金融ファクシミリ新聞社金融ファクシミリ新聞

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「証券アナリスト多様化に対応」

日本証券アナリスト協会
会長
新芝 宏之 氏

――証券アナリストを取り巻く環境は大きく変わってきている…。

 新芝 背景には、わが国の企業統治改革や欧州のMiFID2(ミフィッドツー:第2次金融商品市場指令)等の規制改革、AIやビッグデータ等の技術革新、サステナビリティの潮流、そして、コロナ禍の影響等がある。環境変化に伴い、証券アナリストに求められる役割も変化している。現在の証券アナリストには、日進月歩でレベルを上げ、企業価値の「評価」だけでなく、中長期的な企業価値の「向上」への貢献や、企業と投資家の建設的な対話の橋渡し役など、より広範な専門分野において重要な役割を果たすことが期待されている。証券アナリストがインベストメント・チェーンにおいて担う役割は大きい。

――MiFID2の影響について…。

 新芝 2018年1月から欧州で導入されたMiFID2では、投資家保護強化の観点から、調査費用への考え方が大きく変わり、それまで仲介手数料に含まれていた調査費用のコストが分離されることになった。ブローカーの役割も明確になり、証券ビジネスにおいてもリレーションだけではなく、どのような付加価値を提供したかが評価されるような時代になっている。証券アナリスト一人ひとりのレポート等に値段が付くようになり、まさに、証券アナリストの真価が問われている中で、力のある人間にとっては良い時代だ。しかし、一部の活躍しているトップアナリストだけに仕事が集中するようになり、ジュニアアナリストが育ちにくくなるという問題点もある。そのため、日本証券アナリスト協会でも今まで以上に気を配り、各証券会社や資産運用会社等としっかり連携を取って、証券アナリストを育てていく過程を支援していかなければならないと考えている。

――金融庁からは証券アナリストに対する規制が出されているが…。

 新芝 例えばスチュワードシップ・コードやフェア・ディスクロージャー・ルール等の規制はしっかりしたもので、改定も進んでおり、混乱はない。ただ、不公平感の是正という面では、昔インサイダー取引というような言葉もなく早耳情報しかなかった時代から、その早耳情報が違法となり情報が公平に出される一方で、Fintechなどのテクノロジーを駆使した情報収集が効果を生み始め、その進化が加速している時代だ。つまり、どの企業が成長するのか、テクノロジーを使って調査しようと思えば様々なことが出来る。例えば、スーパーの売り上げを調査するために、人工衛星でスーパーの駐車場を見ながら集客数を予測したり、ビッグデータを利用することで買い物情報から売り上げを分析したりすることも可能だろう。このようなやり方でも、結局の狙いはかつて行われていた早耳情報と同じようなものであり、いくら制度的に公平にしようとしても、オルタナティブな情報を知恵比べのような形で追い求めている部分があるということは事実だ。

――協会としてどのように証券アナリストを支援していくのか…。

 新芝 当協会の社会的使命は、広い視野、深い専門知識・分析能力、そして高い倫理観を備え、時代の要請に応える金融・投資のプロフェッショナルを育てていくことだ。そこで、当協会では証券アナリスト資格の教材内容を15年ぶりに改定する。2021年6月にスタート予定の新プログラムでは、SDG sやESG、ロボット運用、行動ファイナンスなどの旬なトピックもカリキュラムに含まれている。また、この間に出てきた新しいコンセプトや概念も組み込まれている。証券アナリストになるためにクリアすべき課題や学習分野は、時代の変化に応じて変わってきている。だからこそ、それらをよりたくさんの人に修得していただくために、実務の視点から教材を作成し、図表や数値例を充実させる等の工夫を凝らして学習しやすいプログラムへと作り直している。eラーニングアプリ等のデジタルツールも積極的に活用して、これからの証券アナリストたちの支援をしていく。

――証券アナリストの資格を持つ人たちの活躍の場が広がってきている…。

 新芝 証券アナリスト資格保有者の現在の所属分布を見てみると、証券会社が2割、信託を含めた銀行系が2割、資産運用会社が2割、そして事業会社が1割5分となっており、最近では事業会社に所属する資格保有者がかなり増えていることがわかる。IR部門や財務部門で活躍したり、社外取締役として専門分野を生かしたり、証券アナリストの概念が昔に比べて多様化しており、業務の幅もかなり広がっている。特に財務部門では、昔のように単にお金の流れを見るというだけでなく、例えば、資本コストという概念を取り入れて経営アドバイスを行うなど、今の時代を生き抜くための高度な専門知識への需要が高まっており、そういった能力を備えた人材が求められている。

――これまでの証券アナリストといえば、いわゆるセルサイドの仕事のイメージが強かったが…。

 新芝 今ではセルサイドだけでなく、バイサイドや銀行、事業会社にも証券アナリスト資格を持つ人は多い。実際に証券アナリストの業務が変わってきている。当協会としても幅広く活躍してもらえるような方向に証券アナリストのイメージを変えていく必要があると考え、2019年4月に証券アナリストの資格称号として「日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA:Certified Member Analyst of the Securities Analysts Association of Japan)」を新たに定め、ロゴマークも新設した。現在、2万7千人強の「CMA」が様々な分野で活躍しており、証券アナリストの質が良い方向に変わってきていることは大事にしたい。そして、これをきっかけに「CMA」という呼称を広めていきたいと考えている。

――最後に、協会の課題と抱負を…。

 新芝 今回、「認定アナリスト(CMA)」という資格称号を改めて制定したのは、証券アナリストを取り巻く環境や求められる役割が変わっているからだ。それと同時に高度化もしている。当協会は、時代の要請に応える金融・投資のプロフェッショナルを育てていくことで、日本経済の発展に寄与することを目的としている。現在、コロナ禍により既存の秩序が根底から揺るがされている。人々の価値観や行動様式は不可逆的に大きく変容し、次の時代へ時計の針が一気に進んだ。当協会でもコロナ禍を奇貨として、スピード感を持って様々な施策を進めていく。当協会のビジョン、ミッション、ストラテジーを明確にし、新しい時代に対応できる証券アナリストを育てていくことに貢献していきたい。

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