金融ファクシミリ新聞社金融ファクシミリ新聞

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「インド、改革次第でより高成長」

日刊インド経済
編集長
山崎 俊雄 氏

――インド経済の状況は…。

 山崎 昨年の11月に発表された15年7~9月の経済成長率は前年同期比7.4%増で、主要国では世界最高の水準だった。高い人口増加率に支えられた消費の拡大に加え、海外に比べて旺盛な投資が経済成長をけん引している。投資については、貯蓄不足で投資を賄いきれない面もあり、現政権は外資の投資誘致にも力を入れている。12億人という巨大な人口が生み出す内需の強さも成長の原動力だ。一方、インフレ率は低下傾向にはあるものの、最新の15年12月分の消費者物価指数は前年比5.61%増となっており、他国と比べると比較的高い状況が続いている。

――伸びている産業は…。

 山崎 GDP統計をみると、成長率が最も高く、寄与度も高いのはサービス産業だ。具体的には金融業や通信業、商業などの伸びが著しい。他国の場合では、農業から製造業、製造業からサービス業へと産業が発展するのが普通だが、インドの場合は歴史的経緯もあって以前からサービス産業が強い。この原因については様々な研究があるが、基本的には1991年の経済改革以前の産業への厳しい規制が製造業の伸びを抑えてきた一方、サービス業は新しい産業であったため、規制の枠外だったことが大きいようだ。また、高等教育が重視されている一方、初等・中等教育には比較的予算が配分されていないインドの教育システムもサービス産業の進展と製造業の伸び悩みの背景になっているとの見方もある。これは、IT業や金融業に必要とされる高等教育を受けた人材は豊富な一方、必ずしも高等教育が必要ではない工場現場に従事する労働者は集まりにくいためだ。ただ、製造業の方が雇用を創出するため、現在政府は製造業の振興に力を入れている。

――製造業発展の課題は…。

 山崎 厳格な労働者保護が産業発展を阻害しているとの見方は強い。例えばインドでは、100人以上を雇用する工場は、たとえ不況になっても容易には労働者を解雇できない。このような規制が大工場の設立を妨げる要因になってきた。モディ政権もこうした問題は把握しており、段階的に規制緩和に乗り出しているが、インドは連邦国家であるため地方の権限が強く、いくら中央が改革を進めようとしても、地方が追従しない限り効果は薄い。

――日本企業の進出状況は…。

 山崎 日本企業もインド市場の潜在力に注目し、力を入れ始めているが、インドで事業を成功させるのは正直にいって難しい。複雑な法制や税制を乗り越え、事業を軌道にのせるには手間も時間もかかる。また、少し抽象的になるが、日本人とインド人の国民性が大きく違うことも障害になっているようだ。よく言われるのは、インド人は議論を好み、自己主張が強いという傾向で、そんな彼らを監督するのは骨が折れる。工場では大量に雇用しなければならないからなお更だ。大量に雇用する場合はインド人の中間管理職も必要だが、出身や民族、宗教の違いを受け、そうした管理職と一般労働者の間で揉め事が発生する場合もある。インドは民主主義国家なので、政治的な意思決定にも時間がかかることも進出の障害だ。

――進出が成功している産業は…。

 山崎 やはり自動車産業が一番目立つ。乗用車市場で最大シェアを誇るスズキ以外でも、トヨタやホンダの四輪車と二輪車は大きなシェアを獲得している。また、消費財でも日本ブランドに対する消費者の関心は強い。食品関連では、例えば日清のカップヌードルは人気商品だ。加えて、インフラ開発も需要が強いため、日立や東芝、三菱電機といった電機メーカーなどのインフラ関連企業は現地で存在感を増している。

――今後の投資環境は…。

 山崎 外資企業の参入規制は、小売や金融、軍事関係といった敏感な部分を除けばほぼ自由化されている。問題は税制で、ちょうどインドでは経済改革の目玉として物品サービス税の導入論議が進んでいるところだ。現在インドでは国、地方がそれぞれ間接税を課しており、税制が入り乱れて複雑になり、企業や消費者にとって高コストとなっているうえ、単純に手続きも煩雑だ。国内で商品を移動させるだけでも、様々な納税義務が発生し、ビジネスの障害になっており、そのためにインドでは現在全国的な市場が形成されていないのが実態だ。物品サービス税はそうした多くの税金を一つに統合することを狙いとしているが、そのために必要な憲法改正は野党の反対に会い、国会の反対で進展していない。もし成立すれば環境が大きく変わるため、いつ実現するかは、インド経済や進出企業にとって大きな注目点だ。

――その他のポイントは…。

 山崎 インドでは税務当局が、外資系企業や外国投資家から様々な口実で税金を徴収しようとするケースがしばしばみられている。これは税法の恣意的な運用のためであり、外国企業が進出をためらう理由の一つとなっている。現政権はそうした恣意的運用を自制するとしているが、どれくらいの時間でそれが実現するのかが問題だ。その他にも労働法改正など、課題は山積している。世界銀行が発表しているビジネス環境のランキング(Ease of doing business)によれば、インドの順位は全189カ国中130位と、上昇傾向にあるとはいえ、まだまだ低い。いくらインドが大国といっても、企業を更に誘致するにはこうした状況の改善が必要だ。

――今年の見通しは…。

 山崎 一言でいえば、やや明るいとみている。今年もインドは主要国では最高水準の高い成長を実現するだろう。ただ、中国を始めとした国外の環境は悪化しつつあり、世界経済への統合が進んでいるインドも影響は免れない。例えば輸出は14年12月分から前年割れが続いている。これはインドの輸出に占める石油製品のシェアが大きいため、原油安の煽りを受けている部分も大きいが、その他のインド製品への需要も伸び悩んでいる。輸出が伸びなければ製造業の設備稼働率が上昇せず、設備稼働率が低いと、投資が進まない。投資については、国内銀行の不良債権が増加しつつあり、銀行が貸し出しに慎重になっていることも押し下げ材料になっている。インドでは直接金融が発展していないため、こうした銀行の姿勢が強まれば、資金の流れが滞ることにもなるだろう。株式市場についても、外国投資家の存在感が大きいため、彼らがリスク回避選好を強めると、株価は大きく下落してしまう。インフラが不十分であることも課題だ。しかし、これらの問題はモディ政権が改革を進め、インフラ開発に力を入れていけば、ある程度改善が可能だ。現状の7%超の成長は十分に高いが、改革が実現すれば、インドの潜在的実力に相応しいより高い成長が実現するだろう。

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