金融ファクシミリ新聞社金融ファクシミリ新聞

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『資産寿命』の長寿化に貢献

岡三証券  代表取締役社長  江越 誠 氏

――フィンテックがこれだけ活発化してくると、既に証券界も無視できなくなっている…。
 江越 私は入社以来25年近く岡三証券に在籍し、直近3年は岡三情報システムの経営に携わり、そのうち2年ほどは岡三オンライン証券のビジネスにも携わってきた。これまで岡三証券という対面証券ビジネスを中心に見てきた景色と、ネット証券やフロントビジネスを裏側から支えているシステムという立ち位置から見る景色とでは、見え方も考え方も全く異なっていた。私たちは岡三証券グループを親会社とするグループ企業集団のなかで、各子会社が独自の経営を司り、独自領域で業容拡大に努めてきた。私はこの3年間で異なる視点に立った経営を経験させていただいたおかげで、フィンテックという思想を取り入れて、お互いの企業が持っているノウハウやスキルを掛け合わせていくことで、お客様に提供できる付加価値を高められる可能性に気づき、さらに業務効率化による生産性向上に関しても相当の伸びしろがあることを実感することができた。

――効率化によって空いた人材はどこに充てていくのか…。
 江越 当初の段階では、営業社員のサポート業務に充てていくつもりだ。例えば今年の1月に「共用コンタクトセンター」を立ち上げており、この部隊は営業社員のサポート業務を中心に行う予定だ。営業社員1人で数多くのお客様に対応をすることは難しいが、共用コンタクトセンターと連携していくことで、お客様との接点における対応に厚みを持たせていきたい。共用コンタクトセンターは、当初は営業ではなく、サポートの役割としてセミナーの案内やお客様のさまざまな問い合わせに関する対応を担ってもらう。そうすることで、営業社員がお客様とのご相談に応じる時間を確保していくことが可能となる。

――対面営業の可能性は…。
 江越 これからの資産運用、資産形成という領域に関しては、大きなポテンシャルを感じている。私がそのように考える理由は少子長寿化という社会構造にある。現代医療の進歩により人生100年時代と言われ、長生きをする人が増える世の中となっていることは非常に良いことである反面、退職後も25年、30年と続く人生において、老後の「資産寿命」をどう伸ばしていくかは国民全体にとって非常に大きな社会課題だと考えている。今のゼロ金利時代においては、預貯金で資産を増やすことはできない。老後の定期収入としては公的年金が中心となる。リタイア後の人生のなかで、資産をどのように運用し、利用しつつ残していけば、お客様の人生と資産寿命のバランスが取れるのかは、見通しづらい。老後の人生をどのように思い描くかによって、必要となる資産は大きく変動する。実際に、そのお客様が未来に向かってどのような人生設計を描いているかによって、現在の生活スタイルや今後の資産運用ポートフォリオをどう構築し見直していくかは、お客様一人ひとり異なる。当社グループではまだ準備段階であるが、AIを活用した人生設計シミュレーションを開発中であり、営業社員がお客様と対話を積み重ねて、アロケーション提案や生活スタイルについてのアドバイス等も提案できるようになる。対面営業の強みは、お客様との接点から得られる情報の幅広さと奥行きの深さが、ネットで得られる情報とは異なり、真にお客様の心情に寄り添った提案というものができることにある。また、取引資産の規模が大きくなればなるほど、お客様ご自身の考えだけですべての投資先を選定するのはなかなか難しい。誰かに相談したい、自分の考えに対する専門家の意見が聞きたい、そういったお客様のニーズのなかにこそ、お客様を深く知る対面営業の強みはあると考えている。

――今は投資商品が非常に多くなっており、証券会社の営業マンより顧客のほうが詳しい場合もある…。
 江越 お客様はますます知識を備えられ、営業社員のキャリアによってはお客様のほうが詳しいというケースも確かにあるかもしれない。説明を受けずとも自分で商品を選べるため手数料が安いほうが良いというお客様もおり、そのようなお客様はオンライン証券のほうが合っている。ただ、私たちは証券のプロフェッショナルとして、お客様に最適なアドバイスや提案を行い、お客様が感じている課題に対してソリューションを提供できる存在を目指さなくてはならないと考える。そのためには教育に力を注ぎ、人材の質を高めていかなければならないであろう。その一方で、自分に合った投資とはどういうものなのかと悩まれているお客様も数多くおり、そのようなお客様に対しては対面営業で行う資産運用アドバイスへのニーズは十分にある。しかし、営業社員1人の能力ですべてのお客様に丁寧な対応が行き届くかというとなかなか難しい。そこにITの活用余地があると考えている。お客様から得られた情報を取り込み、お客様の考えに沿った提案をしていくためにITを活用し、さまざまなデータを元に営業社員がお客様一人ひとりに最適な情報、商品を提案していく。営業社員が自分一人で考えるのではなく、AIを活用することで客観的にお客様の情報を分析して提案をアシストしていく仕組みを取り入れていきたい。コミュニケーションのサポートツールとしてタブレットを活用することで、お客様との信頼関係(エンゲージメント)を深めていってもらいたい。対面であるからこそ得られるお客様の情報は非常に多い。ここに対面営業が勝ち残っていくための、別業態との差別化要因があるとみている。

――一方、株式は高速取引業者によってプロのマーケットになりつつあり、国債は日銀が大量に買っているなど、メインだった国債や株が手掛けにくくなっているが、そのあたりはどうか…。
 江越 確かに、国債はプロにとっても難しいマーケットになっている。株式に関しても、ダークプールや高速取引など、見えないところで売買が成立するような動きが主流になりつつある。そうなると、個人投資家がいままでと同じような感覚で、デイトレードで入っていくのは難しい。我々としては、短期的な株式の売り買いを好まれるお客さまにももちろん対応していくが、お客様が資産運用の一環としてポートフォリオを構築していくなかで、その資産の一部として有望な銘柄を中長期的な視野に立って提案していくスタイルも重視していきたいと考えている。

――今後の抱負は…。
 江越 現在は混沌とした環境下に置かれているが、将来を見据えると、私たちはビジネスを通じて社会課題の解決に多大な貢献ができる立場にある。例えば少子長寿化社会においては、いかに資産を構築、運用し、資産寿命をどう伸ばしていくかという課題が挙げられる。金利が消滅している時代において、若い方々にもリスクをとって資産運用していくということに慣れていただき、今後はある程度自助努力で資産形成をしていく必要がある。少子長寿化社会においては、若者から私のような50代、そして60代、70代といった高齢者に至るまであらゆる層が、「資産寿命」を意識して、資産運用に真摯に向き合う必要がある。お客さまはそれぞれ思い描く人生設計が異なるため、その思いをお客さまとの対話を通じて整理し、インプットしたうえで、お客様一人ひとりに最適な資産運用を提案していく。それが少子長寿化社会が生み出す課題解決への貢献につながるのではないかと考えている。社員一人ひとりも自分の仕事がそのような社会課題解決につながっているという実感を持つことが出来れば、やり甲斐を感じることができると思う。私は「エンゲージメント」を中心軸に置いた経営を全社員に向けて発信している。「エンゲージメント」はお客様からの愛着・信頼という意味で活用しているが、エンゲージメントの「エン」は「ご縁」のエンでもあると捉えている。当社が存在する地域でお客様の資産運用に貢献し、地域の潤いにつながっていけば、お客様自身の幸せだけでなく、私たちの幸せにもつながっていく。今後はトップとして理想を語るだけでなく、「実践」が最大のテーマとなる。豊かな未来の実現に向けて、中長期的な視点でさまざまな取り組みにチャレンジしていきたい。

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