金融ファクシミリ新聞社金融ファクシミリ新聞

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監査人の報酬と選任など課題

日本監査役協会  会長  後藤 敏文 氏

――11月に監査役協会の会長に就任された。色々な課題がある中で、先ず、取り組むべき課題は…。
 後藤 ここ数年、ガバナンスの問題が大きく取り上げられているが、会社法改正やコーポレートガバナンス・コードの制定といった大きな改革はすでに行われ、我が国の企業統治改革は大きく進展していると言えよう。我々監査役等も、監査を通じて企業統治を向上させ、会社の持続的成長や中長期的な企業価値の向上に貢献することが求められている。監査をめぐる最近の改革で大きなものは、監査人の監査報告書に「監査上の主要な検討事項(Key Audit Matters)」いわゆるKAMが記載される事になったことや、有価証券報告書等には監査役等を含めた監査の状況の記載が必要となったことが挙げられる。これらの制度改正や新設を踏まえて、日本監査役協会では各種の実務対応等を公表して備え、このような施策がさらに充実したものになるよう、実例の収集や、情報提供にも力を入れていくつもりだ。今後も、各省庁や団体などから色々な指針等が出ると思うが、我々としても、実務的に役立つような政策や提言を行っていきたい。

――ここ20年程、企業の不祥事が絶えないが、監査役等の役割は…。
 後藤 会計をめぐる不祥事が頻発する中で監査役等が果たすべき役割は、不祥事が起こらない体制になっているか監視検証することだ。内部統制体制がきちんと構築運用されているか、トップが率先してガバナンスやコンプライアンスを社内に浸透させるよう取り組んでいるかを、株主総会で選任された監査役等の使命として独立した立場から監視検証し、その企業風土を見極めることが重要だと考えている。この点、当協会では現在、企業不祥事防止をテーマにした研究の場を設けてその報告書を公表したり、不祥事防止をテーマにした研修等を開催している。そういった活動も引き続き行っていくつもりだ。

――取締役から独立した立場をとる監査役への報酬の仕組みはどうなっているのか。また、社外取締役と監査役等の役割分担についてはどうお考えか…。
 後藤 監査役等の選任や報酬についてどのようにしていくかは、引き続き大きな課題となっている。会社法では、株主総会で報酬の総額を決議することになっていたり、個別の報酬については監査役等で協議して決めるという事になっている。その実態面は、しっかりと把握出来ない部分もあるが、協会としてもアンケート調査をするなどして実態の把握に努めている。また、社外取締役と監査役の役割分担についてだが、社外取締役は「監督機能」、すなわち執行側が不適切なことを行わないかの監視も含まれるが、それだけでなく、経営方針や経営者の適格性など、経営についてのアドバイス機能も含まれている。監査役等は、「監査機能」に重点が置かれるが、単なる不祥事等の発見だけでなく、前述の通り、内部統制体制がきちんと構築運用されているかといったことを監視することも求められている。監査役設置会社では、このように社外取締役と監査役の役割が比較的整理しやすいが、監査等委員会設置会社や指名委員会等設置会社の監査等委員は、同時に取締役でもあるので、監査だけを行えば良いという訳にはいかない。実際にそういった制度がある中では、社外取締役として何が期待されているのかが明確であれば、役割分担も自然に収斂してくるのではないか。社外取締役の中には、色々なバックグラウンドを持つ人がいて、その人が何を期待されて選任されたかによって、立場は変わってくる。そういったものが、今後実体化してくる段階に入ってきたのだと感じている。

――昨今のグローバル化の進展に伴い、海外を含めた企業グループの不祥事も多発しているが、その対応は…。
 後藤 子会社、特に海外子会社で不祥事が起きた例は多数あり、グループ全体としての監査活動の重要性は高まっていると認識している。しかし、海外に子会社のある企業をどこまで監査しコントロールするのかは非常に難しい問題だ。監査役等やそのスタッフの数にも限界があり、また、監査役等がチェックできる範囲にも限度がある。そういった面でも、会社の内部統制部門や会計事務所などと連携して、内部監査・監査役監査・会計監査人監査の3者による三様監査の体制を整えることがますます重要になってきていると言えよう。ただ、内部監査部門は企業によって差が大きい。強力な内部監査部門を有する企業もあれば、そこまで整っていないところも多く、社内での位置づけも各社で違うのが実情だ。内部監査部門と監査役等との関係で言えば、日本の一般的な企業の内部監査部門はあくまでも執行側に直属しており、監査役は独任制をとるが、それぞれ独立性を保持しながら連携を図っている。一方、監査等委員は、会社が行う内部統制システムを活用して監査することが出来る仕組みとなっており、その仕組みを利用して、内部監査部門との連携を図っている。いずれにせよ、三様監査の体制を整備することで不祥事防止にも役立つのではないか。

――監査の品質向上のために取り組んでいることは…。
 後藤 日本監査役協会には、現在約7000社強、9000名近くの監査役等に入会いただいており、その数は増加傾向にある。東京を本部とし、大阪、名古屋、福岡に支部をつくり、各地域で監査品質の向上が図られるよう様々な事業を展開している。例えば、年間を通して、知識を習得するための多様な研修会を開いたり、法改正等があった際には立法担当者などによる解説会などを実施している。大きな活動としては年2回の「監査役全国会議」があり、ここでは経営者による講演やシンポジウム等を行っている。1回の会議には約2000人の参加者が集い知見を深める場となっている。その他、会員監査役等の相互交流の場となる情報交換会なども活発に行っている。また、当協会は「役員人材バンク」として、協会登録監査役及びそのOBで社外役員に就任する意思のある方のリストを掲載し、社外役員などを必要とする会社が候補者を検索できる機能もあり、そういった支援も行っている。

――最近の監査役等の風潮をどのように見ておられるのか…。
 後藤 当然のことながら会社によって様々だと思うが、先ず、コーポレートガバナンスにおいては昔とはまるで違う。今の世の中では、コーポレートガバナンス・コードがあり、ガイドラインがあり、多くの会社はそれに適合しなければ市場評価が厳しくなってしまう。その中で監査役等の果たす役割は非常に大きく、また、ガバナンスの改革に応じて監査役等の役割や期待はますます高まっていると感じている。監査役等になる人物は基本的に真面目な人が多く、自分に課せられたミッションを果たすために一生懸命知識を増やす努力をなさるという印象が強い。コーポレートガバナンスの改革がこれからも続いていくと考えられる中で、期待と重責を担う監査役等として活動なさる皆さんを、協会として、今後も色々な形でサポートしていくつもりだ。

――取締役に対する日本の企業の考え方は少しずつ変わり、今では「取締役」が「株主の代表者」と考えられるような風潮になっている。その点、「監査役等」の立ち位置は…。
 後藤 基本的に「監査役等」も株主総会で選ばれるため、「取締役」に対する考え方と変わることはない。不祥事等によって企業価値を棄損しない、或いは、企業価値を向上させるということは、会社のためであると同時に、最終的には株主のためになると考えている。(了)

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