金融ファクシミリ新聞社金融ファクシミリ新聞

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「ブロックチェーンは非金融にも拡大へ」

インフォテリア代表取締役
ブロックチェーン推進協会 理事長
平野 洋一郎 氏

――貴社の特徴は…。

 平野 当社はソフトウェアの開発・販売などに取り組んでおり、特徴としては受託開発をパートナーに任せ、自社では一切行っていないことが挙げられる。受託開発は確かに規模が大きくなりやすく、自前の製品を販売するより売上額が一桁は大きくなるが、特定の顧客との関係性を強くしすぎると、将来的に経営の自由を失い、海外に打ってでるなどの大胆な動きが難しくなると考えている。独自開発により高い営業利益率も確保しており、16年3月期の営業利益率は19.6%となった。足元では主力商品のシステム連携ソフト「アステリア」や、クラウドサービスを活用した「ハンドブック」の売上も伸びており、業績は順調に伸びている。2016年度から3年間の中期経営計画も発表し、当面は業績も好調と見込んでいる。

――貴社のこだわりは…。

 平野 創業当初から世界に通用するソフトウェアを開発・提供することを理念に掲げてきた。社名のインフォテリアは、「インフォメーション」と「カフェテリア」を掛け合わせたもので、インターネットの普及によって情報が溢れる世の中で、カフェテリアのように、必要な情報を自ら選び、的確に活用できるような環境をソフトウェアによって生み出したいという志が命名の理由だ。また、当社のコーポレートカラーは緑だが、これは私が21世紀を代表する色と考える「緑」を象徴とすることで、当社も21世紀を代表する企業になろうという気持ちを込めている。当社の設立は21世紀直前の1998年であっただけに、当初から21世紀への思い入れは強く、21世紀は「自律・分散・協調」の時代とのイメージも持っていると考えた。

――ブロックチェーン推進協会(BCCC)を設立された…。

 平野 ブロックチェーン(BC)はただの流行に終わらず、社会にとって当たり前の基盤的な技術に成長すると確信したのが設立の理由だ。事務局の運営などの負担もあるが、今業界内でリーダーのポジションを確保することが、将来的な業績拡大に繋がると考えている。BCは現在話題の種だが、まだまだ黎明期で、市場はいわば先物買いをしている状況だと考えている。普及には時間がかかるが、業界内で協力し合うことで、BCの未来を切り開きたい。

――BCによって世界はどう変わるのか…。

 平野 世間一般に言われている影響については、そもそものBCの始まりであるビットコインが分かりやすい例だ。ビットコインは2009年に運用開始されて以来、中央管理者が存在しないにも関わらず、1度もシステムが落ちることなく信頼を勝ち取り、世界中に広まってきた。この革新性と堅牢性を金融にも活かそうというのが、今言われているBCの活用法だ。これまで、金融取引は銀行や証券、取引所のシステムを用いて行われてきたが、このシステムはスピードと堅牢性を実現するため、場合によっては何百億円という巨額の資金を投じて整備されてきた。構築のために多大なコストがかかるだけでなく、保守のためにマンパワーが必要で、データの間違いを検査するため第三者による監督の仕組みも不可欠と、極めてコストの高いものだった。しかし、BCはその性質上、特別に高コストな構成は必要なく、管理者も監査も不要であり、何百億円もの投資なしに、より安全な取引を実現できる。

――世の中を変える技術だ。

 平野 その通りで、金融サービスの運用コストやサービススピードが劇的に変化するだろう。アメリカではすでに金融界そのものに変化が現れており、ウォールストリートとシリコンバレーが対決するような状況になっている。これまでウォールストリートが何億ドルというコスト、何千人もの人を投じて行ってきた事業を、100名いない程度のシリコンバレーの新興企業がやってのけるようなケースもみられており、熾烈な生存競争が始まっている。誰が勝利するかは分からないが、いずれにせよ勝者はこれまでにないサービスレベルの提供とコストの削減を実現できた者であるのは間違いなく、いずれ日本にも進出する日が来るだろう。その時、日本の金融機関が現状のまま高い手数料を徴収し、T+3(決済日が約定日の3日後)といった「遅い」決済を続けていれば、いずれ淘汰されることになり、これまで通り日本も外圧によって変化することになるだろう。この大きな変化のコアとなる技術がBCだが、実はここまではBCが作り出す社会の変革の第1段階に過ぎない。

――第2段階とはどのようなものなのか…。

 平野 ポイントは、「データの改ざんができない」「ダウンタイムがない」などのBCの特徴は金融だけではなく、製造や流通、公共に医療など、より幅広い産業にも活用できることだ。現行のデータベースは、いくらセキュリティを強化しても、管理者権限さえあれば情報の改ざんは可能で、だからハッカーも管理者権限の奪取を狙ってきた。管理者自身がデータを改ざんするケースも散見されているが、BCを用いれば簡単に安全性を担保することが可能だ。例えば流通ではトレーサビリティはBCを使えば、それだけで信頼性を担保することが可能になるし、製造業などで検査検証データの改竄不正を防ぐこともできる。コスト的にも、従来の高価な構成は必要なく、クラウドを活用することで、一日数十円で利用が可能だ。信頼性についても、コンピューターが絶対に壊れないことを目指している現行の仕組みと違い、コンピューターは壊れることを前提に分散してリスクを抑制しているため、むしろ現状よりも信頼性は高くなる。

――いいこと尽くめだ…。

 平野 更に、BCのいくつもの特徴は、契約にも応用できる。スマートコントラクトと呼ばれる概念だが、例えばデジタルな契約書にプログラムを組み込むことで、人間を介さずに自動的に契約履行させることが可能となる。例えば、「この会社にいつまでにこれだけお金を振り込む、振り込まれたら成果物を特定の場所に提出する」といった具合だ。ただ、これは極めて発展性が高い技術ではあるが、実用化はまだ先で、まずはBCは決済や融資、送金といったイメージしやすい分野で導入されることになるだろう。そうなればBCに適した領域の金融業の技術的な参入のハードルは画期的に低下しよう。しかし、当社としては直接金融業に参入する考えはなく、あくまでもテクノロジープロバイダーとして参入するための技術を提供していく考えだ。いわば、ゴールドラッシュの時代におけるスコップ販売会社のようなポジションだと考えている。

――金融業に革命が起きる…。

 平野 実は日本で果たして革命が起きるのかどうか、不安に思っている。フィンテックは日本では金融IT革命と訳されているが、本来「革命」とはプレーヤーが代わることだというのが私の定義だ。実際、アメリカでは従来の金融業務を新興企業が乗っ取るといったプレーヤーの交代が起きているが、日本では大手企業と新興企業が協力し合っているため、革命にならない可能性がある。その場合、日本のフィンテックは大手企業に役立つような形にしか発展できず、インパクトが限定的になってしまうかもしれない。実際、日本で大手金融機関が脅威に感じているような新興企業は恐らく存在しないだろう。これは法律的に金融業が守られていることに加え、日本ではスタートアップ企業に資金が集まりにくいことが原因だろう。ただ、国内に脅威がなくとも、国外からいずれフィンテックを活用した企業が日本に乗り込んでくることは間違いなく、今後5年程度で金融業のありようは大きく変わってくるはずだ。色々な銀行の業務が解体され、融資や送金が別々の企業によって行われることが普通になっているかもしれない。

――資本市場はどうなるのか…。

 平野 現在の資本市場には手数料と決済日の問題があり、どちらもBCで改善できるため、その仕組みは一変するだろう。ただ、日本の場合、できることと実際にやることが違うのは普通であるため、変革には時間がかかるかもしれない。これは、現在のシステムが何百億円と投資されているものであるため、既得権益が大きいことや、既に動いているシステムがあるため、すぐにBCを導入するわけにもいかないためだ。そこで当社では、そういったしがらみがない新興国で実証実験を行っており、例えばミャンマーではマイクロファイナンスにBC導入の実証実験をした。新興国は先行のシステムがないために革新的なものを導入することは容易で、非常に面白い。アフリカでは電話線が引かれていない地域で携帯電話が普及するような光景が見られているが、それと同じような技術の一足飛びが金融業でも起きるだろう。

――行政の対応が肝心だ…。

 平野 金融庁はフィンテックを推進する立場を強く押し出しているが、これは日本の金融業の変化を後押ししており、いい意味で効果が出ていると思う。どうしても金融業は保守的になりがちだが、金融庁が旗を振ることで、誰もが何かをやらなければいけない状況になっており、それは日本の金融業にプラスになっていると思われる。ただ、今後フィンテック版グーグルのような革新的かつ国際的な企業が登場した際、政府がそうした企業にどう対応するかは難題となるだろう。私としては、規制で対応するよりは、むしろ日本でそうした革新的企業が誕生する可能性を高めた方がいいと考えている。

――今後協会ではどのようなことを行うのか…。

 平野 最も意識しているのは、BCの普及に力を入れることだ。実はよく誤解されているが、日本のBC技術は決して他国に遅れていない。弊社のミャンマーでの実証事業は世界で初めての試みだし、その他にも日本企業が世界初の技術を実証実験として取り組むケースはいくつもある。問題は普及の方で、こちらは確かに世界的に見て遅れている。当社がBCの講演会を開催してみると多くの方々にご参加頂けるものの、その中で実際にBCを導入しているケースは皆無だった。そこで協会では、普及や実装の啓発に力を入れるほか、各社間での情報共有に取り組んでいく考えだ。例えばBC大学院を開設して会員の知見を深化・共有したり、実証実験を行ったりして、そのノウハウを外部に公開していきたいと思っている。往々にして、世界を変えるのは大手企業ではなく、技術や志を持った中小企業だが、同時に中小企業ではやれることに限界があるのも事実だ。そこで協会ではそうした企業の連携を促進し、力を結集して世の中を変えていきたいと考えている。

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