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「米国の攻撃実施確率は51%」

龍谷大学
社会学部 教授
李 相哲 氏

――米国は北朝鮮を攻撃するのか…。

  微妙なところではあるが、攻撃を実施する可能性の方が高いと考えている。数字にするなら確率は51%といったところだろう。まず、現時点で米国と北朝鮮のそれぞれが追及する政策目標は完全に相反している。米国は北朝鮮が核技術をテロリストに売却したり、北朝鮮に対抗するために日本や韓国が核武装したりする可能性を警戒しており、北朝鮮の核兵器保有を絶対に許さない立場だ。世界中に核兵器が拡散し、米国の超大国としての地位が揺らぐような可能性を、米国が看過するはずがない。

――北朝鮮側としては核を手放すわけにはいかない…。

  北朝鮮としては対外的にも、対内的にも、放棄はありえない選択肢だ。北朝鮮の保有する通常兵器は劣化しつつあり、新しい武器も購入できず、とても米国に太刀打ちできる状況ではない。そのため、北朝鮮は核兵器や、貧者の核兵器と呼ばれる生物・化学兵器に頼らざるをえない。北朝鮮はイラクのフセイン氏やリビアのカダフィ氏が最終的に殺害された原因を、核兵器を保有していなかったためと捉えており、自身が生き延びるために核兵器は不可欠だと考えている。また、対内的には、政府がこれまで核兵器さえ保有できれば国民が豊かになると喧伝してきたという事情がある。以前から北朝鮮は、軍事力を増強して韓国を征服すれば経済問題は解決するとして、国民に我慢を強いてきたが、これまで成果を出すことができなかった。ここで核兵器を手放すようなことがあれば、金正恩の権威は失墜し、求心力が失われてしまうだろう。

――核保有後の北朝鮮の次の一手は…。

  米国との平和協定締結を目指すだろう。ただ、平和といえば言葉は美しいが、実際には朝鮮半島を武力統合するための戦略に他ならない。韓国の文政権の内部には北朝鮮支持者が多いため、もし北朝鮮が南下を始めれば、韓国の平定自体はそう難しくないと見込んでいる。問題は在韓米軍のみであり、「平和が実現したのだから、米軍が駐留を続ける必要はない」という理屈で、北朝鮮は平和協定の締結によって在韓米軍の撤退を実現しようとしている。もし撤退後に米国が再介入しようとすれば、その時はICBMによって介入を防ぐ算段だ。

――米国としてはそれは許容できない…。

  米国が思惑を実現するためには説得か実力行使しかないが、説得の方は20年かけても功を奏さなかった。であれば、実力行使を行っても不思議はない。一部の有識者は、それでも米国が被害を恐れるために話し合いを続けると主張しているが、米国の指導者や、米国の軍事能力、これまでの行動を踏まえると、米国は今も正義、そして自国の利益のためであれば戦争を辞さない国と評価する方が妥当だろう。イラク戦争の際にも、米軍は6000個の死体袋を用意したとされている。正義のためであれば、それだけの犠牲を払う覚悟があるのが米国という国の文化だ。

――米国は今後どう動くのか…。

  私は、米国が北朝鮮に対して3段階の作戦を用意しているとみている。第1段階は、今まさに進んでいるように、世界の国々を結集し、北朝鮮の包囲網を狭めることだ。これは既に成功しつつあり、中国も重い腰を動かし始めているし、ロシアも協力を約束している。米国内でも、北朝鮮と取引を行った第3国の個人や企業に対して制裁を加える「オットー・ワームビア法案」が10月24日に米下院で可決された。オットー・ワームビアは、北朝鮮を旅行中に当局に拘束され、拷問により昏睡状態となり、帰国後に死亡した米国人学生の名前で、同法は自国民を死に追いやった北朝鮮に対する米国の怒りを示している。同法により、中国企業は米国か北朝鮮か、どちらかを選ばざるをえなくなる。北朝鮮の貿易の9割は中国向けとなっており、ワームビア法が施行されればその効果は大きい。とはいえ、中国は何かしら口実を付けて北朝鮮を活かそうとするだろう。

――作戦の第2段階は…。

  物理的な封鎖に踏み切ると考えられる。海上封鎖はもちろん、陸上についても中国に協力を要請し、少なくとも公的な交流ルートの遮断を求めるだろう。封鎖が完成した場合、北朝鮮に出来るのはそのまま枯死するか、暴発するかの二択だ。米国としては、暴発の兆候を捉え次第、第3段階目の実力行使にうつるだろう。実は、現状では米国側にもあまり時間的猶予が残されていない。これは1年以内に米国本土に届くICBM(大陸間弾道弾ミサイル)の完成が見込まれるうえ、更に危険なSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)を搭載する3000トン級の新型潜水艦も、来年前半に完成する可能性があるためだ。新型潜水艦が日本海に潜んでしまえば、米国が一気に北朝鮮の反撃能力を殲滅することが難しくなる。金正恩は来年9月までに同潜水艦の完成を命じたとされているが、すでに80%完成し、来年初めには進水するという情報もあり、予断を許さない状況だ。

――つまり来年前半までに大きな動きがある可能性が高い…。

  その通りだ。不確定要素は中国の動向と、2月から開催される平昌オリンピックだ。流石に平和の祭典の最中には米国も攻撃を行いにくいとみられ、オリンピック前にするのか、それとも開催後にするのかは読みにくい。中国も足元で新たな動きをみせている。これまで同国は、韓国への米国のTHAAD(終末高高度防衛ミサイル)設置に反発して韓国に圧力を加えてきたが、このほど韓国と関係改善に合意した。韓国は、中国にTHAADを追加配置しない、米国のミサイル防衛システムに参加しない、日米韓で軍事同盟を締結しないという、「3つのノー」を表明した。現在、日米と米韓の間は同盟が成立しているが、日本と韓国は同盟関係がなく、3カ国が参加する同盟が成立すれば中国にとって一番の圧力になるはずだった。ところが、韓国は事実上米国を裏切り、中国に引き込まれてしまった。今後、中韓両国は協力して米国に対抗し、北朝鮮を守るために活動していくだろう。

――当然、米国は韓国に対して怒っている…。

  米国が激怒していることは想像に難くない。韓国は、THAADを巡る中国との合意について、米国の了承を受けたとしているが、本当のところは疑わしい。しかし、親北政権の文政権にとって、米国の怒りなど問題ではないのだろう。このため、トランプ米大統領は韓国を嫌っており、アジア歴訪の際にも韓国に寄るのを当初拒んだと伝えられる。結局、訪問しなければ米国が韓国を見捨てたと北朝鮮が解釈しかねないため、同大統領は韓国も訪問することになったが、同国で予定されている国会での演説は文大統領への不信感を反映しているとみられる。これは、大統領制の韓国では大統領と議会は対立しており、その議会で演説を行うということは、トランプ氏が文氏から距離を置きたがっていることを示唆しているためだ。恐らくトランプ氏は、文氏と密室で会談して、ありもしないことを喧伝されることを警戒しており、議会で直接国民に呼びかけることを望んだのだろう。

――北朝鮮の反撃による被害はどうみるか…。

  戦争に反対している有識者は、最大で200万人が死亡すると主張しているが、冷静に米国と北朝鮮の軍事力を比較して考えると、犠牲はもっと少なくなるように思われる。確かに北朝鮮が先制的にソウルに対して全面攻撃を行えば数十万人が死亡するかもしれないが、米国がそれを許すはずがない。先日、米国のマティス国防長官が、ソウルに被害を与えない北朝鮮への軍事的選択肢があると発言したが、冷静で、イラク戦争において米軍を勝利に導いた元将軍でもある同長官だけに、発言には真実味がある。先日訪韓した同長官が38度線をヘリコプターで視察した際、通常は10分ほどで済むところを30分以上かけたとされているが、これは有事に備えて地形を入念にチェックしていたためではないか。米軍は、北朝鮮が暴発の兆しをみせた瞬間に圧倒的な戦力で北朝鮮を叩き、韓国への被害を最小限に抑える可能性が高い。

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