大な日本取引所が誕生した。自主規制では我々と協力関係を築いているが、IPOでは競争関係にある。リーマン・ショックの影響でIPO件数が大幅に減少した後、東証はIPOの発掘部隊を全国に派遣しており、景気回復に伴って新規上場企業数は徐々に元に戻ってきている。しかし、地方の取引所にIPO案件を持ってきていた中堅証券会社の多くはすでにIPOの部署を解散してしまい、現在は大手証券がほとんどの案件で主幹事を務めている。我々としては企業のオーナーに対して名証上場の意義をアピールしているが、名証への新規上場よりも2~3年後のマザーズ新規上場を目指す企業も中には見受けられる。とはいえ、昨年はセントレックスと名証2部で久しぶりの単独上場が出た。今後は景気回復とともに、なるべく早期の新規上場を目指す企業も出てくるだろう。過去にはセントレックスから東証上場を果たした企業は何社もある。我々としてはいきなり東証上場が難しい企業に対し、もう1つの選択肢を提供したい。また、東証との同時上場も大いに歓迎するところだ。
――名証に株式を上場する意義とは…。
竹田 東証と同じ分野で競争をしても仕方がない。我々はコンパクトな取引所なので、フェイス・トゥ・フェイスで「顔が見える取引所」をキャッチフレーズに掲げている。例えば、現在上場している295社のうち、200以上の企業とは決算発表前に20分間のトップ懇談の機会を設け、最近の状況や名証からのお願いごとなど意見を交換している。このような取り組みは上場企業数の多い東証では難しいだろう。また、適時開示の表現について企業から問い合わせがあった場合にも、例えば「過去にこういう例がある」といったアドバイスを提供している。また、我々がセミナーや記者会見を行うホールではすべての上場企業がボードに掲載されており、自然と投資家の目に入る。特にBtoCの企業にとっては広告・宣伝効果がある点も名証の上場メリットの1つとして説明している。上場料も東証と比べて格段に安いほか、事前公表型自己株式取得の株式公開買付けの手数料もかなり安いために名証を使ってもらっている企業もある。今後とも安価な上場料にで多彩なサービスを出来る限り提供していくつもりだ。
――他の証券取引所と比べた際の特長は…。
竹田 昔から「IRと言えば名証」という定評があり、かなり以前から力を入れている。7月には22回目となる「IR EXPO」を開催し、2日間で過去最高となる9000人の個人投資家を集めた。「IR EXPO」では著名な講師の方の講演と並行して各企業がIRを行っているが、夏の暑さにも関わらず開場1時間前にはなんと約400人が列を作って待っていた。特に名古屋は富裕層が多く、株式市場に高い関心を持っている個人投資家の裾野が広いほか、企業サイドも個人株主比率の減少に危機感を持ち、景気回復とともに個人投資家の拡大に取り組んでいる。また、名古屋の企業は地域に対する愛着が強いため、東証に上場しても名証にも残ると言って頂けることも強みであると認識している。
――逆に、地域的なハンディキャップはあるか…。
竹田 例えば名古屋で200年~300年続いている非上場の老舗企業は既に知名度が高いうえに資本ストックも十二分に積み上がっているほか、代々受け継いできた株式を売出すことへの抵抗感が強い。こうしたことから、未公開の老舗企業を上場に導くのにはなかなか難しいという点が1つ。また、東海地方は製造業が産業の中心となっているが、製造業の企業はあくまで会社内で技術開発を進めることが多く、新たなビジネスモデルのベンチャー企業が出てきにくいことも2つめのハンデといえるかもしれない。
――IPO案件の発掘に向けた取り組み状況は…。
竹田 すでに愛知県、岐阜県、三重県の地銀とはIPOで連携協定を結んでおり、各銀行の取引先との懇談会に我々のIPO担当者が出かけていって説明をしたり、個別企業からの相談があれば取り次いでもらったりしている。また、証券会社をはじめとする金融機関や監査法人、VCとのIPO案件の発掘でコンタクトをもっているが、有望な話を聞きつけたら私が自ら出かけ、企業のオーナーと上場メリットや将来の展望について話をしている。こうしたオーナーとの直接対話が名証の強みだ。IPO件数を増やすための特効薬はないため、今後も地道な取り組みを継続していきたい。もう1つは、1年ほど前から広く一般の人に名証の存在自体をもっと認知してもらえるよう、取り組みを強化している。名古屋の地域性として積極的な自己アピールを控えるきらいがあるが、名証の関係者に存在意義をいくら説いたところで、そもそも一般の人に存在が知られていなければ意味がない。我々としてはまずは名証の名前を広め、その上で上場企業や証券会社の方々に対して、名証が当地域の証券市場を担う不可欠な公的インフラであるとの理解を深めてもらえるよう努めていきたい。
――今後の業務運営の方向性について…。
竹田 まずは地道な取り組みを継続し、IPOを目指す企業を徐々に呼び込んだうえで、次なる取り組みを考えていきたい。巨大な日本取引所グループはアジアのナンバー1市場を目指しているようだが、彼らにぜひその方面でがんばってもらい、世界における日本市場のプレゼンスを高めて欲しい。その代わり、地域の部分についてはぜひとも私たちに任せて欲しいと考えている。セントレックスの上場銘柄でも、名古屋所在の企業よりも関東の企業の方が多くなっている。ローカルな取引所であるとはいえ、東海以外の地域の企業にも目を向けて行きたい。
――名証自体の新規上場や、他の取引所との連携の可能性は…。
竹田 我々は非公開企業であるが、現時点で上場はかなり夢に近い。とはいえ、現在は夢であっても、社員には「夢は常に持ち続けよう」と呼びかけている。また、札幌や福岡の証券取引所との合従連衡などを言う人がいるが、地域経済のバックボーンも異なっており、相互に何らメリットはないと思われるので全く考えていない。今後ともあくまでも自主独立路線で行きたいと考えている。我々はあくまでも東海地域のインフラとしての役割を果たすため、発行体、投資家双方に価値ある取引所として生き残っていく所存だ。