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「天下り監視で役人ににらみ」

嘉悦大学
教授
髙橋 洋一 氏

――国会では、文部科学省の天下りあっせん問題が話題となっている…。

 髙橋 私自身がそうであるように、国家公務員在職中に自らのスキルを磨き、役所の世話にならず自分の力で再就職先を探すことは当たり前のことだ。それだけの実力がないのにも関わらず、役所の権限等をバックにして再就職先をあっせんされることは本人にとっても気の毒であり、なぜこのようなことが昔からまかり通っているのかはなはだ疑問だ。現在の天下り規制は全て、第1次安倍政権の頃に私が立案したものだ。私は財務省で退職人事にも関与したことがあり、天下りの実態をよく知っている。天下りの場合、受け入れ先の企業からすれば有能な人材かどうかは二の次であり、なにより重要なのは役所との間にしっかりとしたパイプを持っているかどうかだ。役所から「この人は大丈夫」と紹介してもらえれば、その人に能力が無くとも、企業としては役所から情報や予算などを引き出すためのツールとして安心して受け入れることができる。そこで、以前は退職後2年が経てば役所のあっせんによる再就職が可能だったが、現在の天下り規制では役所による再就職のあっせん行為そのものを禁止した。また、あっせん行為を禁じるのみならず、在職中の部署と利害関係がある先に自らが再就職を依頼することも禁止した。現在の天下り規制のポイントはこの2点で、非常にシンプルだ。

――文部科学省のケースでは、再就職等監視委員会が問題を指摘した…。

 髙橋 再就職等監視委員会は役所によるあっせん行為があったかどうかを監視する組織であり、これも第1次安倍政権の時代に創設した。旧民主党政権時代にこの組織を動かすことも出来たが、再就職等監視委員会の活動により天下りが露呈することを恐れた公務員の要求を聞き、当時与党の民主党は野田政権の最終盤になるまで委員の任命すら行っていなかった。その後、安倍政権において再就職等監視委員会を本格的に稼働させ、問題を洗い出していたところ、最初に国土交通省で、次いで消費者庁でも再就職先のあっせん行為が発覚した。当初は再就職等監視委員会の人員が足りず、あまり深いところまで調査ができなかったが、安倍政権が長期化するなかで徐々に監視委の仕事が回るようになり、今回の文部科学省の事例を発見するに至った。他の省庁でも似たようなこともやっており、今後に行われる一斉調査によってさらに実態が明らかにされるのではないか。

――安倍首相は天下り規制に意欲的のようだ…。

 髙橋 安倍首相は第1次政権時代にも天下り規制に取り組んでおり、特にこの問題には強い思い入れがあるのではないか。また、当時は首相に役所の幹部人事権がなく、リーク等による倒閣運動をコントロールすることが出来なかったことへの反省から、2014年には内閣人事局も創設した。幹部人事権を握り、かつ再就職等監視委員会による天下り調査でにらみを効かせることで、安倍内閣は役人に対するグリップをさらに強めていくと見ている。

――今国会では、野党が森友学園に対する国有地売却を追及している…。

 髙橋 国会では民進党が天下り問題を追及しているが、安倍首相は民進党の前身の民主党政権の取り組みが不十分だったことはよく把握している。また、内閣人事局の創設を含めて自らが天下り規制を強化してきたという自負もあるため、攻撃を全て切り返してしまう。そこで、民進党としては攻撃の矛先を変えようというねらいがあったのだろう。ただ、森友学園への国有地売却について安倍首相による政治的な関与はないと見ている。私自身も関東財務局にいた頃に土地売却案件を手伝った経験があるが、今回のケースでは財務省が随意契約を結び、土地の価格を鑑定評価額で出したことが誤りだ。私であれば、森友学園が土地を買いたいと分かった時点で随意契約は結ばず、敢えて入札にする。入札であれば価格の透明性は担保されるため、そこで売却価格を決めてしまえばよい。しかも、今回は地中にゴミが埋まっていることが発覚して土地価格を割引いたが、それならば再入札をすればよかったというだけの話だ。

――現在の日米関係については…。

 髙橋 安倍首相がトランプ大統領と良い関係を築いていることは、日本にとって何ら不利になることではない。トランプ氏が海外首脳に面会した順番としては、安倍首相は英国のメイ首相に次ぐ2番目であり、日本の首相でここまでの好待遇を受けた人物は他にいないのではないだろうか。また、中曽根元首相や小泉元首相も米大統領の別荘を訪れたが、新政権発足後早々に行くようなケースはなかなかない。ゴルフや食事を共にするなど両首脳の仲は良好だ。国内ではトランプ大統領の移民政策にもの申すべきだとの批判もあるようだが、日本はそもそも移民を受け入れておらず、米国に対してそのようなことが言える立場にはない。また、大手メディアはトランプ氏がメキシコ国境に壁を築くと宣言したことを批判しているが、欧州を含め陸続きの国の国境には壁がある方が普通だ。国境がある以上、壁があるのはある意味当然で、トランプ氏の発言は「公共事業で雇用を作るため、国境の壁の一部を修理します」ということと一緒だ。また、トランプ氏はマスメディアが足を引っ張るのを知っているからこそ、記者会見よりもツイッターでの情報発信を重視している。国内にはそのトランプ氏のツイッターを1日遅れで報じるようなメディアもあり、見ていて滑稽であるし、トランプ批判を繰り返す日本のマスメディアは時代遅れ以外の何者でもない。

――消費税率の再引き上げは実現できるか…。

 髙橋 そもそも消費税を引き上げることが目的なのではなく、財政再建こそが本来の目的であることを忘れてはならない。私は2月21日の衆議院予算委員会中央公聴会に参考人として出席したが、そこで財政再建はすでに達成していると明言した。私はかつて政府のバランスシートを作成しており、政府の財政状況は熟知している。財務省はバランスシートの右側の債務のみを取り出して国の借金が1000兆円を超えたと言っているが、政府はバランスシートの反対側には資産を持っている。政府の資産は出資金や貸付金などの金融資産が多く、利子はだいたい国債の利払いコストと一致する。また、政府と中央銀行を統合した統合政府という概念で考えると、日銀が大規模緩和の結果として大量保有している国債の利子は実質的には政府が納付金として受け取るため、資産側が生み出す利子は1000兆円超の借金の利払いと一致する。連結した政府のバランスシートでは、債務と資産が一致しており、実はすでに財政再建が出来ているというわけだ。もっとも、日銀が保有している国債を売却すると市場に混乱をきたす恐れがあるため、緩和政策の終了後も満期まで持ち続けることが重要だ。売却が必要になるのは、酷いインフレの場合であるが、デフレ脱却さえしていない現状では考えにくい。また、景気回復によって将来的にインフレが進んだ場合でも、結果として税収の増加が期待できるため、財政は好転しているので、特に問題は生じないだろう。

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