金融ファクシミリ新聞社金融ファクシミリ新聞

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「経営統合で地域貢献果たす」

第三銀行
代表取締役会長
谷川 憲三 氏

――三重銀行(8374)との経営統合を決定した背景は…。

 谷川 経営環境の厳しさが増すなかで地域への貢献を果たすためにも、ある程度の規模を確保し、経営基盤をより強いものにする必要があると判断した。三重県には、当行と三重銀、百五銀行(8368)の3つの地域銀行があるが、このうち百五銀の規模が突出している。また、百五銀が本店を津市に置いて、県中心部の地域に強みを持つのに対し、当行と三重銀はそれぞれ県の南と北に強みがある。規模や地理的な観点などから統合効果が見込めると以前から言われており、私の頭取時代からトップ間で幅広く意見交換を行っていた。ただ、これまでは収益をある程度確保できる環境があるなか、両行の企業文化の違いもあり、統合には至っていなかった。つまり、当行は熊野で創業された、いわば地域密着型の地域銀行となるのに対し、三重銀は住友系列としての特色がある。だが、経営環境が厳しくなる中で、より地域に役立つ銀行にしていこうということで、統合の機運が高まった。

――地域銀行を取り巻く環境は厳しい…。

 谷川 日銀のマイナス金利政策により、これだけ金利が低い状態が続き、利ざやが超低位にとどまるなかでは、やはり地域銀行の経営に与える影響は大きい。どの地域銀行でも、本来の預貸業務以外に、有価証券への投資などで収益を確保するようにはしているが、余資の運用には当然リスクがある。優良企業に対する貸し出し競争は激化している一方、地域経済の活性化に向けては、経営難の企業に対するアプローチも求められる。現在の低金利環境が続けば一般の事業会社にとっては有利となるが、経済状況が上向くなかでは一部でバブル的な状況も見られ始めている。また、このまま日銀が国債を買い続ければ、国債市場がハードランディングに陥りかねないというリスクもある。

――厳しい環境下でも、第三銀は地域から信頼を得ている…。

 谷川 かつて救済合併する地域銀行も複数あったなか、地域銀行としてしっかりと地に足を付け、地域の顧客から評価されてきたことは大きい。私が2001年に頭取に就任した後、不良債権の処理に伴い自己資本比率は7%台まで低下した。最低基準の4%はクリアしていたものの、8%以上を達成すべきという雰囲気があり、増資により改善を図ったが、地域にしっかり根付いていたことで、顧客から暖かいご理解を頂き、無事に増資を終えることができ、自己資本比率を上げることができた。リーマン・ショックの際も自己資本比率が7%台に低下したが、より地域経済への貢献に向けて貸し出しに余裕が持てるように公的資金を申請すべきとの雰囲気もあったことで、万全を期して公的資金を導入した。これらの結果足元で自己資本比率は8・33%(3月末時点、第三銀単体)となっている。

――統合後は、新たに「三十三フィナンシャルグループ」が発足する…。

 谷川 社名には三重銀と第三銀のそれぞれの強みをプラス(+)するという思いを込めている。三重銀は県北部を中心に展開しており、大企業との取引も強い。一方、当行は県南部を中心に、大阪や名古屋と比較的広域で展開しているうえ、対中小企業に強みがある。三重銀も当行と同様に名古屋への展開を進めているが、当行の支店との重複も少なく、統合後は相当バランスが良い銀行が誕生することになる。新グループの預金残高は、2行単純合算で3兆4578億円(3月末時点)で名古屋三行を上回る。

――統合後は今の環境にどう向き合うか…。

 谷川 現在の厳しい経営環境をすぐ解決できるような奇策はない。最も基本業務となる貸し出し、有価証券による運用に加え、商品の販売手数料の3本柱で何か特定の分野に偏ることなく、それぞれで着実に収益を拡大するしかない。手数料収入は、金融商品だけでなく顧客へソリューションを提示することでも伸ばしており、M&Aの仲介などはニーズがあるため、今後も伸びが期待できる分野だ。三重県の指定金融機関には県内最大規模の百五銀が指定されているが、今回の統合で当方の規模が大きくなることで、県の施策業務に貢献できることもより増える。有価証券の運用も、運用規模の拡大でより効率的にできるようになるだろう。また、現在は海外に積極的に進出していないが、規模が大きくなれば可能性も広がる。

――金融行政をどう評価するか…。

 谷川 金融庁は、金融機関が顧客本位の良質なサービスを提供し、その結果として銀行自身も安定した顧客基盤や収益を確保する好循環という意味で、顧客との「共通価値の創造」を掲げた。金融行政が、形式的に細部を検査するものから、ビジネスモデルの持続可能性を重視するものに変わるという方向性は大変に評価できる。ただ一方で、経営への指導が細かくなりすぎれば、独自性や弾力性を発揮しにくいという問題も生まれる。各地域や金融機関ごとに事情が異なる点に金融庁も留意が必要だ。

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