金融ファクシミリ新聞社金融ファクシミリ新聞

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「金融庁は理想と現実のマッチを」

アセットマネジメントOne
代表取締役社長
菅野 暁 氏

――資産運用会社には厳しい環境が続いている…。
 菅野 これまで日本だけの問題だった低成長、デフレ、マイナス金利という状況が、コロナ禍でグローバルに広がっている。少し前までは、少なくとも2%あった米国債利回りが今では1%以下となった。欧米の投資家も日本と同じような運用難の状況に陥っている中で、どのようにパフォーマンスを上げていくかが、我々運用会社の今一番の課題だ。特に安定的なインカムはゼロ金利の現状では望むべくもなく、これを如何に確保していくかが一番難しい。手数料を更に引き下げて投資家に還元するよう促す声もあるが、それはお客様によっても状況が異なる。例えば年金等の機関投資家は、大手公的年金を筆頭にもともと国際的に見ても日本はかなり低い手数料設定となっている。

――個人投資家に対する手数料については…。
 菅野 個人向け投資信託の手数料は機関投資家向けに比べて高いものの、グローバルな手数料低下やパッシブ化の潮流も受け、右肩下がりとなっている。海外では特にアクティブファンドの手数料が右肩下がりになっており、その結果、運用会社同士が合併してコスト削減を指向するという流れになっている。他方、日本でコスト削減のために運用会社同士の合併が進むかというと、金融グループ内での再編はある程度進んできたものの、金融グループを跨いだ合併は今後ともかなり難しいと言わざるを得ない。そのような中、我々は2016年10月にみずほ投信投資顧問、新光投信、DIAMアセットマネジメントとみずほ信託銀行の運用部門を統合して、60兆円弱の運用資産規模のアセットマネジメントOneを設立した。三井住友信託銀行も資産運用部門を切り出して、グループの三井住友トラストアセットマネジメントに統合している。今後、手数料低下の潮流に対応するためにどのような戦略をとっていくのかが、どの運用会社にとっても大きな課題だ。昨今の決算状況等を見てみると、ETF業務に以前から注力している社に関しては、日銀によるETF購入に支えられて収益がかさ上げされているものの、それ以外のビジネスが伸びている訳ではない。当社についても経常利益は前年度比ほぼ横ばい、その他の大手は、総じて収益的に厳しい状態だ。こういった状況を打破するために、手数料低下の潮流への対応もさることながら、公募投信市場の拡大自体を目指す必要がある。政府は貯蓄から資産形成へというスローガンを掲げて様々な施策を打ってきているが、現実には個人金融資産を現預金からリスク性資産へ動かすのは難しい。

――御社独自の取り組みは…。
 菅野 我々の足元の注力分野はオルタナティブ、ESG、マルチアセットの3点だ。1点目のオルタナティブは世界中がゼロ金利化してしまっているため安定的なインカム確保の手段の一つとして有効と考えている。例えばインフラに関するプロジェクトファイナンスを束ねたファンドなどは、2018年11月に当社の子会社となったアセットマネジメントOneオルタナティブインベストメンツが設定しており、毎年のインカム確保が可能なファンドを求める機関投資家に選好されている。2点目のESG投資は、欧米に比べて日本は周回遅れで金額も小さいが、GPIFなどの公的年金が先導し、他の年金基金にも徐々に広がり急成長している。我々としては、特に株式の分野で「ESGインテグレーション」というアクティブ運用にESGの観点を組み込んだ運用手法を取り入れている。個人投資家向けには、みずほグループを販売会社とする「未来の世界ESG」という公募投信を7月に設定した。グローバルな株式投資にESGの要素を組み込んだものだが、ベースになったグローバル株式投資のパフォーマンスが非常に良く、且つESGの手法が取り入れられていたため、資金流入規模は大変大きくなった。設定額は過去10年で最大の3,800億円で、足元では6,000億円を超えている。今後、ESG投資は個人投資家も含めて中核戦略として扱っていくことになろう。そして3点目のマルチアセットは、様々なプロダクトを組み合わせてお客様のポートフォリオ全体を俯瞰しながら2~3%のリターンを目指していく戦略で、特に私募投信として地方銀行を中心に提案している。このように複数の資産をリスクコントロールしながら運用していくファンドは私募投信全体で約2兆円であり、当社の主力戦略となっている。

――新興国への取り組みについて…。
 菅野 足元、新興国に注力する状況にはない。これから新興国経済は厳しくなるだろう。コロナ禍で財務支出は増加し、これをファイナンスするために金融緩和を行うと、今度は通貨が下落してくる。解が見つからない状態だ。新興国は国富が脆弱なため、財政や金融のサポートからいつまでも脱却できないと、リスクがかなり高くなる。

――公募投信がなかなか活性化しない…。
 菅野 これまで比較的投資への興味が希薄であった20歳代から40歳代までの資産形成層が、昨年の金融庁の報告書で「老後2,000万円問題」というフレーズが話題になって以降、積極的に投資を始めている。しかしながら、そういった若手・中堅層は、彼らの親が取引していた証券会社や銀行窓口ではなく、ネット証券やプラットフォーマー等での取引に慣れ親しんでいる。このデジタルプラットフォーマーをしっかり育てることで、全体としての底上げが出来て、10年後にはETFを除いた公募投信全体として100兆円超えも目指していけるのではないかと考えている。また、金融庁が顧客本位の態勢を唱える中で、運用会社や販売会社に対して様々なKPI(重要業績評価指標)を公表することを進めているが、それにも関わらず、販売会社が販売手数料を稼ぐために短期で新商品に乗り換えさせるといったような商習慣がなかなか変わらないケースも散見される。全体として販売会社は相当の努力をしてきているが、現状でも公募投信残高が60兆円台で停滞しているのは、一種の回転売買が一定程度横行している表れだと思う。

――当局への意見や要望は…。
 菅野 資産運用は社会にとって絶対に必要だということを、もっと一般に知らしめてほしい。金融庁には確定拠出型年金(DC)の使い勝手を良くしたり、非課税額を拡大するような政策対応をお願いしたい。日本では、家計に占める投資信託の割合は4%程度。米国並みの10%超を目指すのであれば、先ずはDCで増加させていくことを考えなければならない。もう一点、金融庁は今年6月の資産運用高度化プログレスレポートで、外資系と独立系を称賛し、金融グループ系資産運用会社については比較的低評価だったが、日本の資産運用会社が当初金融グループ内のみでしか設立出来なかったという経緯を無視して独立系や外資系を金融系資産運用会社の上におくことは意味がない。理想と現実をマッチさせることで、現実的な解を見出すべきだ。英国では植民地経営での稼得資金を運用する会社がグローバルに展開したことで金融が発達し、製造業等のグローバル競争力低下による凋落もカバーしてきた。日本も経済成長で1,900兆円程度まで積み上がった個人金融資産を使って、資産運用や直接金融の市場を活発化させて国力を更に向上させなくてはならない。そのような状況を生み出すと共に各種規制を緩和し、東京がロンドンに比肩する国際金融都市になれば、様々な人材が集まり、ひいては産業界の生産性も高まってくるだろう。以上も含めた種々の対応を取らなければ、他国にはない豊富な資産が、無為に減少していくことになる。

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