金融ファクシミリ新聞社金融ファクシミリ新聞

金融ファクシミリ新聞は、金融・資本市場に携わるプロ向けの専門紙。 財務省・日銀情報から定評のあるファイナンス情報、IPO・PO・M&A情報、債券流通市場、投信、エクイティ、デリバティブ等の金融・資本市場に欠かせない情報を独自取材によりお届けします。

改憲には大多数の国民の合意

参議院議員  中川 雅治 氏

――憲法改正推進本部の副本部長になられた。憲法改正の状況は…。
 中川 日本の憲法改正の仕組みとして、先ず衆参それぞれの議員の3分の2以上の賛成を得て憲法改正案が発議され、実際に改正が実現するためには、その後の国民投票で過半数の賛成を得ることが必要となる。つまり、国民投票が成功しなければ、英国のブレグジットで目の当たりにしたように、国全体が2分され大変なことになる。英国は結果的にEU離脱への道筋がついたとはいえ、残留すべきと考えているイギリス国民はいまだ多数いて、その混乱ぶりは報道等で知られている通りだ。日本でも憲法改正をめぐって日本国民が分断され、いがみ合うような状況が作られるのは非常に不幸な事だと思うし、そう考えると、国民投票でかなりの数の賛成をいただくことは必要不可欠だと考えている。

――与党が3分の2の勢力を占めているからといって、すぐに憲法改正へと踏み切れる訳ではない…。
 中川 今、衆議院は憲法改正に意欲的な自民・公明・維新で3分の2以上の議席数を占めているが、参議院は違う。昨年7月の参議院選挙でわずかに3分の2を割ってしまった。自民党が憲法改正のたたき台素案としている4テーマはまだ憲法審査会に提出していない。公明党にも日本維新の会にもそれぞれの意見があり、改憲に向けて同じく志を持ってくれている方々との十分な議論を行うことなく3分の2という数字だけを使って強行採決のような形で押し切れば、国民投票に至っては当然のごとく大きな反対運動が起こってくるだろう。そうなれば政局がらみの大混乱となろう。私は、そういう形で進めるべきではないと思っている。政局を離れて真摯な議論をし、国民の理解を得ること。3分の2や過半という数字ではなく、大多数の国民の皆さんの合意をいただくような進め方をしなくてはならない。だからこそ自民党も慎重になっていて、周りからはなかなか進まないように見えるのだろう。

――慎重になるのは仕方ないが、以前よりもさらに後退しているように見える…。
 中川 憲法議論は平成12年に衆参両院に憲法調査会が設置されたことに始まる。それから約5年の調査審議を経て、平成17年にそれぞれの憲法調査会が各院の議長に調査報告書を提出した。当時、衆議院では451時間、参議院では193時間議論したという記録が残っており、議事録を見ても、真面目に、真摯に憲法の議論を行っていることが確認できる。その後、憲法調査特別委員会が設置されて平成19年に憲法改正の国民投票法が制定された。さらに、平成26年に憲法改正国民投票法の改正が行われ、また、現在さらなる改正案を提出しているところであるが、国民投票の手続きは整っている。戦後70年近く憲法改正国民投票法は制定されなかったが、平成12年以降の与野党での真摯な議論の積み重ねが国民投票法の成立につながったと思う。平成26年の国民投票法の改正が行われた時にも、各党からはいろいろな意見が出されたと記憶している。ここまで進んだ憲法論議が、政局とからめて元に戻るようなことがあってはならない。

――平成17年小泉政権時代に、自民党は憲法の全文を改正しようとしていたが…。
 中川 今の憲法は、いわばGHQ主導で作られたものだ。そこで、日本国民の自由な意思が反映されるよう、自分たちの手で憲法を作り上げたいという熱意のもとに、憲法を全面的に見直そうということで議論が進み、平成17年の自民党の新憲法草案の発表に至った。その後、自民党が野党になった平成24年に、もっと自民党らしい憲法改正案を作ろうという事で、平成24年に発表した日本国憲法改正草案が出来上がった。いずれも自分たちで考えた日本国民のための憲法草案だ。ただ、憲法改正の手続きは先述したように、衆参両院それぞれ3分の2の議員の賛成を得て国民投票という流れになっているため、すべての草案を丸ごと国民投票に付すわけにはいかない。そのため、条文毎に分けて改正していくしかないが、現実にはかなり困難なことだと思う。公明党は「改憲」ではなく「加憲」という立場をとっている。そういった事にも配慮して、自民党は先ず、4項目について「条文イメージ(たたき台素案)」を決定し、憲法9条を変えることなく自衛隊を合憲にする規定を明記するという考えを打ち出した訳だ。

――憲法9条の自衛隊問題について…。
 中川 今の中学校の公民の教科書には「自衛隊は憲法9条に反しているのではないかという学説や判例、意見もある」というようなことが記されている。違憲のもとに作られた可能性があると言われている自衛隊の皆さんに対して「国のために頑張ってください」などと言うのは矛盾があり、失礼なことだと思う。そこをしっかりと正して、自衛隊に誇りをもって職務に取り組んでほしいというのが、我々自民党の自衛隊の皆さんに対する思いだ。今回の自民党のたたき台素案では、9条はそのままにして、9条の2として「前条の規定は、我が国の平和と独立を守り、国及び国民の安全を保つために必要な自衛の措置をとることを妨げず、そのための実力組織として法律の定めるところにより、内閣の首長たる内閣総理大臣を最高の指揮監督者とする自衛隊を保持する」と加えた。そして、2項に「自衛隊の行動は、法律の定めるところにより、国会の承認その他の統制に服する」と明記することにした。9条2項を削除改正して陸海空自衛隊を保持し、自衛権行使の範囲については、安全保障基本法で制約することとし、憲法上の制約は設けずにシビリアンコントロールに関する規定も置くという意見もあったが、今申し上げたたたき台素案に落ち着いた。

――北朝鮮などの脅威や相次ぐ自然災害を勘案すると、国民は自衛隊を憲法で容認することはもはや当然と考えていると思う。このため、論点を自衛隊からシビリアンコントロールへ移すべきであり、これをしっかりさせるためには、憲法に「国民の知る権利」をしっかり明記すべきだと思うが…。
 中川 それは当然の権利だ。ただ、憲法に国民の権利を新たに明記するならば、同時に国民の義務も新たに明記する必要があるとの意見もあり、調整が必要だ。段階的に少しずつ改正を考えている中で、今の国際情勢を考慮した際、先ずは自衛隊を憲法上しっかりと明記し、自衛隊の違憲論を払拭させることが優先順位として高い。長い間、憲法改正はタブーとして扱われ、憲法改正を口にした大臣が批判され、辞職したケースも出たような時代が続いていた。そんな中で平成12年に憲法調査会が発足したのは、本当に画期的なことだった。その流れを止めてはならない。

――自衛隊の他に憲法で気になる部分は…。
 中川 緊急事態に関する規定がないのも気になるところだ。今の憲法はGHQ占領下で作られたため、当時何か緊急事態があればGHQが面倒を見るという考えがあったのかもしれないが、諸外国の憲法を見ても緊急事態に関する規定がないという国は例がない。また、選挙制度において「合区」の解消も議論されている。参議院では鳥取県と島根県、徳島県と高知県をそれぞれ「合区」して、2つの県で1つの選挙区となった。これは地元では大変に評判が悪く、世論調査でも「各県に一人くらいは議員がいなければ地方の声が反映されない」という意見が多い。最高裁は人口比を考えての判断をするが、やはり参議院では一つの県に最低一人は議員を置くような改正をしたいと考えている。その他、教育の充実のための改正も議論されている。

――今年、憲法改正は実現するのか…。
 中川 それは、この通常国会がどう進むかにかかっている。憲法改正は与野党議員が一緒になって、しっかりと話し合うべき問題だ。皆が同じテーブルで議論出来なければ前に進まない。今年は都知事選もオリンピックもあり、通常国会の延長は難しいだろう。与野党の議員の皆さんが憲法改正について真剣に議論したいと思ってくださらなければ進まない。繰り返しになるが、憲法改正というのは国会が発議し、最後は国民の皆さんの意思によって決まるものだ。国の在り方を皆で議論して、今の社会情勢に適した、国民の皆様に親しんでもらえるようなすばらしい憲法改正が実現できるよう、力を尽くしたい。(了)

▲TOP