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「新しい発想の日本外交が必要」

外交戦略研究家
初代パラオ大使
貞岡 義幸 氏

――日本の対北朝鮮外交は弱腰すぎるのではないか…。

 貞岡 政府の仕事において、例えば教育であれば「教育基本法」といった法律の裏付けがあるが、外交にはこの裏付けが存在しない。これは日本に限った話ではなく、各国の外交政策は外務省の裁量や、国民世論、政治の影響などがミックスされて立案されている。そこで日本の対北朝鮮外交について言えば、そもそも北朝鮮とは国交関係を結んでいないため、直接対話をするルートが無い状況だ。また、北朝鮮からすれば最も重要な交渉相手はあくまで米国であり、次いで自国に支援をしてくれる中国や、同じ民族として支援が期待できる韓国とも対話を行うメリットがある。北朝鮮にとって、旧社会党の勢力が強かった時代の日本は支援が得られる国という位置付けだったが、社会党の衰退に伴い北朝鮮を支持する政党が存在しなくなった。さらに拉致問題をはじめ自らの犯罪行為が明るみに出た以上、北朝鮮からすると、もはや支援が期待できない日本とは対話を行う理由がない。軍事面でも、憲法9条がある日本は先制攻撃することがないので安心というわけだ。外務省が対北朝鮮外交でいくら努力しようとしても「てこ」となるツールがないため、結局は抗議をするだけになってしまう。

――現状を打破するための対抗手段としては、強力な自衛力を持つ以外にない…。

 貞岡 それに加えて、米国を引きずり込むことが必要だ。日本一国で防衛力を強化するよりも、米国の軍事力や外交力をうまく使えば、日本にとってはコストを抑えることが可能になる。従来は北朝鮮のミサイルは米国まで到達せず、米国も北朝鮮外交をそれほど重視していなかった。ただ、その間に北朝鮮が大陸間弾道ミサイルや核の開発を進めた結果、北朝鮮の脅威は周辺国の韓国や日本のみならず、米国にも及ぶようになった。米国もやっと対北朝鮮外交に本腰を入れつつあるこのタイミングだからこそ、日本は米国をうまく利用すべきだ。もしも米国が北朝鮮問題について何も対処しなければ、日本としても別の手立てを考えねばならないが、幸いにして現在はそうした状況とはなっていない。

――日本外交は対米依存から自主外交、自主防衛に舵を切るべきでは…。

 貞岡 第二次世界大戦後の日本の外交は独自路線を貫くという発想はあまりなく、ある時は米国、ある時は中国など、どこかの大国と一緒に行動していれば安心だという精神構造になってしまっている。これは戦前の経験から、外交を独自路線で行うと再び悪い事態を招くのではないかというトラウマがあることが影響しているのだろう。ただ、もはや新しい世紀に入っており、国際政治の状況も変わりつつある。日本も今までのように米国に追随していればそれで大丈夫だという時代ではなくなりつつあり、新しい発想の外交が求められている。北朝鮮や中国への当面の対策はもちろん重要だが、政治家や外務省は10年後、さらには100年後の日本を見据えた外交や国防の長期戦略を立てるべきだ。例えば、将来的に日本の人口が現在の半分となった時、日本は国際社会でどのような立ち振る舞いをすべきだろうか。学者を含め、外交についてこのようなことを考えている人は少ないだろう。

――現在の外務省の問題点は…。

 貞岡 各国の外務省と比べて気になるのは、国際法をあまりにも重視しすぎているのではないかという点だ。国内法であれば政府が強制力を行使できるが、国際法はいわば紳士同士の約束のようなもので、誰にも強制力がない。それにも関わらず、外務省は国際法で世界の問題が解決できるような勘違いをしている。なぜそうなったかというと、戦後日本の国会では日米安保条約を巡り審議がたびたび紛糾したため、これを担当する外務省の条約局長には代々優秀な人物が就き、その後外務事務次官まで務めることが多かったことと関係しているのではないか。外務省内で条約関連の仕事に長年携わっていると、外交では国際法が最も重要だと認識に立ってしまう。国際法を重視しすぎた結果として、竹島や尖閣諸島については「国際法に照らし、我が国固有の領土である」との認識を示し、韓国や中国の行為については「断固抗議する」と表明するのみにとどまってしまう。現状は韓国が竹島を不法占拠しており、中国も尖閣諸島を虎視眈々と狙っているにも関わらず、「国際法上は日本に正当性がある」と自分自身を納得させてしまっている。国際法違反でも他国に軍事力によって自国の領土に居座られたら実質的にはその国のものとなってしまうわけで、国際法を重視する外務省は国際社会の現実を見ていない。同様の問題は慰安婦に関する日韓合意でも顕在化している。外務省は日韓両国で国際的に合意したものだから内容は有効だと主張しているが、国際法違反だといって韓国を裁く主体は存在しない。日本がいくら「国際合意に違反している」と主張しても、全く問題の解決にはならない。

――外交や防衛を含めてしっかり対応しなければ、日本の権利が損なわれてしまう…。

 貞岡 外務省を巡る2つ目の問題は、国連への依存度が高い点だ。第二次世界大戦で敗戦した日本は国連にとっては敵国であり、国連憲章の敵国条項には依然として日本が入っている。日本は国連にこれまで多額の資金を拠出しているにも関わらず、逆に日本を敵国とする国連からは人権や慰安婦について注文を付けられている。確かに、日本が国連に加盟した半世紀以上前の時代であれば、国連は世界平和を達成するために必要な機関として世界中から尊敬を集めており、日本も国連中心の外交でよかった。ただ、今や世界各国にとって国連は力のない賞味期限を過ぎた機関として見られている。例えば、北朝鮮はこれまで何度も国連決議違反を繰り返しているにも関わらず、誰も北朝鮮のミサイル開発を止めることはできない。こうした現実を直視せず、なお国連中心の外交を進めることは間違っている。

――日本として戦略的な外交を展開すべきだ…。

 貞岡 本来は外交の司令塔を設け、そこで日本の国益推進に関する各国の協力状況をきちんと評価し、日本にとって重要な国の順番付けをすべきだ。一方、現実の外務省の組織としては東京の本省に加え世界各国には大使館が置かれており、組織が分断され蛸壺化してしまっている面がある。各国の大使は天皇陛下から信任状を授けられる地位の高いポストでもあり、各大使は自らの赴任国が最も重要だという自負がある。そこで、世界各国の大使がそれぞれODAの増額を主張するなど、全体の収拾が取れなくなってしまっている。また、日本外交は基本的にケンカを嫌っていることもあり、結果として国際会議で反日的な主張をしている国にもODAが行き渡ってしまうなどの問題が生じている。本来は選択と集中という観点からODAの金額についてもメリハリをつけるべきだ。

――結果的に、みんなにいい顔をしてしまっている…。

 貞岡 外務省を弁護するために言うならば、そもそも日本人の国民性として争い事を嫌う風潮があるのだろう。中国では米国による韓国へのTHAAD配備に政府が抗議したが、政府のみならず民間レベルでも猛烈な韓国バッシングが起こった。これには政府による指示もあったのだろうが、国民も含めて強い意思表示がある外交にはやはり迫力がある。日本の韓国に対する態度はどうかというと、政府は慰安婦問題の日韓合意を守らない韓国政府を批判しており、世論調査でも韓国に対して批判的な意見が多数を占めている一方、テレビでは連日韓流ドラマを放映していたり、スポーツでは韓国の美人女子ゴルファーに観衆が拍手喝采していたり、中国とは全く状況が異なる。日本の国民としても、自らが嫌であることは相手にきちんと意思表示をしなければ相手に伝わらない。対韓外交や対中外交の失敗の責任を全て外務省に負わせることは気の毒だろう。

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