金融ファクシミリ新聞社金融ファクシミリ新聞

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「マイクロFを通じ、ASEAN進出」

マルハン 独立社外取締役
サタパナ銀行 社外取締役
石村 満 氏

――カンボジア初の日系商業銀行設立の背景は…。

 石村 マルハンは古くより青少年のために野球場施設を作るなど地域社会に常に積極的に貢献してきた。その一環で、カンボジア社会に貢献するため、2008年5月に現地専門銀行を買収し、その後、商業銀行にスケールアップしてマルハンジャパン銀行を設立、このヴィークルの投融資を通じて社会貢献をしてきた。しかし、銀行も利用できない低所得者が多い同国では商業銀行よりもむしろマイクロファイナンスのほうが馴染みやすいため、2012年12月にスモールファイナンスに強みを持つサタパナ社を買収した。買収後同社の金融事業は、預金・融資とも伸び率が年率50%前後の勢いで、非常に好調を維持している。その後、サタパナ社の優秀なマネジメントを高く評価し、同国の成長に伴い金融業務をさらに拡大するため、今年3月28日にサタパナ社とマルハンジャパン銀行を合併させ、4月1日より新たな商業銀行としてサタパナ銀行が業務を開始したところだ。カンボジアでは現時点で日本のような大口の融資を中心とした商業銀行業務や貿易金融を行うには我々の規模では難しく、また現在日本から派遣している銀行経験者では残念ながら与信管理能力も不十分で、現地社員への教育も足りていないことから、英語も流暢に話せる現地の優秀な幹部社員を中心に活用する銀行に衣替えした。もともと彼ら現地のスタッフはNGOからスタートしたマイクロファイナンス経験が豊富で、またバングラデッシュとは違った独自のシステムノウハウを持ち、十分に統率能力もあった。モチベーションを最適化することで非常に良くハーモナイズしている。この優秀なカンボジア人を活用し、安定した雇用を促進し、独自の銀行業務をより組織的に統率していくことで、新生サタパナ銀行は、発展途上のカンボジアにおいて大いに社会貢献してくれるものと期待している。カンボジアのマイクロファイナンス市場は今後競争が激しくなるものの、まだ5年以上はこの勢いで成長が見込まれる。

――日本と比較してかなりの高金利だ…。

 石村 ラオスやミャンマーなど発展途上国においては、低所得者が金融市場へアクセスすることは非常に困難なことから、身内などから高利で金を借りたりしていたのが現状のようだ。高利貸しのなかには年率1000%で貸し付ける者もいたようで、未だに年率100%の業者が普通に存在している。それに比して、マイクロファイナンスの金利は低く、しかも生活資金というよりは、仕事のための工具を買う目的で貸し出すというように、借りた人が収益を生み出すための資金を提供し、そのために行員が貸し出す過程で教育指導も、経営指導もしている。カンボジアについて言えば、今後数年はGDP7%台で成長が続くと予想され、生活水準の向上に伴い、金利のスプレッドも縮小していくことは容易に想定される。ただ、現時点での金利は平均15%から20%程度で、貸し倒れも0・2%台で健全に推移している。地方都市を中心に貸したお金で新たなビジネスを生み、そこから得た果実から返済をしていける生活の好循環をサポートすることが使命だと考えている。

――カンボジアの銀行業界と今後の行方は…。

 石村 サタパナ銀行は支店数で現在カンボジア全土に160、カンボジア第2位の商業銀行になった。預金残高は440億円、融資残高650億円、資本金130億円、総資産はまもなく1000億円になる。従業員3380人で、預金者14万人、融資先11万人といった業容だ。国内最大手商業銀行はアクレダ銀行で、マイクロファイナンスでもトップクラスの実績を持っている。オリックスや三井住友銀行の出資を受けていることでも知られている。アクレダ銀行もサタパナ銀行と同様にNGOから始めた銀行で、現頭取はポルポト政権時代に亡命した経験を持ち、草の根運動から始め、貧しい人達に融資を開始し、国内最大手銀にまで急成長した歴史ある銀行の一つだ。他方、マイクロファイナンス専業ではプラサック社が傑出している。同社を含め現在、マイクロファイナンス機関(MFI)は48社存在しており、日本からもイオンやクレディセゾン出光、さらに三菱UFJ銀行もタイの子会社であるアユタヤ銀行を通じてハッタ・カクセカ社を買収し、市場参入を果たすなど競争はますます厳しくなっている。他方、先月3月22日に中央銀行が最低資本規制を強化したことで、市場が健全に整備されることを期待している。今後2年以内に最低登録資本金を引き上げるよう通達が発せられ、商業銀行は現行の倍の7500万ドル(80億円)への引き上げ、またこれまで700万円程度持ち込めば設立出来たMFIは1億7000万円への引き上げを求められることとなった。財政基盤が脆弱な金融機関の淘汰が始まり、グローバルスタンダードに適合しない「金融機関」の排除に政府が本腰を入れたと見ている。

――カンボジアの金融市場はグレーなイメージがあるが…。

 石村 他の多くの国と同様に北朝鮮と国交がある。資金が還流しているとして、マネーロンダリングなどグレーなイメージが強かったが、あらためてサタパナ銀行の社外取締役を拝命し、中央銀行総裁やその周辺幹部との意見交換、さらに国の政治姿勢を見れば、ASEAN経済共同体の主要メンバーとして、グローバルスタンダードへの積極的な取り組み姿勢が見られる。特にリスク管理やガバナンスなど銀行行政を強化するなど、先進国の良いところを速やかに取り込む姿勢が評価でき、ASEAN域内での金融の自由化に向け、今後早いピッチで国際社会で評価されるようになると予想している。

――ASEANの他の国への進出は…。

 石村 ASEANの中で、すでにミャンマーとラオスに進出している。ミャンマーについては、特にグローバルスタンダードの点で法整備が遅れており、MFIの監督機関は中央銀行ではなく、かつて自身で直接マイクロファイナンスをやっていた名残で財務省となっている。同省の下にある金融監督局で管理され、MFIを始める企業の申請に基づき営業管区が決められ、現行の上限金利30%の中で各社市場を開拓しているのが現状だ。また外資系企業には現状資金調達に厳しい制限が課され、容易に事業の拡張はできないが、人口数や潜在的経済状況を勘案すれば、明らかにミャンマーは今後も継続して投資する市場だ。一方で、ミャンマーでのMFI設立が容易なことから、国内には現在、250社超が乱立している。今後5年から10年のレンジで、新政権は、カンボジア同様MFIを活用した農村地区の活性化を促す一方で、法を整備し規制強化とのバランスの中で舵取りが行われるものと予想している。

――今後の事業展開の方針は…。

 石村 弊行の事業戦略は今後もASEAN域内で、MFIを中心に拡大していく方針だ。日本人主導では無く、先ほども述べたように現地の優秀なマネジメントを活用して国際化に対応していくことになる。弊行には同国のマイクロファイナンス協会の協会長でもあるブン・モニーCEOを筆頭に優秀な人材が揃っていることから、あくまでも現地人主導の事業展開を我々社外取締役が委員会を通じてサポートし、MFIを中心に安定した収益基盤を作っていくつもりだ。大手金融機関と資本も含め共働していくことも今後の課題だ。また、個人的にはゴールドマンサックスやJPモルガン、豊田通商などが積極的に取り組み始めているインパクト投資に注目している。同ファンドは社会貢献・ボランティアとは異なり、投資家から集めた資金で、例えばアルジェリアの砂漠の緑地化や農業推進などに投資し社会貢献できる持続可能な事業投資だ。持続性を保ち、かつ利益を上げる事業への投融資にも銀行として取り組んでゆけたらと思っている。同ファンド規模は2019年には5000億ドル(50兆円)まで拡大すると見込まれている。

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