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中国の政治は末期症状

静岡大学  人文社会科学部研究フェロー 教授  大野 旭 氏

――先日の台湾総統選挙について…。
 大野 先日、台湾総統選挙を見に行ってきた。これまでにも何度か行ったことはあるが、今回はかなり落ち着いた雰囲気だったと思う。例えば、以前は各党派で候補者同士を攻撃したり、それぞれの陣営で爆竹を鳴らしたり、派手なパフォーマンスが多かったが、今回は殆どそういったことがなく、非常に静かに各自の政策を語っていた。それは台湾が成熟している証しだ。また、今回の選挙戦では世界中に留学している台湾の若者達が一時帰国して投票した。生まれつき独立派の若者の投票率が非常に高かったことが、蔡英文氏の歴史上最高得票数での当選を後押ししたと言われている。今の台湾の若者は幼少の頃から民主主義的な教育を受け、その思想の中で育っている。もちろん教科書には中国の素晴らしい長江文明や黄河文明、台湾との特別なつながりが記してあり、そういった文化財等に対する中国への憧れもあるのだが、実際に彼らが中国を訪れると、共産党に管理された自由のない社会を目の当たりにしてがっかりし、一気に台湾の結束力が強まるという状況になっている。さらに言えば、蔡氏再選に至る最大の功労者は習近平中国国家主席だという皮肉もある。習近平氏が一国二制度という対香港政策を台湾にも適用させようとしたため、台湾での中国に対する反発が一気に強まり、民主進歩党の蔡氏が当選したという事だ。今日の台湾は明日の香港だ。混迷する香港の現状を見ていた台湾の人たちは、ああはなりたくないと判断したのだろう。

――中国側がこのまま諦めるとは思えない。機を見て、台湾の経済が低迷し始めた時に下支えし、得票を稼ぐという考えなのか…。
 大野 そのような手段をとることは十分に考えられるが、現在の台湾経済は悪くない。中国大陸から台湾への観光客を中国政府が規制したことで台湾経済が落ち込んだかと言えば、中国人がいないことで逆に日本人や東南アジアからの観光客が増えて、その影響はほぼなかった。企業も、外資系企業が中国大陸でどんなに稼いでも中国国外へ資金を持ち出せない仕組みになっているため、中国大陸に根を下ろし過ぎると台湾の利益にはならないということで引き揚げてきている。日本同様に産業空洞化が心配されていた台湾に企業が戻り、むしろ台湾の景気は良くなってきている。もちろん資本主義経済に波はつきものだが、中国に起因する波はそこまで大きくはない。長期的には中国の方が経済的に不利益になるのではないか。中国大陸内の企業資金が外へ持ち出せないとなれば、結局、海外からの投資も減少し、そうすると外国の技術も導入できなくなる。どんなに中国に5Gで有名な会社があったとしても、それは元々日本の富士通の技術だったり、また、中国がアフリカなどで建設提供している高速鉄道車両も、元はといえば東北新幹線などを走る車両をJR東日本から輸入したりライセンス生産したものだ。中国が自国で開発した革新的技術などまだ無く、どこかで中国は行き詰まるはずだ。

――今後の中国の行方は…。
 大野 中国経済について言えば、先日ようやく米中貿易交渉の第一段階の合意に至ったが、それも米トランプ大統領の国内での選挙戦対策のための合意であり、しかも内容的にも米国は制裁関税を課したままで、中国が豚肉や大豆などの米製品の輸入を5割増やすというかなり偏った内容になっている。それでも中国側が合意せざるを得ないのは、国民の食糧を自国内で賄うことが出来ていないからだ。中国にはたくさんの農民がいて、大きな農地がある農業大国だと思われがちだが、実は生産性が非常に低い。ある時期に一気に工業化を進めたことで、農地を潰して工場を建てたり、汚染されたりして農地が使えなくなっている。農民自体が都会へ出稼ぎに来てしまっているという事もある。しかも、中国には前近代的な戸籍制度があり、農村に生まれれば一生農村の身分であり、そういった人たちは、都会へ出て例えば公務員になろうと思っても、その受験資格さえない。民族問題も同様だ。こういった国内の構造的問題が解決できていない中で貿易戦争になっても勝てるわけがない。また、報道の自由がない等、社会制度自体が行き詰っていることも確かで、そういった不満が遅かれ早かれ爆発する可能性は否めない。新型肺炎の蔓延がここまで大規模となり、世界中を席巻しつつあるようになったのも、ひとえに中共政府が情報を小出しにし、コントロールしているからだ。すでに昨年の12月8日あたりで死者がでた、と中国国内のSNSで話題になっていたが、それが年明けから流行るのは政府の対応が遅かったためであり、これも政権の末期症状だと言えよう。そんな状況にあっても、特権階級にある共産党がそれらの問題を解決することは望めない。

――そういった中国と、日本は隣国としてどのように付き合っていくべきなのか…。
 大野 今年はオリンピックイヤーで、中国から日本への観光客は1000万人を超えると言われている。日本はそれで利益を得る所や被害を受ける所それぞれあると思うが、大体中国からの観光客は、すでに日本に住んでいる中国人たちに案内してもらい、そこに人民元が落とされるという、いびつな形での中国依存が今の日本で顕著になっている。もちろん、新たに日本を訪れた中国人が、それまで持っていた日本に対する悪いイメージを変えて親日になってくれるという期待も出来るかもしれないが、そのような思想など、中国共産党の一言で一夜にして変えられる。中国とはそういう国だ。そんな中で安倍総理は習近平国家主席を国賓として招いているが、中国側が言う「中日友好関係」とは、日本が中国の主張を認める事であり、中国の利益を優先する事を意味していることも理解しておくべきだろう。習国家主席の来日に向けて、現在、日中両国で準備している「第5の政治文書」も、今までの4つの政治文書がそうであるように、結局中国に有利になるだけだろう。尖閣諸島についても、ウイグルや香港に対する人権問題についても、何も変わらない。むしろ中国にあまり近づきすぎると、危ない域に入ってしまうことにもなりかねない。

――中国に接近しすぎることを喜ばない人たちがいる…。
 大野 田中角栄元総理が日中国交を回復したタイミングでロッキード疑惑という前代未聞の事件が勃発したことを思い出す。同じように、安倍総理が習国家主席を国賓として招くと発表してから、少し不穏な空気が流れているように感じる。米国から安倍総理のスキャンダルが出てくれば、それは小さなスキャンダルでは済まない。また、先日逮捕された秋元司議員のIR汚職疑惑では中国企業から賄賂が渡されていたというが、例えば中国が日本の国会議員約700人にそれぞれ100万円ずつ渡したとしても、それは中国にとって大したお金ではない。邪推だが、中国がお金を渡している国会議員はまだ他にもたくさんいるのではないか。実際にモンゴルでは、与野党問わずほとんどの議員が中国から賄賂を渡されていたために、国会で中国の進出を止めることが出来なかった。このような、いわゆるチャイナゲートの問題が、これからの日本の政治に繰り返し出てくるのではないか。(了)

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