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「外為特会のリスク縮小を」

元税理士法人トーマツ会長
元財務省為替資金課長
河上 信彦 氏

――このほど外国為替資金特別会計(外為特会)の問題点を研究した著書「外為介入の源流―今明かされる外為特会の秘密(仮題)」をまとめられた…。

 河上 12年かかって研究し、ようやく一冊の本にまとめるところまで来た。外為特会の問題は、本来発行する必要が無い外為証券を発行し、それにより調達した円貨の現金を一般会計等の財源に使っている点にある。外為証券の発行、つまり借金による円貨を簡単に通常の歳出に充てる事が出来るところが問題だ。民間企業を例にとると、外貨の利子収入を得た途端に同額の円貨での借金をすることはなく、仮に同額の円貨での借金を銀行に申し込んだとしても、銀行は怪訝な顔をして申し出を断ることになる。ただ、創設した当時の時代背景を考えると制度としてはよくできていると言える。日本の金融、外為関係で役に立ってきたことも事実だ。現在の外為特会は1951年に設置された仕組みで、65年近く運用されているが、もともとは円の外国為替相場の安定のために設けられたもので、その歴史をたどれば、なぜこの様な仕組みとしたか解明できる。

――外為特会が設置された当時の状況は…。

 河上 外為特会が設置された当時は日本経済がようやく発展途上にさしかかった段階だった。日本政府は外貨を全く保有しておらず、1950年に朝鮮戦争が勃発し、政府は外貨を少しずつ蓄積し始めた。当時は1ドル=360円と超円安下の固定相場の時代で、インフレ抑制のためGHQ統治の下でいわゆるドッジラインといわれる厳しい金融財政政策が採られていた。こうした状況では借金をして外貨蓄積の財源に充てることはできなかった。結局税収の一部を外貨取得財源とするしかなかった。そして赤字に陥ってしまった特会としても自ら歳入を確保する必要に迫られた。そこで外貨での利子収入を得ると、同額の外為証券を発行し、調達した円貨を特会の歳入に計上するなどといった策を講じることとしたわけだ。

――そこから外為証券の発行が積み重なった…。

 河上 日本経済は高度成長をとげ、外貨の蓄積もかなり進んでいった。民間取引を含めた対外取引により日本としては外貨保有が増大していったが、その外貨を特会に集中させるという仕組みとしていたため、外為証券の発行も増大していった。そして外貨が増大するに伴い外貨の利子収入も増大し、これにより本来発行する必要の無い外為証券もさらに発行されざるを得なかった。その後外貨集中制が無くなった時に併せて外為特会制度を見直せばよかったのだが、残念ながら見直しは行われず、この仕組みが継続したまま今に至っている。

――なぜ変わらなかったのか…。

 河上 本来発行する必要の無い外為証券の発行で得た円貨は財務省(旧大蔵省)の国際局関係者にとって使い勝手の良い財源となっていったためだ。外為特会の資金がIMF増資財源として使われ、IMF理事のポストも得られた。IMFへの出資ならまだ説明がつくものの、この財源に今度は主計局が目を付け、1982年以降はほぼ毎年一般会計に繰り入れられるようになった。外為証券は一時的な資金繰りのための短期債務であるにもかかわらず、その資金を一般会計の財源として使っていることは大きな問題だ。為替安定のため市場介入を行う本来の役割にもかかわらず、財源としての使い勝手の良さから逃れられなくなってしまった。また、このメカニズムを理解している国会議員がほぼいないことから、たとえ部分的に問題点の指摘が行われても本格的に追求されることはあまりない。米国にも外為特会に似た仕組みはあるが、いたずらに目的外の資金使用はできないようになっており、日本のようにIMFへの出資に転用することもできない。また、日本では外為特会の運用にかかる人件費や経費を外為特会で負担しているが、米国では運用にかかる費用負担をしてはならないと法律で定められており、流用が出来にくい仕組みとなっている。

――外為証券は役人にとって都合の良い資金源となった…。

 河上 外為特会の歳入が歳出に充てられるのは外為証券の利払いの他、人件費や事務運営費だ。外為証券は3~6カ月と短期であり金融緩和のため低金利となっていることから、利払い部分はわずかなものだと考えて良い。すると、外為特会の決算を行った場合、かなりの剰余金が発生する。そして、これを積立金として長期運用することにより金利収入が得られる。国の会計は民間企業のように儲けるための仕組みではないはずで、仕組みとしては本来の目的からは大きく外れている。このため、13年の特別会計法改正で、14年度から外為資金特会の積立金制度は廃止されることが決定し、少しは問題が改善された。

――今の金融情勢ではドル円の金利差からかなりの運用益が得られる…。

 河上 今はドル金利が高く、円金利が低いことから外貨保有により運用益が得られるが、日米の金利差が逆転した場合は資金が回らなくなる。かなり長期的に見れば、金利が上昇すると考えられる今後の日本経済を考えると厳しい状況だ。日本のマクロ経済を見れば、人口減少から貯蓄が減少している。貯蓄減少が進行する時、借金をそのまま続けるには無理がある。また、1ドル=70円台まで円高が進んだ過程から考えると、外為特会が為替相場を決める能力があるか疑問がある。今後の厳しい市場環境にどれだけ対応していけるのかという問題意識を、どれだけ外為特会に携わる関係者が持っているかということだ。

――制度改革に重要なことは…。

 河上 外為特会ではもともと円貨の現金が足りないため、外為証券発行により調達した円貨を外為特会の歳入に計上していた。今も円の現金が足りないというのは同じだが、外貨収入はかなり積み上がっている点で過去とは異なる。外為特会が為替の安定を求め平衡操作を行う機関である以上、将来外貨を相当売らなければならない場合に備えて外貨の利子は基本的に外貨で保有していくしかない。だが、本来発行する必要の無い外為証券の発行はやめた方が良い。そのため制度改正を行う必要があるが、その際潤沢にある外貨収入の一部を活用するということは1つの手だ。現在の外為特会のバランスシートを見ると、円安の進行により外貨資産の含み益があるため、国会議員から、外貨資産を売却して含み益を実現益にし、東日本大震災の復興財源に充てたらよいという議論があった。一方で、既に195兆円まで外為証券を発行して自由に使っていいということになっている。こうしたことを併せて考えると、含み益を実現益にするため外貨を大いに売って、同時に為替安定のため外貨を大いに買うということになってしまう。こういうことでは何のために外為特会を設けているかということになってしまう。将来の日本の金利上昇リスク等を考えると、本来借金をする必要の無い借金はしないということを今から声を大にして主張し、外為特会のリスクを縮小していくことを考えるべきだろうと思いこの本をまとめた。

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