金融ファクシミリ新聞社金融ファクシミリ新聞

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「国際的プレゼンス確立が課題」

森・濱田松本法律事務所
マネージング・パートナー 松村 祐土 氏
パートナー 梅津 英明 氏

――タイ法律事務所との統合で法律事務所としてどのくらい規模になるのか…。

 松村 当事務所では現在、弁護士で約370名、スタッフ約450名の体制となっているが、この度経営統合するタイの大手法律事務所であるチャンドラー・アンド・トンエック法律事務所に所属する弁護士約50名を合わせると、統合が実現する予定の来年1月時点においては弁護士数約450名規模、総勢900名規模の事務所となる。もっとも、リーガルサービスはクオリティ勝負の仕事であるため、人数それ自体には大きな意味がないと考えている。我々の目標は弁護士数という意味での規模が1番になることではなく、クオリティ、レピュテーションでナンバーワンになり、世界中の依頼者が問題に直面した際に当事務所を第一の選択として考えて頂けること、別の表現をすると「Firm of Choice」(選ばれる事務所)になることを目標にしている。一番頼られる存在になること、それは実は単純だが弁護士という職業が持つ本質的な目標なのではないかと信じている。

――国際化戦略については…。

 松村 現在の日本における大手総合法律事務所の多くは、もともといわゆる「渉外」法律事務所からスタートしている。これに対して、当事務所の前身となる事務所は、いずれも日本企業の訴訟やコーポレートガバナンス、国内の買収統合案件、国内外の資金調達案件などを主たる業務としており、日本企業の海外での資金調達案件を除くと、日本国内の市場における業務が多く、1990年代までは事務所の国際化は課題であった。日本企業の国際化を鑑み、我々自身も、課題であった国際化に取り組んできた。

――日本の法律事務所の海外におけるアドバイスは、現地事務所主導になりがちなど難しい面がある…。

 松村 当事務所ではあまり難しさを感じていない。まず、当事務所の特徴として、先述したとおり、これまでに日本企業に深く寄り添ってきたという歴史がある。そのため、日本企業がどういった場面で、どのようなプロセスを経て、どのような意思決定をするのかといった事情を理解しているし、依頼者のニーズ、あるいは日本政府の戦略も含めてかなり深く理解しているものと自負する。現地のトップファームと協働することによって、リーガルサービスとしての付加価値を依頼者に提供できると考えている。

――具体的に提供している付加価値とは…。

 梅津 例えば、ベトナムに進出するお手伝いをさせていただいた企業から「今後はインドネシアに進出するから一緒にやってくれないか」、「次はインドで…」、「次はメキシコで…」といったお話を頂く。長年にわたって一緒に海外進出を支援していると、「ベトナムでの経験を活かしてインドネシアではこういった形でやってみましょうか」といったご提案ができるなど、各国事務所が単体では決してできないアドバイスがある。私自身も長年にわたり、数カ国で事業展開されているお客様を多く支援している。

――この度、タイ現地法律事務所を統合される背景は…。

 松村 産業集積地であり、日本企業が集中している当地タイにニーズがあると踏んだからだ。日本企業の裾野が広がっており、日本語・日本法だけでなく、タイ語・タイ法のニーズも拡大している。そうしたなか、我々日本の弁護士とタイの弁護士、日本人とタイ人と一緒に協力してサポートしていけると考え、統合を決定した。もちろんタイだけにフォーカスするわけではなく、従来通りお客様のニーズがある国でフルにサポートさせて頂くといったスタイルは継続する。たとえば、ヤンゴンでは国の成長性に加え、現地に完全に依存できる法律事務所が稀有であることも手伝い、我々にとってはチャンスだと考えている。

――周辺諸国への進出はどう考えているのか…。

 松村 まずミャンマーだが確実性がある市場ではないため、不透明なことは多々ある。ただ、ここ数年で法律インフラの整備がかなり進み、彼ら自身も透明性・確実性が投資を呼び込むことをよく理解している。そういった意味で一時期の過熱した雰囲気はないが、「この企業を買収する」、「ここの工業団地に進出する」といった具体的かつ堅実的なプランが増えている。ベトナムはタイやミャンマーとは異なるチャンスがあると考えている。確実にベトナムでのサポートをしてほしいという要望も継続的にあるので、今後は現地拠点を設置するのか、統合や提携という選択肢も含めて検討を進めていく可能性は十分にある。他方、成長著しいフィリピンも視野に入れている。近年で最もお客様ニーズが高まっている国の一つであり、更なるサポート体制の強化も検討している最中だ。

――東南アジアやインドが重要地域だと…。

 松村 地理的な近さや文化の近さといったことからお客様からの問い合わせや具体的な案件が多いことは確かだ。ただ、より先のことを考えると、ロシア、中東、中南米、アフリカなどのその他の新興国は、近い将来、同じようにお客様のターゲットになると考えている。もちろんアフリカに対する関心は東南アジアに対する関心と必ずしも同じレベルではないが、我々に日々寄せられるご相談に照らせば、我々としては準備を進めなければならないと考えている。

――企業が海外展開するうえで日本政府の役割をどう考えているのか…。

 梅津 昨年も独立行政法人中小企業基盤整備機構のプロジェクトで海外進出のリスクマネジメントガイドブックの策定などに取り組んだが、特に新興国の進出に際しては、現地の許認可等が問題になる場合が多い。そういった時には現地の日本大使館や領事館、外務省も一緒になって交渉してもらうといった支援をお願いできるとありがたい。また、TPP等の国際的な取り組みが進んでいるが、それだけで日本企業の海外進出が成功するわけではなく、日本企業が成功していくためには、官民一体とならなければいけないと考えている。

――法律事務所の国際化に必要なことは…。

 松村 国際化という観点から言うと、単に拠点を増やすだけでなく、日本発の法律事務所のプレゼンスを上げていくことが課題だと思っている。国内では大手総合法律事務所ができ上がり、それほど歴史が長いわけではないが、日本の産業界や政府内に一定のプレゼンスは確立できていると考えている。しかし、国際社会からみた場合、日本の法律事務所のプレゼンスはまだまだ十分に認知されていない。今後、国際社会の中でのプレゼンス、影響力を持った器を兼ね備えたうえで、お客様をサポートできるようにならなければならない。そのための努力の余地は大きく、そのための努力は惜しみたくないと考えている。

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