金融ファクシミリ新聞社金融ファクシミリ新聞

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「信頼をもとに次の次元に進出」

野村ホールディングス
代表執行役 社長
奥田 健太郎 氏

――新型コロナウィルス(COVID-19)の影響で、証券ビジネスが変化しつつある…。
 奥田 ビジネスの進め方が大きく変わってきている。当社では緊急事態宣言が発動された時、全国内の店頭業務を一時休止し、お客様にはなるべく迷惑がかからないような形で業務を継続させてきた。第2波、第3波に備えて現在でも、在宅勤務による出社社員の制限等を行い、お客様や社員の安全を第一に考え業務を継続している。そしてこれを機に、お客様との関係がメールやウェブ、オンライン会議等を利用した非対面ビジネスへと一気に移行している。これまで接客部分では、大事な部分はお客様と膝を詰めて会話して、納得していただき契約を進めていくという形式だったが、非対面が中心となる中でどのようにビジネスを進めていくかが今後の課題になろう。

――億単位の取引では対面でなければ無理だという価値観は無くなっていくのか…。
 奥田 非対面で多額の取引を進めていくことに、まだ若干の抵抗感をお持ちになる方もいらっしゃるかもしれないが、今は待ったなしの状況だ。そのため、お客様も協力的で、これまでなかなか進めることが出来なかった非対面ビジネスが比較的進めやすい環境になっている。そして、この大きな変化は不可逆的なものになろう。その中で我々が出来る事は、会わずして納得していただけるためのきちんとした説明をしていくことだと考えている。

――一方では、米トランプ大統領の自国ファーストに伴い反グローバルという流れが広がってきた。そこにコロナ禍が拍車をかけ、金融市場にも変化をもたらすという見方もあるが…。
 奥田 新型コロナウィルスの影響で、世界中が国だけでなく州や県の境目まで意識するようになってきており、反グローバル化の流れは加速している。株主ファーストを唱えていた米企業の経営者たちも、昨年あたりからステークホルダー重視へと少しずつ変わり始めており、その動きは今回のコロナ禍で少し加速しているようにも思える。基本的に金融ビジネスは市場が世界的に繋がっており、お金もグローバルに流れているため、基本的な部分は変わらないのだが、規制には影響される業種だ。昨年10月末に行われた野村財団主催のマクロ経済研究会議のテーマは「非グローバル化の経済学」というもので、すでに自国中心に物事を考える動きは数年前からあったのだが、今回のコロナ禍で各国の財政や中銀がそれぞれの政策を取り始め、規制が強化されているのを見ていると、金融市場にもグローバリゼーションという考え方ではないものが出てきている。政策が自国重視になれば企業業績にも影響が出てくるため、その辺りをしっかり注視し、それぞれの特性を持った市場とどのように繋げていくのかに注力していきたい。コロナ禍後の金融市場は、グローバルに戦う部分とそうでない部分に分かれてくるだろう。

――御社の経営方針を、パブリックからプライベートへと転換するに至った背景は…。
 奥田 これまでの当社の強みは株や債券といった伝統的な商品だったが、世界的な低金利が続く現在、しかも、今後も続くであろうコロナ禍において、どんなに運用のニーズが多くても、伝統的な商品だけでは理想どおりのパフォーマンスを出すことは難しい。プライベートエクイティ、プライベートデッド、オルタナティブ、或いは不動産といった部分でもトップのポジションに立たなければ、今後、日本のお客様にも海外の投資家にも良いサービスは出来ない。パフォーマンスやお客様のポートフォリオを考えると、どうしてもプライベートの力が必要であり、それがない限りお客様のニーズには合わないと考えてこのような経営方針を打ち立てた。プライベートには色々な意味があるが、基本的には「あなただけのために」にというような、いわゆるカスタマイズしたサービスに力を入れていくという事だ。ただ、資金調達等を見ていると、コロナ騒動前後から社債がかなり増えており、この部分についてはこれまで同様しっかりとサポートしていくつもりだ。先が不透明な今の時代において、何事にも柔軟に対応していきたい。

――営業部門の見直しやCIO(チーフ・インベストメント・オフィス)グループの活用については…。
 奥田 個別の商品を売買していただく伝統的な証券業務から、全体的な資産を預けていただくことを目指すにあたっては、全ての事においてきちんとアドバイスできる人財を揃えてサービスの質を上げていかなければならない。そこで、これまで機関投資家向けに資産運用のアドバイスに携わってきた人財を中心に再編してCIOグループを組成し、個人のお客様に対しても、機関投資家向けと同等のポートフォリオ提案や運用アドバイスが出来るようなサービス提供を目指している。また、CIOグループによる付加価値を活かして、お客様とベクトルを同じにしたいという考え方で、例えば成功報酬的なモデルを作ることも多様化の一つとして検討している。商品の取引毎に手数料を取るのではなく、レベルフィーを導入することで、お客様とのWin-Winの関係も築くことが出来るだろう。

――ホールセール部門については…。
 奥田 ホールセール部門では、これまでバランスシートを使うビジネスへの依存が大きかった。しかし、現在の我々のバランスシートのサイズとマーケットのボラティリティを見ていると、バランスシートを使うビジネスに加えて、アドバイザリーなどのオリジネーションビジネスを伸ばす必要があると考え、今はそこに取り組んでいる。また、この数年間、パフォーマンスを上げる事とコスト削減を両立させるためにAIの活用に力を入れてきた。昨年2月にはブレバン・ハワードと共同でシステムを開発し、ヨーロッパの国債でAIを利用したトレーディングを行っている。特に顧客ニーズが高いイタリア国債では高い成果を出しており、今後は米国債や日本国債へ適用することを計画している。今後もAIによるサポートを利用して、お客様に最適なサービスを提供していきたい。ただ、どんなにAIが多用されても機械が代わることのできない業務はある。例えばM&Aのアドバイザリー業務など、そういったマンパワーが必要な部分と、AIに任せられる業務を的確に判断しながら、今後の人材分配も見直していきたい。

――未来共創カンパニーの役割は…。
奥田 当社国内の特にリテール部門では、非対面ビジネスの窓口サービス向上のためにデジタル化を進めており、そのリード役となるのが未来共創カンパニーだ。例えば、情報提供や資産管理などのアプリ開発を進めたり、これまで当社独自ではアクセスが難しかった資産形成層に対して、LINE Financial株式会社との合弁会社「LINE証券」を通じたアプローチを進めたりしている。デジタル分野に関してはまだまだやるべきことが沢山あり、その部分でスピーディに結果を出してくれることをこのカンパニーには期待している。

――証券業以外の他業種への進出を目指す会社もあるが、御社では…。
 奥田 既存のビジネスの延長にはない新しい野村へ変わるための変革が必要であると考えている。当社の経営ビジョンである「社会課題の解決を通じた持続的成長の実現」を達成するために、今、私たちが立っている場所とは違うところ、違う次元に野村をもっていく。グループ内にあるあらゆるリソース、専門性、経験、そして最大の財産である人材とお客様からの信頼をもとに、「次の次元」に進んでいきたい。

――最後に、抱負を…。
 奥田 会社として「野村は金融市場を通じて社会の発展に寄与する」と言い続けているように、私自身もその気持ちを強く持ってこの会社を率いていきたい。特に、資本市場のあらゆることに関して積極的に提言するような会社として改めて確立し、そういった中でESGについてもしっかりと考えて取り組んでいくことが出来れば、当社の社員も、誇りや志をもって働いてくれると思う。そのうえで、働いていてワクワク感のあるような、そんな会社にしていきたい。

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