金融ファクシミリ新聞社金融ファクシミリ新聞

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「AI、広い分野で人間に代替」

データセクション
代表取締役社長
澤 博史 氏

――AI(人工知能)記者による記事執筆を実現した…。

  中部経済新聞社の創刊70周年の企画として技術提供をさせて頂いた。技術的には統計的機械学習と自然言語処理を用いており、客観的な事実とパターン性がある内容であれば既に十分にAIが執筆可能だ。たとえば野球に関する勝敗データやプレーに関する記事や、株価や為替が上下したといった記事がそれにあたる。一方で、コラムや社説など、書き手の発想力が問われる創造性のある記事は現時点では大変難しい。あるものをテーマにして記事を書く時、そのテーマをどのような視点で捉え、どのような方向性で書くかは執筆者次第だが、そうした判断をAIは苦手としている。今回の70周年企画の記事は、中部経済新聞社の歩みをまとめたものであるため、統計的なパターンをもつ一方で時事的な流れから新しいメッセージを構築する必要がある部分も多かった。このためやや苦手な分野だったが、自然言語処理で補うことで記事執筆を実現した。

――AIはどのように執筆するのか…。

  過去の文章データを用いて、傾向を分析することで文章を組み立てている。何かキーワードを入れれば、その言葉に近い文章をデータベースの中から参照して執筆を行う。ただ、自ら何を書くかを判断するのは現状では難しく、テーマ設定自体は編集長などの人間の関与が必要だ。逆に言えば、テーマ設定が不要の文章は今でもかなり対応できるため、もしかすると、新聞記事のうち、感情が必要でない部分は近いうちにAIがほとんどを担うようになるかもしれない。

――なぜそのような技術を持っているのか…。

  2000年7月の創業以来培ってきた、インターネットに存在する膨大なデータを扱う技術を応用している。我々はAIという言葉が一般的でなかった時代から、言語をコンピュータに処理させる自然言語処理や大量のデータをコンピュータに学習させる機械学習といった分野に取り組んできた。我々は特に言葉の相関関係の分析に強みを持っており、AI記者もこの強みを活かした。応用として、金融、セキュリティ、マーケティング、自動車などの領域でシステムを構築・運用している。

――どのように運用するのか…。

  金融の事例では、”ビッグデータファンド”と呼ぶファンドの基盤システムを運用している。例えばどこかで自然災害や爆発事故が起これば、その地域と相関関係の高い企業をピックアップして売却したり、政府が特定の産業を支援する政策を打ち出した場合は、その産業に関連する企業を瞬時に選別して投資したりする。また、新商品に対する消費者のソーシャルメディア上での評価を、過去の事例を参照して分析し、企業業績への影響を予測することもできる。現在の資産運用業では、ファンドマネージャーが自身の経験に照らして売買を判断しているが、将来的には同様のことをコンピュータが学習する有効な手法を開発して、質の高い運用を行っていきたい。どうしても人間は判断に私情が入るが、コンピュータの確実な再現性を使えば、常に偏りのない判断を行うことが可能だろう。ただ、課題がないわけではなく、未経験の事態にAIは強くない。例えば2016年は年初のチャイナショックに翻弄されてしまった。このため、運用実績は今のところ人間と比べて飛びぬけて良いわけではないが、去年もGoogleの囲碁AIが世界最高のプロ棋士相手に勝利を収めたように、AIはより複雑な状態・環境に適用できるように年々進化している。いずれ運用成績でも人を上回り、AIが数百兆円もの資金を動かす時代が来るだろう。

――貴社は画像認識技術も保有している…。

  これも統計的機械学習を活用したもので、深層学習も含まれる。具体的には会社や学校、スマートフォンなどで利用される不適切画像のフィルタリングサービスとして提供しており、高い評価を受けている。仕組みとしては、学習した不適切画像フィルタリングのモデルを使って、インターネット上での画像の不適切度合いを評価させている。肌の露出が多くとも不適切とは言えない相撲の力士の取り扱いなども学習させることで正確に判断することが可能だ。弊社ではシリコンバレーの米企業にも負けない世界最高水準の精度のサービスを提供している。

――機械学習の応用範囲は広い…。

  その通りで、機械学習の応用範囲はさらに広がりを見せている。マーケティングはもちろん、たとえば自動車の自動運転や、ホームセキュリティにも応用が可能だ。例えば自動運転では、ブレーキサポートの仕組みは既に実用化されている。防犯分野では、画像フィルタリングの技術を応用して、特定の条件を満たした人物を不審者として自動的に通報するようにすることもできるだろう。例えば、包丁を持っていたり、顔の露出が極端に少なかったりした場合に通報するようなことが考えられる。また、海外では、農作物や土壌、過去の降水量等のデータをAIで分析し、各農家の生産量を予測し、返済能力をスコア化することで、インドで融資の返済率を高める試みも検討しており、将来的には汎用的にマイクロファイナンスのようなビジネスが行えないかと考えている。

――人間に可能なことは既に大部分がAIにも可能なわけだ…。

  その通りで、経験的な勘・多人数で解決していた問題は置き換わる可能性が高い。例えば企業の財務情報や社長のソーシャルデータを分析することで、財務の健全性を測定する与信判断の代行のような作業も可能だ。銀行は与信判断を行うのに多大なマンパワーを費やしており、融資希望者のすべてを細かく見ることはできないのが現状だが、AIを活用すれば人間の力を総合的な判断にシフトして、より幅広く融資を検討することができるだろう。我々自身も融資が行えないか検討しているところだ。さらに将来的にはブロックチェーンなどを活用して金融の構造が変化し、個人単位での融資が自由に行える時代が訪れ、銀行などの既存の金融機関は姿を変えることになるだろう。

――むしろ人間よりAIの方が優れている面もある…。

  大量のデータを記憶したり、検索する能力はしばらく前からコンピュータのほうが人間より得意であった。最近は高い専門性を持つ業種でも、AIが優位性を示す事例は散見されている。例えば飛行機の操縦では、AIがベテランパイロットよりも優れた結果を示すなど、ある面では既にAIは人間に勝っている。確かにイレギュラーやつじつまを合わせることには弱いが、人間も過去の経験に基づいてイレギュラーに対応するのだから、その経験を機械に学習させればいずれ問題を克服できるようなブレイクスルーが訪れると思われる。医師についても、診察という役割についてAIが活躍するかもしれない。これは医師が自身が習得した知識と経験に基づいてしか診察を行えないのに対して、AIは個人では経験が不可能な大規模データベースを参照して診察を行えるためで、珍しい症状のために転院を行う必要もなくなるかもしれない。将来的にはCTやレントゲンの画像データをAIが分析し、診断サポートすることも可能だろう。

――今後の課題は…。

  AIの弱い部分を補っていくことが最も重要だ。他社との競合については、市場も各社が保有している技術も様々に異なるため、さほど意識はしていない。むしろ協力体制を敷くことで各社の強みを生かし、世の中を良くしていきたいというのが本音だ。例えば自動運転も各社が異なるアプローチで取り組むことで、全体としての技術が向上している。一方、行政の在り方については、悩ましいところがないわけでもない。先進国は一般的に個人情報保護に関して非常に厳格だ。こうした情報が入手できない環境はAIが学習できず、進歩が頭打ちになってしまう部分がある。もちろん個人の権利を守ることは重要だが、技術の発展との間でジレンマがあることは否めない。対照的に、途上国は規制が緩やかで技術の発展が優先される傾向が強いうえ、広い分野で専門家が慢性的に不足しているためにAIの必要性が高く、技術的にAIが成長しやすい環境といえるかもしれない。

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