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「コロナ検査は甲状腺がんと極似」

3・11甲状腺がん子ども基金
代表理事
崎山 比早子 氏

――2011年の原発事故から9年。福島の子供たちの甲状腺がんの現状は…。
 崎山 東電福島原発事故により放射性ヨウ素を含む膨大な放射性物質が放出され、福島県を超えて東北、関東甲信越一帯を汚染した。放射性ヨウ素が甲状腺がんの原因になることは、東電原発事故の25年前に起きたチェルノブイリ原発事故の時に明らかになっていたが、政府は福島に限って事故当時18歳以下だった県民に対して甲状腺検査を行うこととした。検査は超音波を使って、20歳までは2年毎に、20歳を超えると5年毎に実施されている。調査の計画から検査結果の集計・解析までの実務は、放射能の影響は笑っている人の所には来ないと言って県民を無駄に被ばくさせた山下俊一氏が副学長を務める福島県立医大に業務委託された。結果は3?4ヶ月毎に福島県に設置されている検討委員会に報告されている。

――検査を受けている人の規模や、実際に甲状腺がんと診断された人の数は…。
 崎山 検査の対象者は約37万人。受診率は一巡目で約82%、2巡目は71%、そして3巡目は約65%と、回を重ねるごとに下がっている。高い受診率を保ちながら継続した調査を行い正確な数字を記録しておくことが非常に重要なことなのだが、実際には正確な実態がつかみにくい状況になっている。とはいえ、通常よりも明らかに多い甲状腺がん患者が福島で出てきているのは事実で、2020年2月の検討委員会までに明らかになっている甲状腺がん及びその疑いがあると診断された方は237人もいる。その数は1巡目に116人、2巡目に71人、3巡目に30人、4巡目に16人と少なくなっているが、新たな患者はいまだに発見され続けている。さらに、25歳以上の人たちに行う節目検診(受診率10%以下)でも、甲状腺がんと診断された人が4人いる。

――通常の甲状腺がんの発症率は…。
 崎山 小児甲状腺がんの発症は通常年間100万人に1?2人と言われているが、福島ではそれをはるかに上回っている。検討委員会も1巡目と2巡目の結果をそれぞれ取りまとめ、いずれも数十倍の多発であることは認めている。しかし、「多発は検査をしたために発見されたスクリーニング効果か、あるいは将来的に臨床診断されたり、死に結びついたりすることがないがんを診断している過剰診断の可能性が高く、放射線の影響とは考えにくい」と結論づけた。スクリーニング効果であれば、2巡目や3巡目に新たな患者は発見されないか、或いは発見されても僅かなはずだ。また、手術の大部分を執刀している県立医大の鈴木眞一氏は、その診断において転移や浸潤が多いという理由で、過剰診断についての検討委員会の見解を否定している。

――検討委員会も政府も、被爆と甲状腺がんの因果関係を認めようとしない…。
 崎山 放射線との因果関係を調べるためには線量推定が必要だが、甲状腺の被ばく線量は僅か1,080人しか調べられていない。1巡目の検査では、地域の汚染度によって区分けし、汚染の高い順に避難区域、中通り、浜通り、会津地方について罹患率を比較している。その結果は、汚染度と罹患率に関連性は見られず、放射線の影響とは考えにくいと結論された。しかし、2巡目にも同様の解析を行ったところ、1巡目とは異なり線量の高い所では罹患率が高く、線量にしたがって罹患率も低くなっており、地域との相関が認められた。にもかかわらず、この結果を見て検討委員会は、地域の汚染と関連させる研究手法は誤りを起こす可能性があるので採用しないとした。その換わりとして国連科学委員会(UNSCEAR)が2013年に発表した信頼性の乏しい線量推定に基づいて区分けをし、解析をし直した。その結果、線量と罹患率に相関関係が認められず、被ばくの影響とは考えられないと発表した。疫学調査として、この後出しジャンケンのようなやり方はありえない。研究者の間でも強く批判されている。

――結局、正確な甲状腺がんの患者数や実態は把握されていないということか…。
 崎山 被ばくの影響を調べるために正確な線量と患者数を把握することは最低限必要なのだが、線量は先述の通り信頼性に乏しく、患者数も検討委員会に報告されないケースがあることが当基金の事業等から判ってきた。例えば、県民健康調査で直ちに悪性ないしその疑いと診断されずに通常診療で経過観察に廻された人は、その経過中にがんと診断されて県立医大で手術を受けても検討委員会に報告されない。そのようなケースは鈴木氏によると19例ある。さらに、県民健康調査以外でがんと診断されて手術を受け、当基金に申請された県民は18人いる。こういった人たちは政府主導の検査解析には含まれていないと思われ、それはつまり、正確な患者数を掴まないまま分析をしていたということになる。不正確な数字をもとに因果関係を調べてもそれは意味のない事であることを検討委員会の専門家は当然知っているはずなのに、なぜ是正されないのか、理解に苦しむ。

――御基金の現在の活動内容は…。
 崎山 当基金では、放射性ヨウ素が飛んだ地域に居住していて、事故の時18才以下で甲状腺がんと診断された方の支援を行っている。皆様からのご寄付により2016年12月から給付活動を開始することができ、2019年12月末迄に160人の甲状腺がんの方々に給付を行った。160人の内、福島県民は104人で、県外の方も56人いる。甲状腺がんと診断された方には10万円を給付し、再手術、アイソトープ治療が必要になった方にはそれぞれ10万円を追加している。また、県外で働いたり、進学したりして受診のために福島県に戻る方の交通費などには適宜給付を行っている。福島県民は18歳まで医療費が無料で、19歳以上の方で甲状腺検査後に生じた医療費をカバーするサポート事業があるが、受診のために仕事を休んだ際の補償や、交通費などのサポートはない。さらに言えば、福島県以外で甲状腺がんにかかった人はこういった支援もなく大変だと思う。当基金では日本女医会のご協力を得て年2回、原発事故後の健康に関する1日無料電話相談を行っているが、それは福島県民だけでなく誰でも利用できる。甲状腺がんは比較的予後が良いと言われており、致死率はそれほど高くないが、若い時にがんと診断され、いつ再発するかもしれないという不安をずっと抱えた患者さんやその家族への精神的、経済的な支援は、絶対に必要なことだと思う。

――国はこのような状況に対して何をすべきとお考えか…。
 崎山 子ども被災者支援法という法律があるのだから、政府はそれに基づいて被災者の支援をすべきだと思う。基金の活動も本来ならば政府がやるべきことだ。また、放射性ヨウ素は福島県外にも流れたのだから、検査はその地域もカバーすべきではないか。そして、全ての被災者に健康手帳のようなものを配布して、生涯に亘る医療のサポート体制を整えて欲しい。しかし実際は、甲状腺検査だけ見ても検討委員会の中には過剰診療を防ぐためと称して検査を縮小させるような動きがある。それに反対している委員もいるが、現実に受診率は減少している。チェルノブイリ事故後30年以上経っても受診率が90%以上を保つウクライナのように、日本も事故を起こした国の責任として正確な記録を残すことが、国のなすべきことではないか。きちんと実態が把握されなければ、有効な解決策は見つからない。

――国がきちんとした検査をしないという点は、現在の新型コロナウィルスにおける対応とよく似ている…。
 崎山 原発事故直後、環境放射線が非常に高くなった時期に文科省は線量測定を止めさせた。そして福島県は子どもの甲状腺被ばく線量を測定していた研究者に中止を要請した。その理由は県民を不安に陥れるからだということだったが、それは逆だ。実態を把握して、きちんと知らせる方が不安は解消される。これは今の新型コロナウィルスへの対応とよく似ていると思う。国はその気になればやれるはずの大規模PCR検査を行わなかったために感染者が掴めていない。感染者を同定して隔離することが感染拡大を防ぐ最も近道であるという事はだれもが理解できる。実際に中国、台湾、韓国はそれでウィルス感染の収束に成功した。

――我々がとるべき行動は…。
 崎山 昨年は洪水が多かったり、今年は新型コロナウィルスの大流行だったりと、人々の関心は原発の放射能被害から別のところに移っているが、私たちは9年前の3・11原発事故で引き起こされたこの大きな問題を忘れてはならない。放射能被害はウィルス感染や洪水の被害と違って因果関係を証明することが難しい。実際にこれだけ甲状腺がんが福島で増加していても、政府は放射線の影響を否定しているし、この問題をあえて報道しないような動きもある。しかし、東電福島原発の放射能は何十万年もそこにあり続ける。そして、今起きているコロナウィルス感染と同じように、他人事ではなく、いつか自分に降りかかってくるかもしれない問題だという事をしっかりと認識してもらいたい。そして、その被害者となってしまった人たちへのご理解とご支援を心からお願いします。(了)

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