金融ファクシミリ新聞社金融ファクシミリ新聞

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「世界で活躍できる日本女性に」

津田塾大学
理事長
島田 精一 氏

――新型コロナで、どこの大学も大変な状況だ…。
 島田 通常、4月から日本の学校は1学期に入るが、3月くらいから新型コロナが拡大し、4月からの対面での授業は難しいという流れになった。そのため、やはりオンライン授業しかないということになった。津田塾大学では1学期開始当初からはできなかったが、1カ月程度遅れて始め、今はすべてオンラインで行っている。文科省の指示があり、学校自体は封鎖している。許可のない人は入れず、学生はもちろん部活もできない。入学式さえできなかった。現時点では10月以降に入学式をやる予定で考えてはいる。オンライン授業については、当大学は比較的スムーズに進んだほうだろう。当大学には学芸学部と総合政策学部と、学部が2つある。総合政策学部は3年前にスタートし、今年4年生が入ったため、ようやく4学年揃った形だ。学芸学部は学科が5つあり、英語英文学科、国際関係学科、新設の多文化・国際協力学科それから理系で数学科と情報科学科がある。オンライン授業の導入は技術的な面で苦労したが、情報科学科の教授陣はシステムのプロが中心のため、ここが中心となってオンライン化を進めた。オンライン化では、今までの講義のやり方を変えなければならないが、教授によってはITリテラシーが十分でない方もおられるため、ここが大変だった。特に文系の学部は難しい場合も多いが、当大学は比較的規模が小さいうえ情報科学科があったことで、比較的スムーズに移行できた。当面の問題は9月からの第2学期以降だ。

――具体的には…。
 島田 9月以降もすべてオンライン授業でやっていくかどうかという点だ。今後の方針は今のところ未定だが、来年の春くらいからはおそらく徐々にリアル講義とオンライン講義と両建てで行っていくことになるだろうと考えている。例えばワクチンや治療薬が出てきて、コロナも風邪の一種のようになってくればまた違うが、それはどうもまだメドがついていないようであり、そのためいろいろと検討しているところだ。ただ両建てという形式にもそれなりに問題点がある。津田塾大学は4割近い学生が地方出身で、東京や千葉、神奈川などの首都圏から通う学生が6割くらいだ。地方出身の学生は寮や下宿などから通うことになるが、今はそういう学生たち(外国留学生も)は実家に帰り、実家でオンラインの授業を受けている。しかし、週に1、2回リアル講義をする形になると、そのためにもう一度下宿などを探さなければならない。寮も今閉めているのを再開しなければならない。例えば9月から11月はオンラインで、12月は集中的にリアル講義でやるとすると、実家から通える首都圏の学生は問題ないが、地方の学生や留学生は対応が難しい。そうなるとオンライン講義を主軸でやる必要があるのではないかと考えている。その場合、数か月に1回リアル講義を行うとすれば、短期間ならどこかの安いホテルに泊まって大学へ来るということもできるだろう。ほかの問題としては、両建てだと、授業のプログラミングが難しくなるということもある。それなら全部リアルかオンラインで統一したほうが良いということになる。

――両建ても確かに問題はある…。
 島田 ただそれでも、ある程度実地演習のようなものが必要な学科や講義はある。他の大学で言えば、医学部などだ。実際に人体の解剖をしなければ医者にはなれない。津田塾大学でも短期留学などが出来ないため、教育としては不十分だ。新型コロナが収束に向かっていれば良いが、今の状況が続くとすれば、秋になってもリアル講義を中心にすることはできない。そうするとまたいろいろな問題が表面化してくる。特に1年生はキャンパスでの授業を一度も経験していないわけだ。津田塾大学の小平キャンパスは広く自然豊かなキャンパスにもかかわらず、そういったところでキャンパス生活を送ることができず、体育館も閉鎖しているため部活もできない。大学の授業そのものはオンラインでできるとしても、やはり本来の大学教育から見ると内容が不十分だ。ディベートもテレビ会議などでできるとはいえ、会って目を見ながら対面で話すのとでは全然違う。この一学期はやむを得ずオンラインで授業はやったものの、それでも今の学生たちからキャンパスライフは失われている。大学というのは友人を作るところでもあるが、友達ともネットでしか会ってないということもある。高校生たちから自分たちが勉強できないということをきっかけに、秋入学の話も出ていた。高校は大学ほど先生たちがスキルを持っていない場合も多いため、オンライン授業が難しく、結局宿題のようなものを課すだけになってしまうなど、高校生たち自身が大学入試に心配になってしまったようだ。一時期あまり教育の仕組みをわかっていない政治家などがそれに乗っかる形で秋入学の話が出た。ただ、秋入学については文部科学省や大学のなかではもう20年来の積年のテーマとなっている。6~7年前にもやろうという取り組みがあったが、結局反対も根強く案は潰れてしまった。

――秋入学への変更はまだまだ課題が多い…。
 島田 そもそも秋入学の一番のメリットは欧米のほとんどの大学と入学・卒業時期を合わせられる点だ。日本の大学が4月に始まることになった理由については所説あるが、国立大学は全体経費の9割くらいのお金を国からもらって成り立っており、そのお金は4月~翌年3月の会計年度に合わせて出てくるため、秋入学に変えると非常に計算が難しくなる。そういった問題があることに加え、すべての教育に関するありとあらゆる習慣が、4月~翌年3月に合わせられているため(もちろん別の問題として、4月新卒入社をどうするかも大きいテーマだ)、大学だけを秋入学にすると、例えば3月に卒業した高校生は秋まで何をするのかということになってくる。遊んでいるのではないかという問題も当然あるが、ただ遊んでいるわけにはいかないから予備校に行くということもあるだろう。そうすると、予備校に行くための費用が掛かる。そういったことを考えると、小学校から大学まですべて秋入学にしなければならなくなる。以前浮上した秋入学の議論は、大学だけ、あるいは大学と高校だけといった話だったが、大学と高校だけをやったとしても、それでは3月に卒業した中学生はどうするのかという問題が出てくる。そのため、欧米では小学校からすべてが秋入学となっている。加えて、例えば今年秋入学にしたとすると、今の高校3年生は来年3月には卒業してしまうため、6カ月間どうするのかという移行時の問題も出てくる。その間また学校を続けるとすれば、高校は現在無償化されているが、私立は無償ではないため、その場合はその間の授業料をどうするのかといった話にもなる。この半年間の空白はすべての学年で起きることになる。その半年間で世界漫遊をしたり、インターンをしたりとかすればいいという説もあるが、かといってすべての学生ができるというわけでもない。また、欧米などと入学時期が異なるために、日本の大学生が留学しにくくなっている。そういったことを踏まえると、秋入学自体には大賛成だが、相当準備してお金を掛け、政府と協力して行う必要がある。少なくとも4~5年掛けた周到な準備が必要だ。コロナを理由にすぐやろうとしても難しい。とはいえ、コロナは1つの大きな転機でもあり、抜本策を考える好機でもある。

――津田塾大学の理事長としての抱負は…。
 島田 課題解決型の教育をする大学を作る目的で、総合政策学部を3年前に千駄ヶ谷に創設した。今まで日本の大学のほとんどはどちらかと言えば知識を教えるだけの大学だった。津田塾大学創設者の津田梅子さんはアメリカから1882年に帰国した際、日本の女性は社会であまりに自立してないとの思いを強く持ち、当大学の基本理念を、社会でオールラウンドに活躍できる自立した女性を育てることとした。つまり企業でも、官庁でも、あるいは国際機関や地方自治体、あるいは教育現場でも自分の力で生きていく女性を育てることだ。そういった自立した女性を育てるためには、大学で知識を吸収するだけの教育ではいけない。そのため、今の総合政策学部の課題カリキュラムのベースは、課題を自分で見つけることだ。格差問題や政治・経済のグローバリゼーション、社会保障制度、貧困問題、あるいは日本の小中学校のいじめ問題など、そういった具体のテーマを見つけ、憲法や経済政策、経済原論など自分のテーマに合う科目を取り、4年間勉強していく。そしてそのベースにあるのは、リベラルアーツはもとより、英語とICT教育だ。英語は当大学が得意としているところだ。それに加えて情報科学、ICT。英語とICTの基礎を徹底的に勉強し、そのうえで課題解決型の勉強をし、卒業論文を書いて卒業する。それでできれば、大学院にも行ってその課題解決研究を続けていくという、その基礎を作るのが総合政策学部だ。英語については、ビジネス英会話・英作文ができる程度になって全員が卒業するようにしたい。ICTはプログラミングやデータベースの基礎を学ばせる。そのうえで課題を見つけ、課題解決を後半の2年でやっていくのが総合政策学部だ。ほかの学部についても、経済学や英語のコミュニケーション能力を身に着け、国際関係学科は英語だけでなく第2外国語も履修し、国際関係問題を勉強する。数学科は情報科学だけでなく、当然英語もビジネス英語レベルにする。ビジネス英語ができるうえに女性でさらにICTの基礎ができていれば、将来社会に出ても失職することはない。さらに課題解決能力があれば、どこの組織に行ったとしても、この組織の課題は何か、どうしていけばいいか、と考えることができるということであり、日本だけではなく世界で日本の自立した女性が活躍できる基礎をつくることに当大学は貢献していきたい。

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