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大麻解禁で交通事故多発

国立精神・神経医療研究センター  精神保健研究所  依存症薬物研究室 室長  舩田 正彦 氏

――何故、麻薬は違法とされているのか…。
 舩田 日本には、医薬品を含めて、使用すると止められなくなる物質について一定のルールで規制するという法律がある。その中で「麻薬及び向精神薬取締法」の中にリストアップされているものを麻薬と呼ぶ。麻薬として代表的な薬物としては、植物のケシを原料とするモルヒネやコカの葉由来のコカインなどが知られている。こうした天然成分由来の薬物に加え、その基本的な化学構造に修飾を加えた合成麻薬も存在する。それが、非常に強力な依存性を有するヘロインや、錠剤麻薬などと称されるMDMAなどだ。同様に、「覚せい剤取締法」という別の法律があり、アンフェタミンやメタンフェタミンが覚醒剤として規制されている。我が国では第二次世界大戦中より覚醒剤であるメタンフェタミンが一般に流通しており、戦後、乱用が大きな問題となった。それに伴い「覚せい剤取締法」が制定された。覚醒剤の依存性は強力で、我が国では現在も、最も乱用されている薬物となっている。

――覚せい剤の症状とは…。
 舩田 覚醒剤依存によって長期間使用するようになると、「覚醒剤精神病」という幻覚や妄想を伴う精神病症状が出ることがある。それによって深刻な健康被害の発生が懸念されている。一方、医療用の麻薬として鎮痛目的でモルヒネを使用する場合は、依存になりにくく、幻覚や妄想を伴う精神病症状は発現し難いため、医薬品としての使用が認められている。しかし、近年、米国ではモルヒネと類似の作用を示すフェンタニルやオキシコドンなどのオピオイド系鎮痛薬(オピオイド)の乱用が拡大しており、「オピオイド・クライシス」と言われる薬物の蔓延が問題となっている。これは、必ずしも生体の痛み症状がない状態で使用するため、薬物依存が問題になると考えられている。

――大麻については…。
 舩田 大麻はもともと日本では身近にあった植物で、麻繊維の原料として長い歴史の中で栽培されてきた。大麻の中にはTHCという幻覚症状や高揚感を引き起こす化学物質が入っているため、特定の部位だけを麻繊維の原料として利用してきた。また、日本固有の大麻は、THC含有量が比較的少ない種類に属するとされており、繊維原料として非常に有用と考えられている。大麻栽培のためには、大麻を規制する「大麻取締法」に従った栽培免許の取得が必要だ。一方、大麻が健康上に与える影響としては、依存性の問題に加え、運動機能や判断能力が低下する点が問題だ。具体的な例は、自動車運転での交通事故で、実際に米国のハイウェイにおける自動車事故の原因の多くは、大麻使用が関わっている。また、大麻使用によって幻覚や妄想を伴う大麻精神病を引き起こす危険性も懸念されている。大麻精神病の発症に対する医学的な評価は必ずしも一致していないが、疑いがある以上、安全ではないと認識する必要があろう。大麻使用は、個人的な健康被害のみならず、他者に被害を与えてしまう危険性がある点で、その取り扱いは注意しなくてはならない。

――それなのに、大麻を解禁するような国も出てきているのは何故か…。
 舩田 世界的に大麻規制が緩和される傾向が強くなっているが、その背景には各国の大麻蔓延状況が関わっていると考えられる。実際に、大麻の規制緩和を進めているカナダや米国(州ごとに規制状況は異なる)での大麻経験率に関する調査では、両国ともに生涯大麻経験率が40%を超えており、厳格な大麻規制の法律と大麻使用状況との乖離が生じている。つまり、大麻使用規制の厳罰化が機能しない状況になっているということだ。そして、それほど大麻が流通した環境にある中では、取締りを強化するよりも、お酒やたばこの様にきちんとしたルールを作ったうえで、年齢制限を施し、嗜好品として使用できるようにした方が、合理的で現実的解決法だと考えられた訳だ。特に大麻使用による健康被害を受け易い青少年には、大麻を使用させないための政策を導入せざるを得ない状況となっていると考えるべきだろう。実際、10代での大麻使用は依存のリスクを高めるとともに認知機能の低下をもたらすとされている。国や地域ごとに細則は異なるが、大麻使用の年齢制限を設定し、若者に大麻を売る行為への罰則は厳格化され、一回の大麻購入量の制限や、使用場所の制限もされている。また、大麻使用後の自動車運転については厳重に禁止されている。そして一般に、公共の場(レストラン、ションピングモール、公園、公道、コンサート会場、職場など)での大麻喫煙は禁止されている。決して、合法や解禁によって、誰もが自由に大麻を使えるようになるという状況ではない。

――大麻を産業利用するために合法化している国もある…。
 舩田 大麻の販売においても、産業経済のために大麻販売を合法化するというケースもある。これまで大麻取引は、違法行為として取り締まりの対象であったため、ブラックマーケットでの売買となっていた。大麻の違法販売により、相当額が反社会的組織などへ流れていると推測される。そこで、法改正をして大麻販売のライセンスを得ることで、正式に嗜好品大麻を販売することができる仕組みを導入する訳だ。大麻販売が合法化されると、大麻販売にかかる税収が見込まれるため、経済効果が期待されている。全く新しい産業として、見かけ上のGDPが引き上げられる。実際、米国の大麻合法化が進んでいる州においては、大麻販売により得られた税収を教育やインフラ整備に当てる政策が取られている。また、この大麻販売により得られた税収が、青少年を対象とした薬物防止教育や、薬物依存症者のための回復施設の拡充へ当てられている点も興味深い事だ。

――大麻の扱いは、今後どのようになっていくのか…。
 舩田 近年、米国では大麻成分CBDを特定のてんかん疾患(ドラべ症候群およびレノックス・ガストー症候群)の治療薬として使用することが許可された。他の治療薬が存在しないことから認可されたもので、病院の管理下、使用ルールを決めて使用することは問題がないと考えられる。重要な点は大麻吸煙による治療使用ではなく、大麻の有効成分を利用している点であり、成分に着目した医療への応用は用量、用法をコントロールできるため妥当な方法だと思う。引き続き、大麻使用のリスクと有益性を精査しいて行くことが重要であろう。大麻を嗜好品や医療への使用を目論んで合法化している国で、実際にどのような社会問題が起きているかを見てみると、交通事故が多発している事と、若者の大麻使用率がなかなか減少していないという事が明らかになっている。また、大麻食品の取り扱いも可能になったことから、乳幼児が大麻入りチョコレートなどを誤食して救急搬送されるといったケースも増えている。一方、世界的な調査より、最近流通している大麻の特性として、精神作用を示すTHC含有量が増加しており、大麻自体の精神作用が強力になっていることが懸念されている。各国の大麻規制緩和への流れは、大麻使用の安全性が確約された訳ではなく、大麻蔓延の状況や経済状況が関わるものであることを留意すべきであろう。(了)

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