金融ファクシミリ新聞社金融ファクシミリ新聞

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金融・財政政策の反動に警鐘

短資協会  会長  三谷 隆博 氏

――短資協会の業務について…。
 三谷 マーケットが縮小していく中で、短資協会の業務も大幅に削減した。一昨年春には、平成7年以降続けてきた「短資取引担保センター」を廃止した。これは、有担保コールの担保として使用する手形等を当協会が預かり、日銀の金庫に保管したうえで、担保の移動を帳簿上の振替で行うというものだったが、マイナス金利下で有担保コール市場が大きく縮小したことなどから、事実上ほとんど使われなくなっていた。また、昨年3月には手形・書類等の受け渡しを協会に集中して行う「共同受渡センター」も廃止した。搬送物量の大幅な減少の結果、短資各社が個別に必要な書類等を受け渡しした方がより合理的と判断したからだ。このように、マーケットの縮小に合わせて非効率となった業務をそぎ落とした結果、私が就任した当時20名以上いた職員は、今では8名にまで減少している。現在のメインの業務は「短資取引約定確認システム」の運営だ。短資市場で約定が成立した際に、その内容を出し手・取り手・短資会社の間で確認するためのシステムを協会が提供しているもので、これもかつてに比べれば件数は5分の1以下に減ってはいるが、それでも一日に平均200件弱を処理している。

――短期金融市場の将来は…。
 三谷 伝統的なコール市場において取引量自体が少なくなっていることは否めないが、短期金融市場そのものが無くなることは考えにくく、形を変えて残っていくだろう。現在、短資会社で一番大きなシェアを占めているのは債券の現先取引だ。マイナス金利下でのシステム上の問題もあり、債券を担保とする有担保コールの大部分が現先市場にシフトしたことによるものだが、一旦そうなった以上は簡単には元に戻らないだろう。実際に、市場関係者の中でもとくに若い人は今の市場に慣れてしまい、何ら不便を感じてはいないと思う。有担保コール市場と無担保コール市場を合計した残高は、かつては40兆円を上回っていた時期もあったが、今では10兆円程度。そのうち8割程度を無担保市場が占めている。無担保コール市場は極めて便利なマーケットであり、リーマン・ショックのような信用不安さえなければ、市場として十分生き残るだろうし、今の超緩和状態が正常化していけばマーケットも再び大きくなっていくと期待出来る。

――世界の局面の変化に伴い、短資会社の業務も変化してきている…。
 三谷 コール市場の仲介手数料中心だった業務が、今では現先取引の鞘取りにシフトしているのは今述べた通りだ。また、短資会社自身の体力がついてきたということもあり、自ら資金を調達して、それを運用するという業務も増えている。預金中心の銀行と違って、短資会社はマーケットからマイナス金利で資金を調達し、極めて薄い鞘ではあってもこれを運用することによって、低水準とは言え安定した収益を確保出来ている。今後、金融機関の合併などが増えると取引量もじわじわと減り、手数料収入を圧迫していくことになるだろう。しかし、その一方で、超緩和状態が正常化し、資金取引が活発化してくれば、それはそれで短資業界にとって歓迎すべきことだ。

――短資会社も証券取引やデリバティブなどを取り入れ、業務を多様化させてきている。今後伸ばしていく業務はどういった部分なのか…。
 三谷 金融そのものが閉塞状態にある中で今ひとつ判断しかねるのだが、例えばフィンテックなどを上手く使いテクニカルな部分でリードしていければと思う。そういったノウハウを持つ内外の業者と業務提携などを行うこともあり得るのかもしれない。ただ、今のところフィンテックを活用してコストを減らせるのは送金業務くらいで、銀行業務以外のところで何が出来るのかはわからない。金融市場がどうなっていくのか不透明な中では、短資業界の将来に向けた展望についても何とも言えないというのが正直なところだ。

――現在のマイナス金利やアベノミクスなどをどのように見ておられるのか…。
 三谷 日銀がいつまで消費者物価の前年比上昇率2%に拘るのだろうかと思っている。もちろん政府との共同声明もあり日銀が独断で動くことは難しいだろうが、そもそも先進各国が物価安定の目途としている前年比上昇率2%という数値には特段の根拠がある訳ではない。もともと物価上昇率2%というのはインフレ抑制の上限値として考えられていたものだ。それが、先進国のインフレが落ち着いてくるにつれ、かつての日本のように一旦デフレになってしまうと金融政策の効果が薄れてそこからなかなか抜け出せなくなるので、そういったことも勘案したうえで多少のゆとりを持たせて2%をそのまま物価目標にしているという経緯がある。国によって物価目標が違えば為替相場にも響く筋合いにあり、主要国で共通の目標を持つということには意味がある。しかし、これだけ先進各国が超緩和政策をとり続けても2%という物価上昇は実現していない。市場関係者の中で、近い将来わが国で2%程度のインフレが定着すると見ている人はほとんどいないだろう。主要国の中央銀行が中心となって、CPIについての分析を深め、今の経済の中での望ましい物価上昇率について改めてある程度のコンセンサスを得たうえで、それをG7等で共通認識としていくことができれば、と思う。

――成長が著しいフィリピンでも成長率6%に対してCPIは1%台だ。先進各国を含め、今の日本で本当にCPI2%が物価安定の目標として妥当なのかを議論する必要がある…。
 三谷 その辺りの認識が世界的に変わっていけば日銀も動きやすくなるのではないか。これまで長い間、経済学ではインフレは怖いものとして扱われ、いかにインフレを抑制するかということに主眼が置かれてきたが、世の中は変化している。学界でも経済の体質がどのように変化しているのかをもっと真剣に考える必要があるのではないか。

――世界的には、金融緩和から財政出動へと舵を切ろうとしている…。
 三谷 金融政策にこれ以上の効果が期待し難いとなれば、次に出てくるのは財政政策だというのはわかりやすい。ただ、財政を一旦出動させれば、そう簡単に逆方向に走ることは出来なくなる。超低金利下では財政で多少無理をしても痛くも痒くもなく、国債のマイナス金利で逆にお金を貰えてしまうともなれば、財政の歯止めは無くなってしまう。それが何かを契機に逆転し始めれば、大変な金利負担が生まれてしまう。今は、雇用環境は良く、景気も低空飛行ながら比較的安定しており、どこまで財政に負荷をかけて追加的な刺激策を講じるべきなのか。これまでも「こんなことを続けていればいずれとんでもないことになる」と警告する人たちがいたのだが、この10年間何も起きていないということで、その説得力は乏しくなっている。しかし、その反動を想像すると怖い。

――政府は他にもまだ経済政策はあると言っているが…。
 三谷 その政策によってどのような副作用が出てくるのか。日本のバブルとその崩壊の時と同じだ。あの時もはっきりとした認識がないままバブルが膨らみ、崩壊後はその影響がどのくらいの大きさか測りかねたまま時間だけが過ぎていった。それから30年、あれほどのことはないだろうし、また経験を通して当時よりは賢くなっているはずだ。実際、日本のバブル崩壊後の経験があったからこそ、世界はリーマン・ショックの時にも迅速に対応することが出来たのだと思う。逆に言えば、経験したことのない初めての事については余程しっかりと考え、チェックしながらやっていかないと、上手くいくかどうかはわからない面がある。経済の基本的な体質が変わっているとすれば尚更であろう。(了)

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