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「安倍政権打破のため選挙協力」

衆議院議員
馬淵 澄夫 氏

――国会で審議中のいわゆるテロ対策法案に対するお考えは…。

 馬淵 法案の国会審議に当たっては、この法律が我が国にとって必要であるのかという必要性と、国民の憲法上の権利を侵害しないかという許容性の2つの観点から議論しなければならない。私は今回の「共謀罪」法案は必要性が全く無いという立場に立っている。我が国の刑法では、重大犯罪に対して予備罪、準備罪、ほう助、共謀共同正犯でしっかりと制限をかけている。例えば、政府は今回の法案の対象事例の一つとして、ハイジャック目的で航空券を予約した場合を挙げている。しかし、ハイジャック目的で航空券を買った場合、我が国ではすでにハイジャック防止法で罰することが可能で、すでに手当てがされている。さらには我が国では憲法31条が要請する罪刑法定主義、つまり罪と刑を非常に厳しく細かく整備し、恣意的に刑罰が下されないようにしてきた歴史がある。今回の共謀罪法案はこれも逸脱するような法律になりかねない。また、政府は国際組織犯罪防止条約(TOC条約)を批准するために法律の整備が必要と主張しているが、我が国の現行法体系でも批准は十分可能だ。TOC条約は現在187カ国が締約しているが、この条約のために新たに共謀罪を作ったのはノルウェーとブルガリアの2カ国に過ぎない。TOC条約を盾に取って必要性を主張することは詭弁であり、立法事実としての必要性は求められていない。

――許容性の観点からはどうか…。

 馬淵 もう1つの観点の許容性とはつまり、法律は様々な形で権限を付与したりあるいは規制をしたり、場合によっては私権を制限することもあるので、これが本当に許されるものなのかを考える必要があるということだ。今回の共謀罪法案では適用対象を「テロリズム集団その他の組織的犯罪集団」と規定しているが、「その他」という包括的な文言が入っている。安倍首相は国会で一般人は対象にならないと説明しているが、一方で盛山法務副大臣は衆院法務委員会において一般人も対象に含まれうると発言している。一般人も対象となった場合、許容性の観点からは、憲法21条が保障する言論・集会の自由など国民の権利を制限してしまう恐れがある。

――共謀罪により人権侵害を招く可能性があると…。

 馬淵 我が国においては、過去に特別高等警察が戦争に対する批判的な言動や行動を取り上げて実際に逮捕・拘禁し、まるで国家反逆罪のような扱いをしていた。犯罪を行う前の取締行為を警察権力で言うと「行政警察権」、犯罪が行われた後の捜査行為を「司法警察権」というが、我が国では戦前に行政警察権が不当に行使されたということで、日本を占領したGHQは陸上警察の警察庁、海上警察の海上保安庁ともに行政警察権を制限し、基本的に司法警察権のみを付与した。行政警察権がないため、警察は長い間疑わしいからといって逮捕することもできないし、犯罪の抑止を目的に取り押さえることもできなかった。ただ、最近の犯罪の多様化・複雑化のなかでストーカー行為などが重大犯罪につながる事例がいくつも発生し、ストーカー規制法では不当な行為をしていない時点で警察が関心を持ち、恐れがある場合は接近を防止するなど、行政警察権の行使を認めるようになってきた。また、海上保安庁にも司法警察権しか付与されていなかったため、領海侵犯をする不審船には退去するよう警告するしか手立てがなかった。ただ、私が国土交通相として在任中に尖閣諸島沖で民間漁船の衝突事件が発生し、このままではいけない、と、海上警察権のあり方に関する検討の国土交通大臣基本方針を策定させた。このように、陸上警察、海上警察ともに、行政警察権の付与については慎重な議論が行われてきた。今回の共謀罪法案は罪刑法定主義など我が国の刑法の体系を大きく逸脱するものになりかねず、これをきっかけに様々な人権侵害を招く恐れがあり、決して看過できない。

――人権侵害が生じないように何らかの対策を取ればよいのでは…。

 馬淵 国民の権利が制限されてからでは遅い。国会では「目配せだけで合図になるのか」、「SNSを通じたやりとりはどうか」などと政府に質問が相次いでいるが、明確な答弁はほとんど返ってこず、現在のままでは極めて恣意的に運用される可能性が高いと判断せざるを得ない。安倍首相がなぜ共謀罪法案に対して強硬的な態度を取っているかというと、おそらくこの先に憲法改正が見えているからだろう。集団的自衛権の行使でも一昨年に憲法上に疑義がある法案を強行採決しており、今回の共謀罪法案を含めて戦前回帰的な安倍政権の危うさを感じている。

――話は変わって、民進党と共産党との選挙協力については…。

 馬淵 あくまで選挙のための連携で、共産党と理念や国家観を一にするわけではないし、ましてや連立政権構想などは持ちようがない。憲法改正などを強引に推し進めようとしている安倍一強政治を突き崩すため、水面下での候補者調整で野党間でのつぶし合いをしないようにするということだ。ただ、実際にはこれも容易ではない。昨年4月の北海道5区の補欠選挙では、無所属の候補者が市民グループから要請されて立候補を決意し、野党各党は市民グループの声がけを受けて推薦を出し、野党統一候補としての形が整った。昨年の参議院議員選挙でも全国32の1人区を野党統一候補で戦えば勝てるという機運が高まり、実際に1人区の結果は野党の11勝21敗と、その前の参院選の2勝29敗と比べてだいぶ改善した。ただ、そこでは成果だけではなく、問題点も浮き彫りとなった。

――選挙協力での問題点とは…。

 馬淵 1人区以外の残りの15の都道府県は複数区であるため、当然ながら民進党も共産党も候補者を擁立し、熾烈な戦いをしなければならない。隣の県では共闘していながら、県境を一歩跨ぐと熾烈に相まみえているという選挙構造は矛盾を抱えており、結果として、民進党の候補が共産党の後塵を拝するような選挙区もいくつか出てしまった。野党共闘は無所属の候補者が市民の支えによって立ち、野党が推薦を求められて応援するという極めてまれなケースであれば成立するが、参院選では比例区や複数区でお互いに戦うので成立しない。まして衆議院議員選挙は政権選択選挙であり、比例票には政党名を書いてもらうことになるため、共闘には限界がある。このため共産党との選挙協力についてははあくまでも水面下の選挙区の調整であり、それ以上でもそれ以下でもないという整理をしている。

――民進党が何を目指しているのかわかりにくくなっている…。

 馬淵 私も執行部の一員であり難しい立場だが、2009年の政権交代までは「生活第一」ということで生活者の目線を最も大切にし、そのための具体的な政策を打ち出してきた。現在の蓮舫代表の下では人への投資をスローガンとして掲げているが、教育無償化の財源としては消費税率の2%引き上げ分を充てると主張している。日々の暮らしに精一杯な人からすると、もちろん子どもの教育も大事だが、生活を維持するためには消費税引き上げに決して賛成できないだろう。このあたりに民進党の方向性が見えにくくなってしまっている要因があるのではないか。あくまで個人の意見としては、所得が少ない層に影響が大きい消費税をむしろ引き下げ、所得税控除の見直しなどで再分配を強化しつつ財源を確保すべきだと考えている。現在、党の選対委員長を務めているが、選挙対策については自分自身がずっと担ってきたという自負があるので、一生懸命取り組んでいきたい。

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