東京都財務局長 武市 敬 氏
――世界の経済は国と国ではなく、都市と都市との戦いとなりつつあるなかで、税制改正による税収減は競争力という点で問題だ…。
武市 まずこれは、そもそも非常に遺憾だ。偏在是正措置と言われているが、特にこの10年ほどの法人関係の税に関しては、我々からすると不合理な収奪のような形だ。東京都を中心に活動して得た経済活動の対価としての法人二税であり、応益性を無視して関係のない地方に分散させられてしまうというのはどう考えてもおかしい。厳しい都市間競争力についてのご指摘もおっしゃるとおりで、東京はかろうじて、ロンドン、ニューヨーク、パリといった世界の大都市の一角だが、そのなかでいかに東京の力をさらにパワーアップさせていくかが重要だ。森記念財団が都市ランキングというのを出しており、東京は4年ほど前にパリを抜いて、4位から3位になった。ただ、ロンドンはオリンピックの頃にニューヨークを抜いて2位から1位になっている。東京もその1位を目指してやっているが、残念ながら逆に差は開いている。パリは抜いたものの、下からの追い上げが厳しく、そのなかで税収を取られるのは非常に厳しい状況だ。アジアのなかで、東京はかろうじてトップを走っているという位置にあるが、シンガポールや香港、ソウルなどとの競争は激しく、非常に危機感を持っている。そのようななかで、この10年間度重なる税制改正により平年度ベースで年間1兆円程度の減収となってしまっており、これがこの先も続いていく。非常に厳しい状況である。今は5兆円くらいの税収となっているが、税収が増える度に奪われるということを繰り返しており、本来様々な経済活動やインフラ整備への投資に回せるはずの都の税収が失われている。
――オリンピックへの減収の影響は…。
武市 オリンピック・パラリンピックは、最初に立候補したときから8年半ほど経ち、正式決定してからは6年半ほど経つ。大会開催都市となった場合には相当な金額が必要となるため、正式決定前から基金を貯めている。開催決定前に4000億円ほど、正式決定後、準備が本格化する前にさらに2000億円ほど積み立て、計6000億円ほどの準備をしていたため、まずはそれを直接的な経費に充てて、対応できるようにしている。一方で、会場の建設経費など直接的な経費とは異なる、例えば会場アクセスに必要な道路の整備や、あるいは会場のバリアフリー化や無電柱化など、そういった関連経費も8000億円ほどある。それもオリンピック・パラリンピック以外の基金を含めて手当しつつ、計画的に早めに準備をしながら実際の事業を行っている。
――オリンピックで貧乏になるとか財政が傾くとかそういった懸念はまったくないと…。
武市 その通りだ。福祉や教育などの水準を切り下げることなく大会を開催する。そこが第一で、第二では、大会の開催によって都の財政が悪化するようなことはないようにする。加えて、もちろん大会は成功させないといけないが、それに掛かる経費はなるべく抑えることを、成功に続いての目標として考えている。今8000億円ある関連経費のところは、ひとまず300億円ほど削減のメドが立っている。さらに本番を迎えるなかで、なるべく抑えることができれば良いと考えている。一方で、大会開催による経済効果は全国で30兆円、そのうち都内では20兆円ほどとされているが、単純な経済効果に加え、さらに大会を1つのきっかけとして民間でもさまざまな開発が進んでいるため、そういった意味で相当な経済の活性化につながっているだろう。
――地方債の発行では、グリーンボンドを先がけて発行しているが、今後の展望は…。
武市 これまでに3度発行しており、来年度は4度目の発行となる。3年前に初めて発行したときは、日本の自治体としては最初で、民間も含め数例しかないといったなか、我々東京都が手掛けたことでグリーンボンドが広がるきっかけの1つになっていった。市場の皆様にも評価いただいていると思う。そうしたなかで、今は最終需要が7倍近くと機関投資家の方の購入意欲が年々高まっているうえ、投資表明をされる投資家の方も増えており、グリーンボンドの購入を通じて社会貢献したいという投資ニーズに十分応えられていないと感じる。そのため、これまでは200億円発行し、100億円が機関投資家向け、残り100億円は個人向けとしていたが、来年度は機関投資家向けを100億円増やし、総額300億円にする予定だ。個人向けグリーンボンドについては、毎年即日完売というありがたい状況だが、若者の購入が少ないという点がある。このため、今年度は、証券会社の皆様方にも協力していただいて、若者向けのセミナーを、グリーンボンドを発行する直前の11月に開催した。その成果もあって、少しずつ若者の購入は増えてきており、今後さらに増やしていきたい。
――昨年は災害が多く、各自治体からは防災に対する考え方を改めたとの声が聞かれているが、防災に対する財政面の対応は…。
武市 25年前、阪神淡路大震災があり、さらに9年前に東日本大震災があり、我々は防災イコール震災対策ということで、建物の耐震性の向上や道路の拡幅など、とにかく地震対策をやらなければいけないというのが少し前までの防災対策としての大きな流れだった。しかし、昨年の台風でも川の氾濫による被害が出たように、特にここ2~3年は風水害対策が重要視されている。地震対策は併せて進めていくが、風水害対策にも力を入れるというのが、来年度予算における我々の緊急課題だ。来年度予算案における豪雨災害対策の予算は、昨年度より50億円増やし880億円としている。災害対策で重要なことは、1つは計画的に物事を進めて備えていくこと。例えば水害対策では、今、環状七号線の地下に大きな調節池を造っているが、こういうものの建設は相当時間がかかるため、建物の耐震化や水門の建設なども含め、計画的に対応する必要がある。それと同時に、実際に災害が起きたときにいかに迅速に回復させるか、臨機応変に対応するのか、この2つが重要だと思っている。後者については、昨年秋の台風被害を受けて12月の議会で補正予算を組むなど、迅速な対応を行っている。
――財政面でのもう一つの課題である社会保障については…。
武市 社会福祉関連の民生費では、今現在1兆円ほどかかっている。それが20年後には1.5兆円になってしまうと推計されており、年平均250億円ほど増加する見込みだ。相当高い確率で予測できているため、我々としてはそういう予測を元に財政を考えていかなければならない。災害については予測しがたい部分が多いが、こういった社会保障関係は予測ができるため、余裕があるときに基金などに貯めておき、将来に備えていく。今基金は2兆円弱あり、当初予算で取り崩す部分もあるが、今回の補正予算案では基金で合計4500億円貯める想定だ。リーマン・ショックのときは税収が1年間で一気に1兆円減ってしまったなど、将来的にいつどうなるかはわからないため、前もった準備が必要だ。企業の業績回復と税収としての回復にはタイムラグがあり、一度大きく落ちるとなかなか回復しない。そういうさまざまなリスク要因を考えると、我々は不交付団体であり地方交付税もなしで財政運営しているため、多めに基金としてストックしておく必要がある。
――今後の目標や抱負があれば…。
武市 我々財政を担当している者としては、積極的な施策展開を支えつつ、財政の健全性を保つという、この2つを実現させる財政運営を行っていくことが最大のミッションだろう。施策展開については、来年度予算案でいえば、例えば「稼ぐ東京」ということで、つながる東京、「スマート東京」を「東京版Society5.0」として実現させていこうとしている。これに対する予算は、今年度は19億円だが、来年度は158億円と、かなり増やしている。また、小池知事になってから無電柱化を推進しており、来年度予算案では317億円と今年度から10億円増やすなど、積極的な施策展開を財政面から支えている。
一方で、将来の見通しが不確実な中で、今後社会保障費が大きく増え、防災もさまざまなところに目配りしなければいけないなど、財政需要に対応する必要がある。そのうえで、海外のほかの世界都市と競争していくというミッションもある。東京オリンピック・パラリンピック大会を成功させ、世界一の都市となれるよう財政面で努力していきたい。