金融ファクシミリ新聞社金融ファクシミリ新聞

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「コロナ禍で地銀の存在感示す」

コンコルディア・フィナンシャルグループ 代表取締役社長
横浜銀行 代表取締役頭取
大矢 恭好 氏

――コロナ禍で金融機関の在り方も変わりつつある。今の地方銀行の役割は…。
 大矢 今回のコロナ禍で、今までの金融機関にあった「雨が降ったら傘を取り上げる」というイメージが少し払しょくされ、「有事でも役に立つ」に変化しているように感じている。同時に地方銀行も「お客様の役に立つことで収益をあげていく」或いは「事業者を守ることで地域の経済や雇用を守る」という存在意義が明確になってきている。バブル崩壊後、都市銀行と地方銀行の役割は大きく分かれ、この10年間でその役割分担がようやく定着してきていた。そこに今回のコロナ騒動が起き、我々としては、とにかく資金破たんを起こさせないよう、資金繰りを出来る限り協力するという姿勢で臨んでいる。すでに取引のあるお客様にはもちろんだが、今回初めて融資を申請されるお客様には政府の実質無利子融資制度等を活用してニーズにお応えしている。ただ、資金繰りをつけるというだけでは何の解決にもならない。コロナ後のビジネスモデルが今のままでは通用しないという事であれば、我々がビジネスモデル変更のための支援やコンサルティングを行い、最終的には返済できる体力をつけてもらうことが重要だ。デフォルトを起こさないようにするため、雇用を守るため、企業を守るための取り組みが大事だと考えている。コロナ禍がいつまで続くかわからないが、キャッシュアウトが続くとすると財務体質は毀損する。内部留保が無くなり債務超過になった時に、経営者に倒産という選択肢を選ばせるのではなく、雇用を抱え、社会的企業価値のある会社については、我々の支援で当面の資金繰りをつけ、本業に専念する時間をつくり、安定したキャッシュフローを生み出していく。今後、数年間はこういった仕事が続くと考えている。

――マイナス金利が続く中、今回のコロナ禍で産業構造自体が変わってきている。対策は…。
 大矢 マイナス金利の中では融資だけで利益を上げる事は難しいため、ファイナンスも主力だったシニアローンに加えてメザニンローンも取り入れ、エクイティやCP、SP、直接金融のアドバイスも出来るようにしてきた。同時にビジネスマッチングやM&A、事業承継のお手伝いなど非金融分野のサービスも提供してきている。特に今後は、ファイナンス面に加えて非金融の分野でお客様の価値向上につながるような取り組みをしっかり行っていくつもりだ。また、お客様への情報提供の一環として行ってきたセミナーについては、ウェブやオンラインという形で、密集を避けたサービス方法へと変更し、お客様の安心安全を第一に考えている。オンライン商談会では、テレワークを支援するシステムやサーモグラフィ等、今の時代に合わせたソリューションを提供し、大変ご好評いただいている。

――金利と手数料収入、アドバイスフィー等のバランスは…。
 大矢 銀行は一時期それらをはき違え、かなり銀行都合に寄っていた部分があったことは間違いないが、それはこの10年程でかなり軌道修正されてきた。お客様に本当に評価されるものでなければフィーも払っていただけないし、場合によってはトラブルになる事もある。そういう意識のもと、投資商品の販売にしても、適切な手数料でお客様の財産の全体のポートフォリオを作成し、環境の変化に応じて少しずつ中身を変えていくやり方に変えたり、保険商品も補償付きの付加価値を生むような、本当にお客様の役に立つ商品ばかりを揃えている。法人ビジネスについても同様に、企業にとってのファイナンスの意味を常に問いかけながら、ベストのタイミングで最も効果的な資金調達や経営アドバイスを提供していきたい。そのために、きちんとした関係性を構築し、持続的な付き合いになるよう努力している

――銀行の統合再編について…。
 大矢 日本は基本的にオーバーバンキングという認識はある。特に預貸中心の銀行は、日本国内の企業が資金余剰であることを考えると今後のニーズは少ない。さらに言えば、東京一極集中が続き、地方経済が疲弊している現実を考えると、地方銀行は非常に難しい立場に晒されている。それを少しでも挽回するために、地方創生で地域経済の活性化を試みているが、ビジネスにつなげるにはまだ時間がかかる。その間、それぞれの地方銀行がコスト削減を図る方法として、効率化のために、ある程度の規模を確保するようなことは一つの選択肢としてあるだろう。企業サイドも同様に、グローバルに戦っている日本企業の中には規模が小さいという問題がある。今回のコロナ禍では、サプライチェーンの問題で需要が激減した。そこで生産性を上げるために、ある程度の規模感が必要となり、事業承継や他企業との提携といった、これまでは喫緊とされていなかった課題がメインとなり加速していく局面になりつつある。

――地方銀行の合従連衡やネットワークを利用した取り組みについて…。
 大矢 地方銀行が色々なもの全てを一行で備えるには、費用対効果が低いという場合に、数行が協力するような取り組みはあるだろう。実際にシステムに関してはすでに相当グループ化されている。そういったことをきっかけに、バックオフィス業務を同県内で共同化したり、運用についても共同で取り組んだり、非競争分野で協力していく事は今後ますます増えていくと思う。一方で、地方銀行の統合に関して言えば、お互いの戦略が一致しているか、きちんとした相乗効果が生まれるか、そういったことをきちんと株主の皆様に説明できるかも考えたうえで行わなくてはならず、実際にそういった統合事案は少ない。全ては統合によって企業価値があがるかどうかだ。

――決済手段については、フィンテックの登場で銀行不要論も出ているが…。
 大矢 決済分野での現金の取り扱いはコストがかかるため、銀行としてもキャッシュレスの方向に進めたいと考えている。それに限らず、コロナ禍によって今後ビジネスモデルが変わり、非対面での取引が増加していくとなれば、フィンテックが持つ能力はますます重要になっていくだろう。我々にとってもそれはビジネスチャンスであると捉え、すでにそういった面でノウハウを持つフィンテック関連企業との連携を進めているところだ。

――金融検査マニュアルが廃止されたが、これにより変わったことは…。
 大矢 マニュアルの廃止は随分前から言われていた事だ。しかも、これまでもマニュアル通りの検査や行政指導が行われていた訳ではなく、実質的には合理的な判断であれば各銀行が行うことを認めるというスタンスだったため、今回の廃止によって何かが劇的に変わるとは思っていない。ただ、マーケットへの説明責任も含めて、これまで以上に自主的な判断で経営を律していくことが求められるということだろう。

――地銀に対するBIS規制について…。
 大矢 コロナ騒動が長引き、企業倒産が相次ぐという事態になれば、銀行としても資本が毀損していく局面は大いに予想される。そこで自己資本比率が低下し、銀行の弱さが露呈すると、企業を支えたくても支えることが出来なくなり、経済を回す力が無くなってしまう。それは国民経済にとって不幸なことであり、そう考えると、ある程度の規律は必要なのだと思う。金融庁はこれまでの強権な指導から伴走型へと変化し、「自己責任による経営」を基本としている。金融機関が国民経済を守り、地域経済を守るのだとすれば、金融機関が潰れないように金融システムの維持に努めるのが金融庁の役割であり、バブル崩壊時の銀行破たんによる地域経済の疲弊を繰り返さないための当然の指導だろう。ただ、足元では当局が介入するような状況にはないといえる。

――その他、金融庁への要望や提案は…。
 大矢 業務範囲の規制についてはもう少し緩和しても良いのではないかと思う。その最たる例が不動産ビジネスであり、ここはなかなか風穴があかない。銀行と事業会社のファイアーウォールの緩和が金融庁だけで解決できる問題ではないのは承知しているため、例えば、成長戦略の中の未来投資会議などでこういった銀行の規制緩和を議案として取り上げれば、企業活動や個人の生活がより便利になることにつながり、地域経済が力をつけていくのではないか。

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