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「日台は共通の価値観を保有」

台北駐日経済文化代表処
代表
謝 長廷 氏

――台湾は、新型コロナウィルスの封じ込めに成功した数少ない国の一つだ。具体的にどのような対策を行ったのか…。
  台湾は今日(7月20日現在)までに455人の新型コロナウィルス感染者を出したが、海外渡航歴のない台湾内感染者数はわずか55名だ。そして今日までおよそ3カ月間、国内の新規感染者を出していない。台湾では最初から感染者のルートをしっかりと把握していた。昨年12月末頃に中国武漢で新しいウィスルによる病気が発生しているという情報を掴み、12月30日から武漢から台湾への人の出入りを厳しく検査した。そして1月20日に疫病対策司令部を作り、同時にそれまで約80%を中国から輸入していたマスクも、台湾国内で製造できるように体制を整えた。これまで1日180万枚だったマスク製造量は、今では台湾内で必要な1日1800万枚を超える2000万枚近い製造が可能となっている。

――マスクを国内生産して台湾内での供給量を満たすまでには時間がかかったと思うが…。
  最初の頃は需要に供給が追いつかなかったため、マスクは配給制にしていた。1995年から実施していた「全民健康保険」のカードを利用して、国民1人当たり1週間に3枚、少し落ち着いた頃から2週間に9枚のマスクを、薬局やコンビニエンスストアでいつでも受け取れるような仕組みを作った。ITを利用することで、どこに行けばマスクの在庫があるのかという情報もすぐ分かるようにした。日本では新型コロナウィルスが流行りだした最初の頃、マスクの供給が需要に追い付かず、マスクの値段が高騰し、買いだめをするために長蛇の列を作るという大変な事態に陥っていたが、台湾では配給制にしたことで、そういった混乱はなかった。

――感染者や濃厚接触者、海外渡航履歴者の行動管理も徹底していた…。
  台湾ではロックダウンすることなく、人々はほぼ普段どおりの生活をしていたが、感染者や濃厚接触者、海外から戻った人たちには14日間の隔離を義務付けた。感染者や感染が疑われる人たちの居場所はアプリを利用して行動が分かるように徹底し、隔離指定された場所を少しでも離れれば、本人への警告はもちろんのこと、警察にもすぐに知らせるようなシステムを作り、隔離された人には1日当たり1000台湾ドル(約3600円)の補償金を支給し、一方で違反者には最高100万台湾ドル(約360万円)の罰金を科した。実際に違反して最高額の罰金支払いを命じられた感染者は、人に害を与えた罪で公表されている。このように色々な政策を駆使して新型コロナウィルスの封じ込めに成功している。

――SARS(急性重症呼吸器症候群)の教訓が生かされている…。
  2003年初めに中国でSARSが発生した際、台湾はWHO(世界保健機関)に参加出来ず、感染拡大を食い止める効果的な手を打てずに多くの犠牲者を出した。政府はその教訓から、WHO加入も中国からの情報提供も期待できない中での対策を考え、法整備を進めてきた。実際に「伝染病防治法」は2003年半ばから6回の修正を行っている。様々な感染症の封じ込めには、権限を持つ政府省庁間の協力が大変重要だ。今回の新型コロナウィルスも、台湾では多くの人が早い時点でSARSに似ていると察知したが、潜伏期が長く、無症状でも感染が拡がるという点が厄介だった。そこで「伝染病防治法」によって政府省庁間の協力体制を整え、早い段階で厳格な水際対策と隔離、接触者の特定と感染経路の把握に務め、とにかく経路が追えない市中感染が拡がらないように全力で取り組んだ。規定に基づき高リスク対象者には住宅検疫隔離を実施した。

――中国本土では経済が減速しており、その国内不満を抑えるためなのか、覇権主義的な色彩をますます強めている。台湾への影響は…。
  国内の求心力や団結力を求めるために対外挑発することは、中国の伝統的なやり方だ。インド、フィリピン、ベトナム、台湾、香港、米国等、全方位に手を出している。特に最近の中国は、米国との対立で致命的なダメージを受け、今年のGDP成長率は5%以下になると見られている。これまで中国の人民が共産党を支持してきた理由は、「自由はなくとも働いていれば収入が増えていく」という経済の発展に基づくものだったが、そこに陰りが見えている今、習近平氏は外国に対して色々なことを仕掛けることで、国内の高揚心を煽っていこうと考えているのだろう。とはいえ、ネットワークが発達している今、世論を完全に統制することは出来ない。今、中国人民の一部或いは半分の人たちが、インターネットの情報等によって中国の本当の姿を知っている。真相を知っている以上、国外逃亡や財産の移動などが行われていてもおかしくはない。

――ソ連崩壊の時は、何の前触れもなくあっという間に崩れ落ちたが、中国でも同じことが起こるのか…。
  直前まで表面的には穏やかなまま、一夜にして形成が変わるという事はこれまでの歴史をみても珍しくはない。独裁体制とはそういうものだ。実際には、今、世界の中で単独で中国に対抗できる国は米国以外にはなく、中国の覇権主義に不満を持つアジアの小国が各々で声を上げても中国の力で制圧されてしまう。対抗するためには、各国が協力し、団結して解決していくしか方法がない。台湾としては、アジアを安定させるため、自由を守るために、世界各国と協力していくつもりだ。台湾もかつて民主運動が弾圧された歴史があり、38年間の戒厳令解除後も「動員勘乱時期国家安全法」が制定され、それに対する抗議と弾圧があった。今の香港情勢を見ると、以前の台湾の様で、感慨を覚える。自由や人権は天から落ちてくるものではない。闘争するものだ。実際に台湾も闘争して、それでも自分たちの力ではどうにもならないと思った時、国際社会が助けてくれた。それは重要な力だ。

――台湾政府から日本政府に望むことは…。
  台湾と日本は共通の価値観を持っている。それは自由、民主主義、人権、法による支配という価値観だ。これら国際的な普遍価値を共有している事を重視してこれからも友好関係を続けていきたい。また、台湾と日本の国民の間には長い歴史の中で培ったお互いの信頼感がある。それを土台にして、災害時の協力や技術革新の共有など、広い意味でのお互いの安全のために、日本と台湾の間でさらなる交流が生まれることを期待している。そして最後に、日本政府から台湾の国際組織への参加に対する後押しをお願いしたい。特にWHOやCPTPPへの台湾の参加は、日本にとってもメリットがあるはずだ。現在、年間約200万人の日本人が台湾を訪ねている。台湾の貿易に支障が出れば日本にも当然影響があるだろう。台湾がなければ地理的な空白もでてくる。特に日本が主導しているCPTPPにおいては、台湾の加入を強く望んでいる。(了)

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