金融ファクシミリ新聞社金融ファクシミリ新聞

金融ファクシミリ新聞は、金融・資本市場に携わるプロ向けの専門紙。 財務省・日銀情報から定評のあるファイナンス情報、IPO・PO・M&A情報、債券流通市場、投信、エクイティ、デリバティブ等の金融・資本市場に欠かせない情報を独自取材によりお届けします。

「国債増発は大きなチャレンジ」

財務省
理財局長
大鹿 行宏 氏

――このほど、理財局長に就任された…。
 大鹿 私自身の経歴は、主計局の在籍が長く4つの課長職を経験した。理財局は94年~95年に国債課に所属しており、その頃の日本経済を振り返ると、金利低下が始まったところだった。それでも当時の国債のクーポンは長期国債で4%程度あったが、私が国債課を離れた後、95年半ばに顕著な金利低下となり、何故こんなに下がるのかと同僚たちと話していたことを覚えている。一方で、当時は20年国債の市場を拡大させようと考えていたところだった。

――コロナ禍対策と税収減で、国債は再び大量増発されている…。
 大鹿 コロナ対策のための第一次、第二次補正予算を経て、2020年度の新規国債発行額は過去最高の90兆円超となった。この規模は未曽有の経験であり、大きなチャレンジだ。幸いなことに、米国の金利が低下している事や、入札実績が堅調な事などから、7月以降の増額局面でも安定的な推移を見せている。しかし、今年度の増額は短期債を中心に対応しているため、来年度にその償還が到来し、借換えが必要になることを考えると、今後の年限構成をどのようにしていくかが大きな課題だ。今後の状況を見ながら、一定の期間をかけて正常状態に戻していかなくてはならないのだが、一方で、現在のコロナ禍がいつまで続くかわからず、その辺りも見極めながら、節目節目で年限の平準化を図っていくつもりだ。

――金利が低い今は、超長期国債に力を入れるべきだという意見と、コロナ禍が短期で収束するのであれば短期国債で良いという意見もある…。
 大鹿 今春の補正予算編成の段階では、短期間に約100兆円規模の国債増額が決まったため、消化の安定性を考えて短期国債を中心に増発した。ただ、金利変動リスクや中長期的なコストという観点で考えるならば、今後も短期中心という訳にはいかない。この辺りは、上手くバランスを考えた年限構成にしていかなくてはならない。

――民間では先んじて50年債を発行している。この未曽有の中で、他国を参考に100年債、或いは永久債を出すというような議論もあるようだが…。
 大鹿 先ずは、市場のニーズをきちんと捉えることが大事だ。国債は、市場や国民の信頼で成り立っている。関係者の協力によって、ここまでの規模に充実させてきた。本当に50年以上の年限の市場ニーズがあるのか、そのニーズがどの程度なのか、新たな年限債を出すに値するほどの規模があるのかどうかを踏まえるべきだ。

――国債発行の制度はこれまで十二分に整備されてきたが、改めて何か新たな取り組みはあるのか…。
 大鹿 制度面については、毎年のように試行錯誤を繰り返しながら、かなりやり尽くしてきている面はあるが、新たな取組としては、超低金利下における表面利率の在り方について、下限が現在0.1%のところを来年4月から0.005%に変更することとしており、それに向けて準備を進めているところだ。これは、発行予定額と収入金額との乖離を埋めること以上に、現在の金利環境に合わせた発行の在り方として望ましい変更であり、市場機能の充実につながると考えている。

――日本の入札方式は価格コンベンショナル方式が主流で、米国で主流の利回りダッチ方式は40年債に使われている程度だ。今後、ダッチ方式を増やしていくようなお考えは…。
 大鹿 そういう議論があることは承知しているが、日本は市場の成熟化に伴って、むしろダッチ方式からコンベンショナル方式へと変わってきたと認識している。米国はダッチ方式へと変わってきたが、フランスやドイツなど他の主要国を見れば、やはりコンベンショナル方式が主流だ。どちらが良いという訳ではないが、入札参加者にとってコンベンショナル方式の方がわかりやすいといった事や、応札した価格での落札が期待できる事、それによって市場が活性化するといった事を勘案すると、敢えて、今それを変える必要性は無いと考えている
――プライマリー・ディーラー(国債市場特別参加者)制度の魅力が低下しているという声もあるが…。
 大鹿 プライマリー・ディーラー制度には、第Ⅰ、第Ⅱ非価格競争入札や流動性供給入札への参加資格といったメリットもある。市場との対話を重視するという面でも、常に当事者たちからの忌憚のない率直な意見にしっかりと耳を傾けていきたい。また、政府と日銀には、実質2%の経済成長の実現に向けて、大胆な金融政策と機動的な財政政策、或いは成長戦略を組み合わせていくという方針がある。我々はそれに対応し、色々なツールを使って市場機能の発揮、市場の維持・活性化を図っていく。想像力を逞しくして、今後も色々なことを検討していきたい。

▲TOP