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米国と中国の対峙は長期化

伊藤忠総研  代表取締役社長  秋山 勇 氏

――伊藤忠総研代表になるまでの御経歴は…。
 秋山 私は伊藤忠商事入社直後から20年近く営業部で海外プラント案件を担当していた。現在の商社のプラント・ビジネスは事業投資型の比重が増えたが、当時は顧客から受注した発電所やインフラ設備を海外の現場で建設し納入する仕事が中心だった。中東、北アフリカ、東欧等によく出張し、リビアなどは通算2年程滞在した。その後は経営企画や海外総括といった管理系業務も担当し、海外駐在はロンドン2回、ワシントン1回を経験した。ワシントンで情勢分析に携わったことから、帰国後も調査・分析業務を引き続き行っている。

――伊藤忠総研設立の背景には…。
 秋山 最近は商社調査部門による情勢分析や産業調査も従来以上に高度な専門性やグローバルな知見が求められる時代になっている事を実感する。商社には業界や商品のプロや地域の専門家は多数いるが、業界そのものが大きな構造変化をしている現在は、従来と違った軸で業界を跨いだ全体俯瞰も大事になっている。例えば「モビリティ」に関連するビジネスは、自動車業界の取り組みではなく、情報産業、物流、そしてライフスタイル産業などを融合し、新たな次世代社会インフラ作りを視野に入れた横断的取り組みが必要になっている。このような社会の構造変化と同時に、国際情勢も目まぐるしく変わっているのが現在我々を取り巻く環境だ。そこでより感度の鋭いアンテナとなるべく、今年4月に伊藤忠総研として法人化し、商社パーソンの枠にとらわれない様々な分野の専門人材の採用を可能にした。伊藤忠総研の情報や知見が、伊藤忠グループの推進するビジネスに触媒効果をもたらすことを目指したい。

――その点、来年の米国大統領選挙の予想は…。
 秋山 選挙まで1年を切ったが、未だ民主党の統一候補が決まっていないため現段階で予想するのは難しい。逆に言えば、現職トランプ大統領と対決する民主党候補が誰になるかが選挙のポイント。トランプ大統領は、今後も既存の岩盤支持層をより盤石にするための施策に注力するであろう。ことによると弱点の一つであった黒人層支持を取り付けるために、副大統領候補を変えてくる可能性はあるかもしれない。即ち民主党は、反トランプ層と中立・中道層を取り込める候補者でないと勝負できない。候補者レースは、現時点で党内支持率上位のバイデン氏、ウォーレン氏、サンダース氏、ブティジェッジ氏辺りに絞られつつある。この中で言えばサウスベンド市長のブティジェッジ氏が静かな注目株だ。現在37歳の彼が当選すれば、オバマ氏を抜き歴代最年少の米国大統領となる。国政レベルの経験はないが、学歴も十分、軍隊経験もあり、政策も極めて真っ当でバランスが取れている人物とみられる。問題は米国のガラスの天井だ。黒人オバマ前大統領は見事に打ち砕いたが、女性ヒラリー・クリントン元国務長官は残念ながら跳ね返された。LGBTを公表したいわゆるジェンダーマイノリティのブティジェッジ氏を、米国民がどのように評価するのか。前回選挙では「隠れトランプ派」がいたように、口では容認しながら、選挙では投票しない「隠れ反ダイバーシティー派」も存在するだろう。

――民主党の候補者が混迷を極めている現状を鑑みると、やはりトランプ大統領が優勢と見るべきなのか…。
 秋山 私は決してトランプ大統領が断然優勢とも言えないと見ている。現政権の支持率は岩盤頼りの約40%で、今後更に上回ることは考えられない。普通に考えれば、好調な経済を背景にした現職大統領は圧倒的に有利だが、トランプ大統領はそこまで広範囲に亘る支持を受けていない。民主党の候補者レースはまだ暫く時間がかかるだろう。今回から予備選のやり方が一部変更され、3月3日のスーパーチューズデー(予備選が集中する山場)には、最大の選挙人数を擁するカリフォルニア州の予備選も行われることになった。最近出馬表明した前NY市長のブルームバーグ氏は予備選前半戦を見送り、スーパーチューズデーで一気に勝負をかけるとされる。ブルームバーグ氏は中道路線を打ち出しているので、バイデン氏やブティジェッジ氏と共に中道票を奪い合うことになりかねない。そうなれば票が割れて過激な左派思想を掲げるウォーレン氏やサンダース氏を利することにもなる。今回ほどスーパーチューズデーが注目されることはない。トランプ大統領にしても、ウクライナ疑惑に端を発した大統領弾劾審議もあれば、米中摩擦や様々な外交問題など、色々な難題をさばかねばならない。かかる状況下、民主党候補者レースの見通しが立つまでは、トランプ大統領の有利・不利の判断は難しい。

――民主党が勝利しても共和党が勝利しても、対中政策は変わらず米国の国家戦略として続けていく…。
 秋山 そう思う。これまでワシントンという政治の町で中国脅威論が議論されることはあったが、国民感情としては中国に好感を抱いている割合の方が多かった。それが逆転したのは過去数年くらいの出来事で、特に今年年初の世論調査によると、中国に好感を持たないという人が約6割、好感を持つ人が3割を下回った。また連邦議会における超党派の動きのみならず、産業界、法曹界、安全保障関係者といった多くの層で、関心事項は夫々違うものの、中国に対して「このままでよいのか」という厳しい認識を持っている。国家の重要な目的は、国土と国民の安全を守り、経済を繁栄させることだ。これを両立させるには、科学技術力を向上させ、国民の質と量を高めることが鍵となる。今の中国はまさしくこれを目指している。貿易摩擦は政治の争点であり、ある時点で妥協は成立しうるだろうが、国力争いという意味での米国と中国の対峙は決して簡単に決着はつかず、長期化することになるだろう。

――米中間の貿易については、どこかで手を打ち、終焉を迎える方向にあると…。
 秋山 トランプ大統領も、政策当局者として、また選挙を控えた政治家として、国民の生活に直接影響を及ぼすようなことはしたくないはずだ。従い来年の大統領選挙前には、貿易摩擦の不安は解消されると期待したいが、技術移転や知的財産権といった構造的な問題に対する方向性が見えてこない段階では、トランプ大統領も安易な妥協をしたと国民に思われる訳にはいかないので、簡単に手を握れるものでもないだろう。経済の減速が明らかな中国でも、米中摩擦は国民の不満や不安感を煽るし、香港の混乱や台湾の選挙の行方は、中国の国内政治問題に飛び火しかねない。中国は米国との持久戦を覚悟したとも言われるが、相当苦しい状況が続くので、早く妥協したい気持ちには変わりない。ただ双方を比べると、今は中国の方がやや分が悪いのではないか。

――次の成長市場についてのお考えは…。
 秋山 潜在性で言えばアフリカだろう。ソフト、ハード両面におけるビジネス・インフラが整備されていないので、今すぐに稼げる市場ではないが、逆に10年、20年、30年先を見据えた成長市場という意味ではアフリカへの期待は大きい。一部の国では既にリープフロッグ現象がみられるように、アジア新興国が辿った道筋よりもずっと早いスピードで成長する可能性もある。またインドに関する展望を聞かれることがあるが、外国企業がビジネスを展開するにはまだ時間がかかる。訪れるたびに色々な新しいものに出会えるし、人口規模や民主主義の価値観も含めて、商売をする上で色々な魅力を感じる。しかし国民の考え方は保守的で、政府として思い切った外資導入や、経済を広く開放するような施策を進めることに苦慮している。徐々に法制度も改善されているが、依然として国内優遇は変わらない。例えば製造系であれば、当面はアフリカや中東市場への中継拠点としてインドの工業力、労働力などを活用しながら、更なる協業を模索するといったアプローチが考えられるかもしれない。(了)

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