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コンパクトシティ構想など推進

埼玉県知事  大野 元裕 氏

――前任のどういったところを継承していくお考えか…。
 大野 上田県政については、時代との絡みで、とても良いときにとても良い方が知事になられたと考えている。日本経済が右肩上がりだった時期が終わり、その後始末をしていたのが上田県政の前の土屋県政。その後安定期に入り、そのなかで上田前知事が仕事をされていた。土屋県政では大きなハコものが作られ、上田県政ではこれらを整理して黒字にした。上田前知事は民間企業の経営感覚を持ち込み、第三セクターや公営企業は徹底的に赤字を解消していった。また、JR東日本の新幹線はすべて埼玉県を通っており、埼玉県は高速道路も縦横無尽に走っている。そのうえ東京都の様に混むわけではなく、県の中央部には海や山もほとんどない。高速道路も含め、交通網はおそらく日本一便利なところだろう。これは我々が持っている資産だ。これを生かして埼玉県は選ばれる県となっている。例えば過去十年間の企業の出入を見ると、最も企業が多く入ってきたのは埼玉県だ。加えて、人口一人あたりの役所の職員人数も埼玉県が日本で最も少ない。そういった改革が上田県政では進ちょくしてきたため、ぜひ受け継いでいきたい。ただそのうえで、これからもっと生産年齢人口が減るなど人手不足が深刻になっていくため、役所の仕事もただ減らせば良いというものではなく、この仕事はITのどこに置き換わるかなど、そういった改革をやらなければならない。

――具体的には…。
 大野 長期的なものと短期的なものとで2つに分けて考えている。短期的なものについては、私が就任後すぐに実施した知事室のペーパーレス化などだ。参議院議員時代、役所から届いた法律関連文書などを議会でも刷っており、これをどちらか一つにするだけで年間12億円のコスト削減となるという現実を目の当たりにした。やはりコスト削減というところでは、IT技術を活用していきたい。知事から始めることでトップダウン式に広げていく。そしてもう一つ、到底一期4年ではやりようがないが、大きな時代の変化に直面するのであれば、長期的にビジョンから変えたいと思っている。これからの時代は、地域のなかで働き手がいなくなる、あるいは高齢者が買い物難民・交通難民になったりする、働きたくてもさすがに1時間電車に揺られて行くのは現実的ではない、あるいは子供を見守らなくてはいけない、といった問題が出てくる。これらを解決するのはコンパクトシティ構想だ。小さなところで職と住が接近すれば、交通難民もいなければ買い物難民もいない。子供も育てやすく、子供を持つ余裕もできる、高齢者もそこで働けるうえ、見守ることもできる。これは何年も前から政府が言っていることだが、なかなか進んでいないのが現状だ。日本人は、老人ホームに入ってもそのまま家を所有するうえ、買うときも中古を買わず、どうせ買うなら新築、という考えになる。そのため町が歯抜けになり、限界集落化する。ゼロにならずに少しだけ残るが、インフラは維持しなければならないため、行政としては最もコストの悪い状態となる。だからこそコンパクトにするべきだ。コンパクトシティというと都心部のほうを考えがちだが、実際は郡部のほうが限界集落化しやすく、よりコンパクトシティ化が重要だ。

――コンパクトシティは実際にはまだまだ課題がある…。
 大野 コンパクトシティがなぜ進まないのかというと、総論賛成各論反対となっているからだ。企業や住人を誘致するには、それぞれにメリットが必要だろう。そこでメリットとして出せるのは、エネルギーだと考えている。産業におけるコストは大きく分けて3つあるが、まず人件費はなかなか減らせない。次に材料費だが、世界で勝負するには日本は原材料の少ない国のため勝負しづらい。そして最後のエネルギーだが、これは昔よりずいぶんと多様化しており、価格を下げられるとすればこのエネルギー分野だと考えている。これに関して、埼玉県には国道122号という道路があるが、この道路沿いの一部には東日本で唯一、高圧のガスパイプラインが2本走っている。このそばに例えば発電所を建てるとする。まずそもそもエネルギーのなかで熱だけは届けられる範囲が決まっているが、家庭のエネルギーの53%は熱で、物作りは80%が熱だ。今は発電の際に生み出される熱は捨てているが、ガスパイプラインのそばに発電所を建てることでこの熱を活用し、安くエネルギーを使用できるというメリットを作りたい。場当たり的にインフラの更新をするのではなく、そういったプランありきで進めていく。また、都会では発電所が有用だが、田舎では、例えば山の方にいくと小水力があるなど、再生可能エネルギー系はやはり郡部の方がより強い。地域ごとに特性が違うため、そこに集中的に投資できるような体制を作りたい。その計画が面白ければ民間企業も入ってくるだろう。それからエネルギーだけではなく、そのなかでITも活用していけば、スマートシティも作れる。我々行政としては、都市部の場合はほとんど民間でできるかもしれないが、郡部ではより行政のサポートが厚くならなければならないかもしれないという部分をしっかり考えていきたい。

――ほかに継承したいものなどは…。
 大野 上田県政から引き継ぎたいもう一つは、高齢者の元気だ。働き手という意味でも重要視しているし、経験という意味からもとても代えがたいものがある。加えて、スポーツ行動率というものがあるが、一日15分以上運動する人たちの割合が埼玉県は全国でもトップクラスに位置する。今は企業と連携して「コバトン健康マイレージ」というものを推進している。これは歩くとポイントが貯まり、そのポイントによってプレゼントが当たるという仕組みだ。定期的な運動で元気に長生きできるとなればそれは良いことであり、さらにスポーツ行動率が高いところは健康保険料の支払いの抑制が期待でき、支える側にとってもプラスの効果が期待できる。このほか、上田前知事はアベノミクスの女性活躍推進の前にウーマノミクスを行っていた。しかし今一度検証してみると、女性が仕事に戻る数が少ないため、これをしっかり戻したい。例えば職業教育などをきちんと施して、女性の社会進出を助ける。さらに言うと、この世代の子供がいる人たちは最も消費性向が高く、子供がいて忙しいため、基本的には地元で使ってくれる。この働く意欲のある人たちがより高い給料をもらうと、埼玉県全体にとってプラスだ。こういったことで、経済と社会対策の両方をやっていきたい。限られた財源で効果を倍増させていく政策を採りたいと考えている。

――どうしてもやらなければならない課題などはどうか…。
 大野 これまでに述べた少子高齢化対策はもちろんやらなければならない。あとは私の就任2週間後に起きた豚コレラの対応だ。さらに1カ月後には台風19号が来て、自分がやりたいことよりやらなければいけないことのほうが多かった。危機管理体制も今見直しており、埼玉県全体の危機管理の在り方は変えていきたいと考えている。埼玉は災害が非常に少ない県で、津波もなく、大きな地震でも比較的土地がしっかりしており、大雪が降る地域も少ない。ただ今回はそれが仇となった。埼玉全域で台風19号の被害が出て、6000軒以上浸水したが、50年以上埼玉県全体に被害が及ぶような災害はなかったため、今いる職員は誰も災害を経験したことがなかった。災害対応のノウハウなどがないなかでどういう形にしていくかが大切で、私は埼玉版FEMA(米国の緊急事態管理庁)という構想を検討している。FEMA自体は何も実行部隊を持っておらず、非常事態のシナリオだけ作り、各省庁と机上演習を行っている。県は元々実行部隊を持っておらず、そういった意味ではFEMAと同じだ。ただ、いざ災害が起きたときにいきなり災害対策本部を作ってどうにかしようとするとか、画一的な年一回の防災訓練で満足するといったことでは問題で、実際地震が起きたときのことを、イレギュラーな事案が起こることも含めて想定していく。

――公債費比率や財政改革についてはいかがか。財政状況をどう見ているのか…。
 大野 上田県政以後、県債の発行額は格段に減ってきている。この流れは続けるべきものだが、問題は政策経費が毎年減ってきていることだ。埼玉県は、ポルトガルやギリシャなどと同じく名目GDPが23兆円ほどあり、他の県より余裕があるように見えるかもしれないが、実際は決してそういうわけではない。実は埼玉県は75歳以上の高齢者の増加率が日本で一番高く、つまり日本で一番少子高齢化のペースが速い。超高齢化を見据えて、収入が少なくなるという前提に立ちながら、行政運営しなければならない。そして、歳入、歳出の両面から見直しを行い、絞れる経費は絞らなくてはいけない。

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