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「会社法の定期的な見直しを評価」

栗原脩法律事務所
弁護士
栗原 脩 氏

――2月9日の法制審議会総会で会社法の見直しが諮問されたが、その背景は…。

 栗原 会社法は平成26年に改正され、平成27年5月1日に施行された。その改正の附則では、社外取締役に関する問題について施行後2年が経過したところで検討すると規定されている。そのこととの関連で、このタイミングで法制審議会への諮問が行われることとなったのであろう。また、安倍内閣が掲げる「日本再興戦略」で、ディスクロージャーの在り方や株主総会招通知に添付する書類の電子提供などについても見直すとされており、この点も今回の諮問の背景となっているとみられる。法制審に会社法制部会が設置されて審議が行われる。

――今回の会社法見直しの動きに対して、どのようにみているか…。

 栗原 会社法は商法から切り離されて平成17年に独立の法律として制定され、平成18年5月に施行された。その後は、本格的な改正が行われなかった。以前の商法の時代、特に平成10年代には頻繁に改正が行われたことを考えると、対照的な動きだ。これは、会社法になって会社の選択の幅が広がったことが大きい。まずはいろいろな選択肢をどのように使いこなすかに力点が置かれた。また、実務が新しい法律に慣れるまでに時間を要したという事情もあると思う。その後、野党当時の民主党に「公開会社法」の構想があり、その流れもあって民主党政権成立後に千葉法相によって会社法制の見直しが諮問され、法制審会社法制部会で審議された。実際には改正法案は、自民党政権の下で国会に提出されるという経過をたどり、平成26年6月に成立した。前回改正法施行から2年弱という比較的短期間の後に今回の諮問が行われたわけであるが、附則の見直し規定の存在という事情は申し上げた通りである。また、一般的にいって、会社法のような法律については、実務の変化や技術進歩などに応じて定期的に内容を見直し、新たなニーズを拾い上げていくプロセスが必要である。おおむね2年~4年程度の間隔で定期的にチェックを行うことが望ましい。こうした観点からも、今回の見直しの動きは評価したい。

――社外取締役の設置義務付けが注目されているが…。

 栗原 会社法は、上場会社等に対して、社外取締役の設置を直接的には義務付けておらず、設置していない場合に理由を株主総会で説明をするという規定になっている。この327条の2については、法制審の要綱にはなかった点であり、与党自民党内の検討の過程で付加されたものである。また、あわせて附則に2年後の検討条項が定められた。改正法施行後の会社の取り組み状況を見定めようという趣旨である。実際には、改正法の制定後、「コーポレートガバナンス・コード」が策定され、2015年6月から適用されたこともあり、社外取締役を設置する会社は確実に増加してきている。また、そもそもこのテーマは、個々の会社がその実情にあわせて柔軟に対応するためには、法令、すなわちハードローで細かく規定するとかえって不都合な面があり、上場規則のようなソフトローの方が適しているといえる。制度の立て方として、現在のような方式をとることにあまり違和感はないのではないか。いずれにしても法制審議会では、近年の状況変化を踏まえ、審議が進められることになろう。

――株主提案権が焦点の1つになるという見方もあるが…。

 栗原 株主提案権の在り方は、今回の見直しにおいての大きな論点の1つになるとみられる。株主提案権は昭和56年改正で新設されたものであり、いわゆる総会の形骸化、あるいは総会屋の跋扈などの問題を受けて、本来の株主総会の機能を取り戻すための仕組みの一環として導入された。1人の株主が提案できる議題の数に制限がないこともあって、一部の会社では取るに足らない些末なことまで定款変更の形での株主提案が寄せられており、会社側ではその対応に苦慮している。枝葉末節な提案に貴重な時間や会社サイドの準備のためのエネルギーが費やされることは、全体としての株主の利益を損なうことにもなりかねない。ただ、少数株主の立場を考えると、株主提案権の行使にあまり制約をかけるべきではないという意見もある。この2つをどのように整理し位置づけていくかというテーマだ。この問題を考えるうえのポイントの1つは、誰が株主提案権への対応に要する会社のコストを払うことになるのかという点だ。コストが増えた分、利益は減少することになるから、最終的には株主の負担となって跳ね返ってくる。全体としての株主の利益という観点からは、会社に大きなコストが発生することは好ましくない。法制審では経済的な合理性を含めて「真に株主のためになること」は何かという観点からの審議が進められることを期待したい。

――法制審議会への諮問事項には、社債の管理の在り方の見直しも含まれた…。

 栗原 社債の管理に関する論点は、大別して3つあるように思う。第1に、会社法では社債を発行する際に原則として社債管理者を設置する必要がある。いわゆる社債管理者設置債である。しかし、各社債の金額が1億円以上の場合などの一定の場合には例外的に設置不要とされている。社債管理者不設置債という。国内の公募普通社債の多くは、この例外の下で発行されている。ただ、社債管理者の設置が必要でない場合においても、社債がデフォルトしたときなどに社債権者保護を図る何らかの仕組みを設けておいた方がよいのではないかという問題意識がある。このような問題に対応するため、昨年夏に日証協のワーキンググループは、社債権者補佐人という制度を設けることを提唱した。これは契約により構築されるものであるが、法律で何らかの手当てをすべきかどうかという問題だ。第2に、社債権者集会の効力発生のための裁判所の認可の問題がある。社債権者集会決議については少数社債権者の利益保護の観点から、集会決議の効力の発生のために裁判所の認可が必要とされている。しかし、社債権者全員が賛成している議案であれば、改めて裁判所の認可を得るまでもないのではないかという考え方が主張されている。第3に、現在の会社法では社債権者集会決議で社債の元本の減免が可能かどうかについて明示的な規定がないという問題がある。社債権者集会では社債権者の利害に重大な関係のある事項について決議することとされているため、元本の減免は「社債権者の利害に関する事項」に含まれるという解釈が有力であるが、その点を明文で規定すべきではないかという問題だ。

――法制審議会の結論を得るまで、どの程度の時間を要するのか…。

 栗原 商事法務研究会が主催する「会社法研究会」があり、学者中心に、産業界や法曹界、さらに法務省の担当者がメンバー、神田秀樹学習院大学教授が座長となって、昨年1月から議論が行われている。その結果は報告書にまとめられるものとみられるが、法制審ではそれを参考にして議論が進められるのではないだろうか。会社法研究会では改正ニーズの所在の把握や理論的な検討が行われているので法制審での審議に役立つことが期待できる。あくまでも予想だが、諮問された事項をみて、審議はそれほど長期間にわたることはないと思う。ただ、今回の諮問事項は技術的な性格のものが多いようにもみえるが、たとえば株主提案権をはじめ株主総会に関連する問題では、株主と取締役会、経営者との関係をどのように考えるかという点を踏まえて議論する必要がある。一見してテクニカルな問題のようにみえても、基本のところをよく考えなければならないテーマが少なくないことに注意をしておく必要がある。

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