金融庁 監督局長 栗田 照久 氏
――新型コロナの拡大を受け、有価証券報告書の提出期限を9月末まで延長するなど、金融庁はさまざまな対応を採っている…。
栗田 本来、制度として、3月期決算企業の有価証券報告書の提出期限は6月末だ。これをまず9月末まで延長した。とはいえ、3月末時点での株主に対して配当を払いたいため、やはり6月に株主総会を行いたいという企業が多い。しかし、6月の総会に向けては、5月には決算を固める必要があるが、新型コロナの拡大で5月の決算・監査業務が困難となる企業が多くなることが想定される。特にこの作業に対応する監査法人にとっては厳しいだろう。そこで、6月は株主総会の延期手続きをし、3月末時点の株主への配当だけを決めて決算は先延ばしとし、決算・監査業務が終了してから改めて株主総会を開くというスケジュールを1つの案として提案した。この期限の延長は有価証券報告書についてだけではなく、金融機関の決算についての当局への報告に関しても事情があれば猶予を認めている。決算・監査業務において特に難しいのは海外部門についてで、海外はロックダウンされている場所もある。しかし、機密事項などの関係上、実地に行かなければならない場合もあり、ここでどうしても監査が滞ってしまう。
――融資態度の弾力化など、中小・小規模事業者の資金繰り支援については…。
栗田 まず、金融機関における融資先の評価については、既に検査マニュアルを廃止したことから、それぞれの金融機関や融資先のビジネスモデルに合わせた融資方針・リスク管理の仕方を考えていただければいいと考えている。金融機関からは、たとえば貸倒引当金の見積もりについて、算定期間を長くする、あるいは過去の貸倒れ額を参考とする、といった対応をとりたいという声を聞いている。ここ数年間の好景気の状態だけではなく、過去のリーマン・ショック等の経済状態を踏まえて貸倒れを見積もることで、将来の事業再生支援に備えるといった方針に基づくものであり、ここは監査法人としっかり相談していただきたい。また、零細企業からは資金繰りで悲鳴が上がっているが、これらに対応することが民間金融機関の本業中の本業だ。金融機関には、借り手の実情把握をきちんと行っていただきたい。既存の融資については、条件変更などを柔軟に対応するよう求めており、つなぎ資金としての新規融資についても柔軟に、かつスピーディーに行うよう要請している。特に、書類が多いことが障害となっているため、不要な書類は求めないようお願いしている。GW前に実質無利子・無担保融資の開始が決定され、GW期間中は融資の相談が増えることが予想されたため、金融機関にはできる限りGW中も営業するよう要請した。ただ、新型コロナで自宅勤務となっている企業が多いために、不急の用で銀行に訪れる人も多くなっている。さらに、銀行側も出勤抑制で人手が減っており、銀行が「3密」の様相となる懸念があるため、お客様自身も不急の用で銀行に行くことは控えていただきたいとお願いしている。
――家賃の扱いも取りざたされている…。
栗田 政府としては、店子が資金繰りで困っているのであれば家賃の減免などにも柔軟に対応していただきたいと考えており、家賃の減免などで大家側の資金繰りに問題が生じるようであれば、ここは金融機関にしっかりとサポートをしてもらいたい。家賃の問題もそうだが、今回はとにかくスピード勝負であり、リーマン・ショックの時よりも早く対応する必要が出ている。財政面で補正予算が成立したが、その執行にはある程度時間が掛かるため、それまでのつなぎが重要だ。
――新型コロナが長期化すれば、大企業も資金繰り懸念が出てくるが、そこへの対応は…。
栗田 新型コロナが長期化すれば、企業への影響もより広がってくるため、そのリスクは我々も考えていかなければいけない。まず1つは借り手サイドの資金繰りがだんだん苦しくなっていったときに、どう支援をするか、どう資本性資金を入れていくかだろう。また、金融機関においても多額の貸出金の償却・引当が必要になり、財務的な影響がでてくる可能性もある。この点については、基本的には金融機能強化法等をうまく活用して、国内における金融機能が維持されるようにしなければならない。自己資本が厚い企業は、当面は問題ないとはいえ、やはり長期化してくると厳しいものがある。金融機関が借入金を通じて支援をするにしても限度があるため、そのときは資本性の資金も考えなくてはならない。日本は金融危機やリーマン・ショックなどを乗り越え、必要な仕組みは整備されているため、既に構築した制度なども活用し、弾力的に対応していく。
――BIS規制については…。
栗田 今般の新型コロナの影響拡大に伴い、事業者の資金繰り支援等が必要になることを受け、金融庁ウェブサイトにて、健全性基準に関して、①経営安定関連保証制度等により保証された貸付等に係るリスクウエートは、貸付等が全額保証されているものであればゼロであること②資本バッファーは、損失を吸収し実体経済に対する貸出を維持するために規制上の資本バッファーを必要に応じて取り崩すことが可能であること③流動性カバレッジ比率(LCR)は、ストレス時には、流動性資産の利用等により、基準値を下回ることが許容されること――を確認した。また、中央銀行総裁・監督当局長官グループ(GHOS)において、金融機関の実務上の負担を一時的に軽減するためにバーゼルⅢ最終化の実施時期が22年から23年へ1年延期となったことを受け、本邦においても23年3月期からの実施を予定している。そのほか、国際統一基準の金融機関に適用されているレバレッジ比率規制について、金融政策との調和を図るため、一時的に、算定から日銀預け金を除外するよう、6月末基準からの適用に向け、告示等の改正案をパブリック・コメントに付している。
――保険会社にも保険約款の柔軟な解釈・適用などを求めている…。
栗田 保険会社にもがんばっていただいている。生命保険については、例えば亡くなられた場合の保険金の災害割増が新型コロナの場合は対象外となっていたが、これはお支払いするという話を聞いている。また、軽症の場合は自宅療養やホテル待機としているが、この場合でも入院特約の支払いを約款の柔軟な解釈でお願いしている。損害保険については、ホテル・旅館などでの休業補償や消毒などの費用の補償はどうなるのか、という問題があった。約款通りに適用しようとすると、補償されない場合が多くなってしまうが、そこは各損害保険会社のご判断でやれることはやっていただいている。
――このほか、何か懸念などは…。
栗田 消費者金融の利用はまださほど多くは見られていないようだが、いわゆる給与ファクタリングや債権ファクタリングなどが確認されている。特に給与ファクタリングについては、給料を担保に高利でお金を貸しているようなもののため、貸金業登録を受けずに営むことは貸金業法違反だ。債権ファクタリングも安く買い叩く動きが見られているため、注意喚起を徹底していきたい。このほか、まだまださまざまな問題が出てくる可能性があるが、いずれにせよスピード感が大切であり、金融機能をフル活用してコロナ禍に機動的かつ弾力的に対応していきたい。