金融ファクシミリ新聞社金融ファクシミリ新聞

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「『国消国産』で食料安保を推進」

聞き手 編集局長 島田一

――全国農業協同組合中央会(JA全中)の役割について…。
中家 全国には584の農業協同組合(JA)がある。各地域のJAは、組合員のニーズに応じて、農業生産に必要な肥料や農薬等の資材を共同で購入したり、農畜産物を共同で販売したりする経済事業や、貯金・貸出などの信用事業、生命・建物・自動車等の共済事業など、幅広い事業を展開している。JAが事業を総合的に行うなかで、それぞれを効率的・効果的にすすめていくため、事業ごとの専門的な組織は都道府県段階や全国段階で各系統に分けられている。このJAグループの中で、代表・総合調整・経営相談の3つの機能を担うのがJA全中だ。「代表機能」として、組合員・JAの共通の意思の結集・実現をはかっていくことで、生産現場や組合員・JA等の会員からの声を積み上げ政策企画・提案や、多様な媒体を活用した情報発信などに取り組んでいる。また、「総合調整機能」として、地域・事業の枠を越えてJAグループの総合力を発揮していくため、戦略立案や組織・系統間の様々な調整などを行っている。最後に、「経営相談機能」として、創意工夫ある取り組みに積極的に挑戦するJAに対し、営農経済・くらしの活動・人材開発・情報システムなどの分野での支援や、JAの経営健全性を確保するため、法令・会計・税務・人事労務等に関する情報提供・改善支援などもすすめている。

――食料安全保障の重要性が増している…。
中家
 食料安全保障に対するリスクは、近年、非常に高まっている。要因は、日本における食料自給率の低さと生産基盤の弱さだ。農業に就業する人たちは高齢化し、担い手が不足している。担い手がいない田畑は荒れ果てて使い物にならなくなる。その結果、農地が減少しているというのが現状だ。さらに、ここ最近の自然災害は農畜産物の生産に多大な影響を及ぼしている。この異常気象による自然災害は世界的な問題だ。日本の食料自給率は38%であるが、残りの62%を海外に頼ろうとしても、世界中で農畜産物の生産量が低下すれば輸入も出来なくなる。加えて、世界の人口は増加しており2050年には95億人にもなると言われている。人間の増加に対して食料供給が追い付かない時代になってきている。現在の飢餓人口は約7億人とも言われているが、今後この数字はさらに増えていき、世界的な食料難となっていくだろう。一方で今後も、農業は国際化していく。TPPや日欧EPAなどで日本の農業が市場開放していることをみても、それは明らかだ。

――日本の食料自給率をアップさせるための契機となるものは…。
中家 COVID-19(新型コロナウィルス)の流行でマスクの需要が急激に増えたことが、日本の食料自給率を考えるための一つの教訓となっている。日本のマスク自給率はもともと2割程度だったが、COVID-19の発生によって政府によるマスクの生産支援を受け、大幅に自給率をアップさせた。ただ、工業製造品であるマスクは生産に乗り出せば、一定期間において生産量を増やすことができるが、農畜産物は生産量を増やそうと思って直ぐに増やせるものではない。荒れた農地を元に戻すには、5~10年のスパンで考えなくてはならない。そのことを理解してもらうために、我々はあらゆる機会を通じて発信していきたい。日本の農地を疲弊させてはならない。そして、消費者の皆さんにはこうした日本の食料や農業に関する実態を知っていただき、出来るだけ国産農畜産物を応援していただきたい。

――農業を活性化させるためのJAの取り組みは…。
中家 現在、全国のJAで農業者の所得増大をさせるための取り組みを行っている。一円でも安いコストで一円でも高く買っていただけるような販売戦略を考え、肥料農薬など生産資材の低価格化等に取り組むことで、農業者の所得増大に繋げていきたいと考えている。日本の生産者は、日本の多様な地域に合った様々なものを生産しているが、どうしても自然との関わりがあるためリスクもある。リスクヘッジがきちんとなされ、安定した収入に見直せなければ、農業に従事する人が減少していくのは当然だろう。こういった生産者の状況を消費者の皆さんに理解してもらうのは簡単なことでないと思うが、食の安全性などからみても、今の日本の農畜産物を評価いただければと思う。

 

――農作物の生産にあたっては、どういった部分に一番費用がかかるのか…。 
 中家 今、生産者も生産者団体も「食の安全・安心」に非常に関心をもって取り組んでいる。それはもちろん消費者のニーズに応えるためだが、そのために検査も厳重になっている。規定外の農薬が使われていては出荷できない。各生産者は、いつ、何処に、何の農薬を、希釈何倍で使用したか等の記帳が義務付けられており、それをもとにJAの指導員がチェックしている。決められた希釈以外で農薬使用した場合、すべて出荷停止となる。大変なのは、例えば、違う作物の畑が隣り合わせになっていて、農薬が風に運ばれて隣の畑にかかってしまった場合だ。故意ではなく、風によって規定外の農薬が畑に運ばれ、それが数値として残った場合でも、それまで一生懸命作ってきた作物を出荷できなくなる可能性がある。そういった不慮の事態を防ぐため、各生産者は物凄い神経と労力、費用を使って、「食の安全・安心」を作り上げてきている。これは消費者には見えないコストになっている。

――流通コストが高すぎるという声もあるが…。
 中家 例えば、流通を簡素化する形として、生産者が直接宅配業者に頼んでネット販売する方法もあるが、その場合は生産者自身が代金回収などの販売リスクを負うことになる。また、個人販売における農作物がきちんと農薬管理などを行っていたかの証明が出来ない場合もあり、これは消費者にとってのリスクになる。JAグループは生産者・消費者双方にとってのメリットを追求しつつ、流通コスト低減に向けた取り組みをすすめていく。

――今後の日本の農業への抱負を…。
 中家 5年前、一連の農協改革により農協法が改正されたが、我々JAグループは「農業者の所得増大」、「農業生産の拡大」、「地域の活性化」を基本目標とした創造的自己改革の実践をすすめてきた。組合員の願いを実現するため、これからもJAグループ一体となって自己改革に取り組み続け、日本の農業、農村が元気になるように努めていきたい。また、今回のコロナ禍では食料の輸出規制を行う国が出てくる事態となったが、これを契機に、食料安全保障に関する課題を国民の皆さんにもっと浸透させていきたいと考えている。自国で消費するものは自国で生産するという「国消国産」の重要性を広めていきたい。この他にも、企業がテレワーク等を定着させていく中で、例えば、地方へ移住し、会社員として働きながら農業に取り組む人たちが出てくるというような、東京など大都市からの「一極集中の是正」の流れにも期待している。

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