衆議院議員
国民民主党 党首
玉木 雄一郎 氏
――野党は分党と結党を繰り返し、非常にわかりづらい状況になっている。今回、新たな国民民主党が目指すところは…。
玉木 2017年にできた立憲民主党と旧国民民主党が合流して一大野党を目指そうと、皆が納得する条件交渉をこれまで重ねてきたが、結局、今年8月11日に立憲民主党が提示した条件では旧国民民主党全員の同意を得ることが出来ず、交渉は役員会レベルで事実上決裂した。しかし、秋にも総選挙かと言われていた衆議院内では、野党として一つの塊になったほうが当選しやすいという考えをもつ議員もいたため、合流したい人は合流するという事で分党の決断に至った訳だ。我々新たな国民民主党としては、これまで同様、政策提案型の改革中道政党を貫いていく。与野党関係なく、このコロナ禍で大変な思いをされている日本国民や日本企業を救うために、一つでも多くの政策を出すことが、今の政治家の役割だ。これまでにも、10万円給付案、持続給付金にフリーランスを含める案、家賃補助案など、国民の役に立つ政策を提案してきた。今後も継続して具体的な政策案を出し、その実現を図っていきたい。国民民主党が標榜するのは「偏らない、現実的な、正直な政治」だ。その立ち位置をしっかりと守り、コロナ時代の新しい野党の在り方を模索していく。
――憲法議論や安保問題を考えていく上でも、同じ考えを持つ人達で一つの党を結成するのは当然のことだ…。
玉木 憲法議論についてはこれまで以上に積極的に行っていくつもりだ。すでに改正草案もほぼ出来ている。私は、議会政治においては議論を戦わせる事が何より大事だと考えており、審議拒否はしない。論点を明らかにするという意味でも議論を積極的にやりたいし、賛否あってよいと思う。その中で我々なりの考え方を示していきたい。また、安全保障問題については、これだけ米中対立が深まっている中で、野党議員としても外交安全保障に対して現実的な解決策を示すことは不可欠だ。さらに、経済や企業が元気にならない限り、働く人も元気にはならない。国民一人一人を豊かにするためには、日本経済を底上げしていく具体的な政策提案が必要だ。
――憲法9条の改正案とは…。
玉木 自衛隊を戦力として認めたうえで、その戦力行使がどこまで認められるかという縛りを憲法に明記すべきだ。様々な戦いの形態が想定される今の時代に、どういう時に武力を行使することが我が国の平和主義と整合的なのか、その外枠の議論を、国民全体を巻き込んでコンセンサスを得るための議論が、憲法議論においては一番大事だ。日米同盟もあるが、基本的に自分の国は自分で守るべきであり、米中対立が激しさを増す中でどのように日本が対応していくかはどの政権にとっても大きな課題だ。
――中国包囲網ともいえる「アジア版NATO」についての考えは…。
玉木 中国は引っ越し出来ない隣人だ。彼らが国際秩序のなかで責任ある大国として振る舞うことを期待する。それが日本対中国の一対一の関係では難しいのであれば、多国間で中国に対して然るべき提言を行うような外交が必要だが、私はアジアで軍事同盟的なものを結ぶよりも、「21世紀の日英同盟」を結ぶべきだと考えている。ここで指す「英」は旧英連邦を意味し、インド、シンガポール、オーストラリア、ニュージーランド等すべての旧英連邦の国々を含む。これらの国々と同盟を結ぶことが出来れば、経済を含む安全保障上の問題において、日本が相当大きなポテンシャルを持つことになるだろう。
――南シナ海などで中国が覇権主義を拡大させている中で、日本のシーレーンは守ることが出来るのか…。
玉木 日本の海上交通路について言えば、日米同盟は地域全体の公共財という役割を果たしているため、それを強固に保つことは必要だ。同時にアセアン周辺諸国の協力も欠かせない。ただ、米国がアジアへのコミットメントを弱めていこうと考えているのであれば、力の空白が出来てしまうため、そうならないように米国をアジアに関与させ続けるという努力を日本はし続けなくてはならない。シーレーン防衛は我が国にとって生命線とも言える。何かがあった時の後方支援の在り方を事前に定めておくことは重要だ。
――国内の経済政策については…。
玉木 自民党政権は約7年8カ月の間、アベノミクスという名目で経済政策に力を注いできたが、この間の実質GDP伸び率は平均約0.9%でほぼ横ばいだ。しかもケインズが言っているように、あらゆる財政政策、金融政策も長期に亘れば効果を発揮しない。日本がバブル崩壊後に本来やるべきだった事は、より付加価値の高い産業構造に転換していく、本当の意味での構造改革だ。今こそ原点に返り、生産性の向上とそれを支えるためのイノベーションを追求しなければならない。そのためには優秀な人材の教育が必要だ。この30年程度で国の予算規模は1.7倍に膨れており、特に年金・医療・社会保障は3.3倍になり、高齢者に対する資金投入が増大している一方で、教育や科学技術に対する予算規模は昭和後期から全く変わっていない。国際競争力ランキングを見ても、日本は平成最初の頃は4年連続1位だったのに、今では30位台で中国や韓国にも負けている。企業の時価総額ランキングでも、平成初めの頃はトップテンの内7社を日本企業が占めていたが、今ではトヨタ自動車が40位台に入る程度だ。これは、これまでに各国が教育や科学技術にかけた投資額の差だ。
――教育や科学技術に対する投資をもっと増やしていくべきだと…。
玉木 日本は天然資源がないため、人材という資源で劣る訳にはいかない。それなのに、今の日本の子供たちは、世界中の、特にアジアの子供たちに比べてハングリーさが足りないように感じる。同じ世代で諸外国と戦うためには、今の日本の人材育成教育のままではいけない。全ての子供たちが質の高い次世代型の教育をしっかり受けられるように、公教育にはもっと力を注ぐべきだ。そして、経済格差が教育格差につながり、生涯所得の格差を生み出す今の悪循環の仕組みを早く変えなければならない。また、日本の科学技術力に関して言えば、中国や米国が軍事技術を民間に転用して発展しているのに比べて、日本ではそれがない分、遅れがちだが、技術大国日本をもう一度取り戻さなければ、これからの日本の主要産業はどうなっていくのか。日銀が大量の株を購入したり金融緩和をしたりと、表面上の数字をよく見せる術は沢山やっているが、本当に焦点を当てて進めるべきことは、国家の基礎体力をあげることだ。そういった部分で、我々が新しい提案をし、国会で皆の目を覚まさせるような議論をしていきたい。コロナ禍によって社会や経済の在り方が大きく変わってきている。それにともない、政局の在り方も野党の在り方も、変わっていかなくてはならない。その第一歩として、国民民主党としての新たなスタートをしっかりと踏み出していきたい。
――安全保障にも関係する農業政策について…。
玉木 今回のコロナ禍で再認識したのは、日本国内で一定程度の食料を生産できる体制を維持しておかなければ、有事の際に国として存続できなくなるということだ。安全保障上の観点から見て、食料にしてもエネルギーにしても、国内需給をいかに高め、国内回帰をいかに進めていくかが重要になっており、グローバルに開き続ける時代から、「戦略的に閉じる」分野をきちんと見定めていく時代に変わってきている事を感じている。特に、農業や漁業という一次産業は、地域創生にも繋がっている。農地の多面的機能を生かし、集落を維持していくことがその土地を守ることになるという考えから、米国や欧州には田舎の農業を支援する制度もある。日本は海に囲まれているため、そういう発想はあまりないが、地方の土地を大事にすることは、国家保全のために重要だ。先進国で行う農業は、途上国で作るよりはるかに高いコストがかかるが、安全保障などの観点からも、農業は税金を投入してでも守るべき業種だ。産業のための農業と、地域保全のための農業を、その目的を明確に峻別したうえで、それぞれに応じた税を投入していくことが、これからの農業政策には必要だ。