TOPインタビュー・ハイライト
2020年下半期(上)
10/5掲載「経済外交の最善の道を模索」
財務官員 岡村 健司 氏
――米中対立が悪化して米ソ冷戦時代の二の舞になれば、中国をゲートウェイとするビジネスモデルは通用しなくなる。日本の経済外交の方向性は…。
岡村 米国の中国に対する基本姿勢は、安全保障の観点を考えると、大統領選の結果にかかわらず、今後も変わらないだろう。しかし、仮に米中融和となった時に、米国に寄り添っていた日本に対する中国の対応は非常に厳しいものとなろう。日本が米国にはしごを外される可能性も否定できない。日本はインドとアセアンに注力すべきという声もあり、その通りと思う一方で、インドもアセアンも、日本と中国を天秤にかけているということは常に考慮に入れておかなければならない。伝統的な米ロ対立の構図の中で米国と同盟する欧州は、米中対立の文脈では第三極の形成を指向しているように見える。そういったこと全てに注意しながら、日本は、今後ともアジアで生きていかなくてはならない。暗中模索ではあるが、諸情勢を冷徹に見通して、最善の道を探していきたい。
9/28掲載 「『国消国産』で食料安保を推進」
全国農業協同組合中央会 代表理事会長 中家 徹 氏
――今後の日本の農業への抱負を…。
中家 5年前、一連の農協改革により農協法が改正されたが、我々JAグループは「農業者の所得増大」、「農業生産の拡大」、「地域の活性化」を基本目標とした創造的自己改革の実践をすすめてきた。組合員の願いを実現するため、これからもJAグループ一体となって自己改革に取り組み続け、日本の農業、農村が元気になるように努めていきたい。また、今回のコロナ禍では食料の輸出規制を行う国が出てくる事態となったが、これを契機に、食料安全保障に関する課題を国民の皆さんにもっと浸透させていきたいと考えている。自国で消費するものは自国で生産するという「国消国産」の重要性を広めていきたい。この他にも、企業がテレワーク等を定着させていく中で、例えば、地方へ移住し、会社員として働きながら農業に取り組む人たちが出てくるというような、東京など大都市からの「一極集中の是正」の流れにも期待している。
9/7掲載 「金融機関として本領発揮の時」
金融庁長官 氷見野 良三 氏
――コロナ禍が長期化する様相となっており、金融機関には不良債権化の懸念が出始めている…。
氷見野 緊急事態宣言時に比べれば経済は持ち直しているのだとは思うが、今後どのようになって行くかを見通すことは難しい。コロナ禍の長期化の可能性も否定できないとなると、金融機関としても悩みどころだと思うが、顧客に背を向けるという選択は無いのではないか。不良債権が怖いから資金繰りを繋がないということを一旦行うと、地域の中での信頼は二度と取り返せないだろう。今後については、長引くコロナ禍で課題が山積する顧客に対して、経営改善や事業再生支援などに取り組むことが銀行の本来の仕事だ。金融機関としての本領発揮の時であり、それをせずに放って置くことは、結局は信用コスト増にもなってしまうし、金融機関の存在意義も社会に信じてもらえないと思う。コストカットや販路拡大、業種転換、事業承継を支援するなど、様々な工夫を進める上で、政府としても出来るだけのサポートは行っていく。すでに政府系金融機関からは約6兆円の劣後ローン枠が、地域経済活性化支援機構(REVIC)等のファンドからは約6兆円の出資枠が確保されている。そういった選択肢も組み合わせて事業再生に取り組んでもらいたい。
8/31掲載 「対コロナで早急に法改正を」
東京都医師会 会長 尾﨑治夫 氏
――その他、都や国への要望は…。
尾﨑 行政との関係が上手くいっている医師会とそうではない医師会があるが、東京の場合は、都と医師会が車の両輪であるという共通認識を持ち、常に連絡を取り合いながら物事を進めることが出来ていると思う。一方で、実際に東京都が休業要請を出しても、結局そこに強制力はない。宿泊療養や自宅療養の仕組みにしても、大元の仕組みを決めるのは国の役割だ。その国が的確な政策をとっていないという事に対して、言いたいことは沢山ある。もっと本気になって最善の策を考えてほしい。例えばPCR検査にしても、診断治療の一環として行うものと、経済活動を円滑に動かすために実施するものと、一定の地域で感染している人数をはっきりさせるために行う公衆衛生上の検査の3つに分けて、そこに健康保険を適用させるのかどうかも含めて、検査体制をきちんと整えることが重要だと思う。目的に応じたPCR検査を自由に受けられる仕組みを早く作るべきだ。今は高い検査費用も、検査数が多くなれば資本主義原理で安くなっていくだろう。医療の現場では、患者や感染者を救うために日々最適な決断を迫られながら頑張っている。政府にも、もっとスピーディーに、先を見越した政策を実行してもらいたい。その意味で、早く法律を改正してインフルエンザの流行時期の前にしっかりとした体制を整えるべきだ。
8/24掲載 「日台は共通の価値観を保有」
台北駐日経済文化代表処 代表 謝 長廷 氏
――台湾政府から日本政府に望むことは…。
謝 台湾と日本は共通の価値観を持っている。それは自由、民主主義、人権、法による支配という価値観だ。これら国際的な普遍価値を共有している事を重視してこれからも友好関係を続けていきたい。また、台湾と日本の国民の間には長い歴史の中で培ったお互いの信頼感がある。それを土台にして、災害時の協力や技術革新の共有など、広い意味でのお互いの安全のために、日本と台湾の間でさらなる交流が生まれることを期待している。そして最後に、日本政府から台湾の国際組織への参加に対する後押しをお願いしたい。特にWHOやCPTPPへの台湾の参加は、日本にとってもメリットがあるはずだ。現在、年間約200万人の日本人が台湾を訪ねている。台湾の貿易に支障が出れば日本にも当然影響があるだろう。台湾がなければ地理的な空白もでてくる。特に日本が主導しているCPTPPにおいては、台湾の加入を強く望んでいる。
7/20掲載 「まず日米同盟の真の理解を」
国際変動研究所理事長 軍事アナリスト 小川 和久 氏
――政治家も官僚も、もっとしっかりと米国を活用することで日本の防衛能力を高めるべきだと…。
小川 日米安全保障条約をみても、米国は日本を防衛する義務はあるが、日本が米国を防衛する義務は謳われていない。米国を守れないと肩身が狭いと考える人がいるが、日本に米国防衛の義務がないのは当たり前の話だ。米国は日本とドイツの軍事的自立を恐れ、再軍備の時から自立できない構造の軍事力しか持たせなかった。だから、日本やドイツの軍隊が海を渡って米国を救援してくれるなどとは、考えていない。その代わり、日本は他の国ができない戦略的根拠地としての日本列島を提供し、国防と重ねて自衛隊で守っている。この役割分担は、最も双務的、つまり最も対等に近い同盟国は日本だということを物語っている。日本の官僚や政治家などいわゆる勝ち組と言われる人たちは、大学の教科書に載っていることしか頭にないようで、現実の世界で起きていることを直視する力は弱い。世界を股にかけて日本外交を進めるのであれば、世界に通用する能力を磨かなければならない。
8/3掲載 「デジタル決済は成長に不可欠」
フューチャー 取締役 山岡 浩巳 氏
――デジタル通貨は、経済社会全体のデジタル化と不可分となる…。
山岡 FacebookのCEOザッカーバーグ氏は、昨年10月の議会証言でデジタル通貨について中国脅威論を訴えたが、日本として、技術革新が通貨を巡る競争を促す方向に働くこと、そして、決済インフラのデジタル化は「デジタルエコノミーの発展」という大きな政策課題の重要な要素であることを意識し、円の利便性向上に努める必要がある。情報技術革新により、外貨を国内で使うコストも昔に比べて下がっており、信頼度や利便性の劣る通貨はますます、他の通貨との競争に晒されやすくなっている。例えばスウェーデンは、周囲の多くの国々がユーロに移行する中、自国通貨クローナを維持するため、その利便性を高めていくことが、デジタル通貨“e-Krona”の研究を進める一つの動機となっている。日本円は、英ポンドや人民元と、米ドル、ユーロに次ぐ第3の通貨の地位を争う立場にあるわけだが、歴史あるポンドや国の経済規模の大きい人民元との競争の中、日本円を幅広い取引に使い続けてもらうためには、新技術の応用も含め、可能な取り組みを積極的に行っていく必要がある。デジタル技術の活用を通じた決済インフラのイノベーションは、日本におけるデジタルエコノミーの発展や、中長期的にみた経済安全保障にも貢献するものだ。
7/13掲載 「日本の通商戦略は2正面作戦」
杏林大学 名誉教授 国際貿易投資研究所理事 馬田 啓一 氏
――となると、日本の通商戦略はどうあるべきか…。
馬田 完全に中国を見限るわけにはいかないというのが、企業の本音だ。現実的な対応としては、中国に片足を残したまま、中国以外のところでも生産する「チャイナ・プラス・ワン」と呼ばれる2正面作戦を考えている。米国は中国を締め出すために、関税をかけるだけでなく、中国からの対米投資を規制し、米国のハイテク技術を使って生産した製品を、米国企業だけでなく日本や他国の企業が中国に輸出することも規制している。さらに、中国での現地生産も規制して、米国のハイテク技術の流出を阻止しようとしている。日本としては単独で動くのではなく、各国との国際協調の枠組みの中で米中対立がエスカレートしないようにするのが、日本の通商戦略の課題だ。米国は11月に大統領選挙を控えている。米国経済を持ち直すことが出来なければ、トランプ大統領が再選する可能性はなくなる。現在の支持率は民主党バイデン氏が50%、共和党トランプ大統領が40%程度で、過去にこれほど差がついた大統領選ではすべて現職の大統領が負けている。もちろん、バイデン氏が大統領になったとして、今までの米国の対中戦略がガラッと変わることはない。「このまま中国を好き放題にさせると足をすくわれる」というのが米国のコンセンサスだ。親中派のレッテルがついているが、したたかなバイデン氏は国内の世論を反映して、米中デカップリング(分断)の姿勢を示していくだろう。