金融ファクシミリ新聞社金融ファクシミリ新聞

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「顧客本位第一で変化に挑戦」

SMBC日興証券
代表取締役社長
近藤 雄一郎 氏

――反グローバル化、自国主義が新たな潮流となりそうな様相もあるが…。
 近藤 反グローバル化の流れ、米中の対立は、一朝一夕には終わらないだろう。長い戦いになるのではないかと考えている。新型コロナウイルスの流行によりワクチンや抗ウイルス薬が開発されるまでは、意識的に反グローバル化の話題が出てくるだろう。各国政府が強制的に経済を止めたことで景気は急速に悪化し、その後に一気に財政、金融ともに大量の資金を出動した。結果として、一時的に大きく下がった株価は急回復し、株式市場は非常に活況になった。ただ一方で、実体経済は相変わらず悪い状況であり、本当に苦しい状況の方もいる。そういった厳しい状況の方々がいるなかで、資産価値は急速に回復したため、二極化が大きく進んだと感じている。

――コロナ後の証券の経営環境をどう見るか…。
 近藤 我々はNTTドコモと3月に提携し、dポイントで100ポイントから投資ができる日興フロッギーというサービスを展開している。こういった取り組みをおこなって感じるのは、資産形成層の方々が、若いうちから将来への不安を感じ、将来への準備を進めているのではないかということだ。こうした点から、個人金融資産の1900兆円は、今後動くのではないかと考えている。資本主義が生き残ることを前提に考えると、マーケットにはまだ拡大余地があるだろう。企業に関しても、これまでは株主至上主義が求められていたが、今ではそういった動きは株主の間でも否定的な考え方になってきており、持続的成長を目指す企業や社会に、しっかりと還元できる企業が求められる風潮になりつつある。今までの株主至上主義、あるいはROE絶対重視のような考え方は変化していくだろう。また、景気が悪化すると、さまざまな業種でコア資産に資本を集中させる可能性があるため、収益の見えないビジネスの売却や、サプライチェーンの健全化に向けて、新たな提携先を模索するような動きも出てくるのではないか。

――ホールセール、リテール、それぞれの戦略は…。
 近藤 リテールに関しては、富裕層ビジネスの強化が先決だ。我々はSMBCグループとして、銀行、信託、そして証券と、さまざまな強みをそれぞれ持っている。資産運用ビジネスにおいて、我々証券のアドバイス業務というのは、一丁目一番地にあたるため、証券が主体となって、お客様の抱えているさまざまな課題をしっかりとヒアリングし、それぞれが強みを持つサービスを提供していく。今まではどちらかというとお客様の紹介が中心だったが、今後は高度なソリューションを提供するための機能連携を中心とする新たなステージに引き上げを行い、ビジネスを展開していきたい。

――証券は証券、銀行は銀行と、それぞれの強みを活かす…。
 近藤 顧客本位の業務運営を具現化するため、今まで推進してきたストック型のビジネスモデルをより進めなければならない。当社では、機関投資家レベルの高度なポートフォリオ分析を提供する、米ブラックロックのポートフォリオ・リスク分析プラットフォームを、国内で唯一、個人のお客様向けに提供している。当社で金融資産を1億円以上お預けいただいているお客様のうち、約30%がそのサービスを利用している。また、当社でお預かりしている商品だけではなく、他社で保有している商品も含めたポートフォリオを分析できる。加えて、本格的な資産管理型プラットフォームの構築も検討しなければならないと考えている。株、債券、投資信託などのすべての商品を一括してラッピングして運用・管理を行い、売買の都度ではなくお預かりする資産残高に応じ一定の報酬を徴収するサービスを今中計中に検討していく。

――ホールセールについては…。
 近藤 現環境下において、利回りを追求する投資家に対しては、エッジの効いた商品を提供していくことが必要になってくるのではないか。投資家にそうした商品を提供することにより、発行市場、流通市場でのビジネスマッチングができるのではないかと考えている。M&Aについてもこれからもさまざまな案件が出てくるだろう。当社では、投資機能の専担組織である投資開発部を3月に設置した。ベンチャーコミュニティへのアクセス増強、有望企業への株式直接投資を行うことで、IPOビジネスやビジネスの協働につなげたいと考えている。

――低金利環境が続くなか、証券業以外の業態を手掛け始めている証券会社もあるが…。
 近藤 証券ビジネスからは絶対に外れない。SMBCグループ傘下ということもあり、さまざまな制約がある中で、事業部門に対する投資のほか、昨年度立ち上げた、中堅・若手社員による価値創出プロジェクトであるNikko Venturesから、最新デジタル技術の活用等によって、新しく、お客様にご満足頂ける体験に繋がるサービスや商品の開発を進めている。また、インフラ面のような非競争分野で、他の証券会社と協力し、共同のプラットフォームで何かできないかというようなことも考える余地はある。

――新社長としての抱負は…。
 近藤 まずは私のモットーでもある、「変化を楽しむ」、「お客様を大切にする」ということだ。100年以上も生き残ることができたことは、本当にお客様のおかげだと考えている。そのため、お客様を大切にするという精神は忘れてはならないことであり、個人、法人にかかわらず、お客様とは、一生お取引いただきたいという想いがある。それにはまず、お客様の要望ニーズをしっかりと聞くことだ。リスクのある商品を扱っているため、お客様にご迷惑をおかけしてしまうこともあり得るが、先輩方が築いてくださったお客様との関係を崩してはいけないと考えている。目指すのは、お客様を大切にし、お客様から信頼されることで、適切かつ健全な収益をいただけるようなWin―Winの関係を築くことだ。そして、社員全員がこの会社に勤めていることを誇りに思えるような会社にしていきたいと考えている。

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