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農地集約で問題を一気に改善

日本農業法人協会  会長  山田 敏之 氏

――今の農業の問題点についてうかがいたい…。
 山田 先ずは気候の問題がある。現代の国産志向の高まりの中では、輸入農産物が減少して国産品の消費が増えてきつつあったのだが、ここ最近、気候変動による災害を考慮した安定供給という面で、再び輸入農産物が増加する傾向にある。昨年、一昨年は西日本で、今年は千葉で強力な台風による甚大な被害が相次いで起こり、長野では川の氾濫で洪水災害に見舞われるなど、観測史上初と言われる異常気象が続いている。加工業者は国産の原材料を確保するためにかなり苦労し、大きな損失が出ていると聞く。また、今年1月~7月は農産物価格が暴落してしまった。その理由は、災害対策のために農家の皆さんが一生懸命頑張ったことと、今年が暖冬だったことが重なり、結果として豊作になり過ぎてモノが溢れてしまったからだ。10年前に比べて台風の数ははるかに多くなり、災害規模も大きくなってきている。そういった新たな気候に対応できる考え方が今の農業法人には必要になってきている。

――どのような対策が考えられるのか…。
 山田 豊作で価格が暴落するようなことが続けば、農業者や中間業者は、どこかのタイミングで天災が来て、農作物の値段が落ち着いてくれることを願ってしまう。口には出さなくとも、自分の田んぼや畑には被害が及んでほしくないが、どこかで災害が起これば、価格は維持できると考えるからだ。しかし、誰だってそのようなマインドで自分たちの仕事をやりたくはないし、そう考えることは問題だと思う。だからこそ、豊作でも凶作でも対応できるビジネスモデルが必要であり、生産者と販売者と消費者のマインドを繋げることが重要になってくる。この連携を上手く作り上げることが出来れば、例えば、災害が起きた時に原材料価格が暴騰しても、消費者は相応の値段で購入することを納得してくれるだろうし、加工業者が無理やり海外から原材料を調達するようなこともしなくてよくなる。逆に言えば、そのような仕組みを作らない限り、これからも起こり続けるであろう天災に対応できず、農業が滞ってしまうことになる。

――販売者としては価格競争に打ち勝つことに切磋琢磨し、消費者としてはより安いものを購入するという世の中だが、貴社が目指すところは…。
 山田 持続可能な農業だ。「こと京都」も「こと日本」も、日本のネギの商社を目指して設立した会社だ。災害などで被害にあったネギ農家があっても、メンバー内で補完しあえば助けることが出来る。そのような仕組みを作ろうとしている。もっと詳しく言えば、災害で見栄えが悪くなったネギでも、加工食品としての材料であれば全く問題ない。そこで、先ずは食品加工するための工場を京都に作り、来年三月には藤枝市にも工場を作る計画を立てている。日本の西と東に工場拠点を構え、そこから本格稼働していく予定だ。現状、関東を拠点に活動する「こと日本」では、関東野菜や関東ねぎがそのまま流通していて生野菜での出荷が伸びているが、そこで「こと京都」が加工品に力を入れていけば、いざという時にお互いをカバー出来る良い関係が築けるだろう。ネギという一つの商品でこのシステムを作り上げることが出来れば、他の野菜にも応用は可能だ。また、「こと京都」でこのような形でビジネスを行うと同時に、私は日本農業法人協会の会長として、全国から集まった農業従事者のメンバーと一緒になって、国内自給率を上げていくための政策提言などを国に対して行っている。

――直近の政策提言は…。
 山田 農地の集約だ。集積は進んでいるのだが集約は不十分で、今は、例えば田畑300枚がそれぞれバラバラに管理されているような状態だ。集約が進めばITやAIなどを使ったスマート農業も簡単に出来るようになるのだが、田畑が点在している今のような状態ではそれが使えない。国が税制によって何とかしようと思っても、地域によって考え方の違いや田畑の特色があるため一概には進められず、本来ならばそういった所を考慮した上で、きちんと集約されることが望ましい。各農家にも、このままではいけないという認識はあるのだが、どうしても自分の畑だけは手放したくないという思いが強く、集約は困難を極めている。しかし、今後の食料問題を考えた時、また農業従事者の高齢化が進む中では、農地を集約して機械を利用したスマート農業のスタイルが、これからの農業には欠かせない。集約問題さえ解決すれば、労働力や他の問題等も一気に改善していくと思う。

――荒れ果てた耕作放棄地は、今後どのようになっていくのか…。
 山田 昔、作れば売れるといった時代に、無理やり山を切り開いて作ったような農地もあるが、そういった場所は元の山の姿に戻すべきだと思う。土地にも適材適所があり、それを効率よく使えば、今まで通り十分な農作物を確保することは可能だ。そして地元の方々はそれを十分にご存じだ。だからこそ、耕作放棄地に企業が参入する場合は、地元の農家の方々に本当に良い場所を提供して信頼関係を築き、持続的に利益を出すような環境を作ることが重要だと思う。そうしなければすぐに撤退することになるだろう。一度放棄された農地を元に戻すことは大変だ。今のうちから計画を立てて何とかしなくてはならない。

――TPPや日米交渉などに関する問題点は…。
 山田 色々な問題点はあると思うが、ネギやホウレン草といった軟弱野菜においてはそこまで影響を受けることはないし、輸出が容易になるという面をプラスに捉えることもできる。TPPや日米交渉で一番影響を受けると考えられる畜産物でも、例えば日本の和牛の品質は高いため、輸出で利益を得るという事も十分可能だ。国によって農業への保護政策は違い、先日聞いたアメリカの話では、雨の被害で4年間米が出来なかった地域でも農業政策によって4年間の生活を維持できる補助金が出たという。それが良いとか悪いとかいう話は別として、日本においてはそういった補助金より何より、農地を集約して効率化することが一番のコストダウンへと繋がる道だ。それは間違いない。さらに、地域毎に点在する農協と各農家の密度を濃くすることで運命共同体のような関係を築きあげること、そして、農協が提供する資材価格などの見直しを行えば、日本の農業にはもっともっと新しい道が開けてくるだろう。旧来の農協に変わって農業法人が増加してきているが、農協という存在が上手く機能している地域では、農業法人が進出する余地は、もしかしたら、なかったかもしれないとも思う。

――農協のシステムについて…。
 山田 昔の農協のシステムは各農家に種と肥料を販売して各々で育ててもらうというやり方で、当時の物がない時代では、それで出来上がった農産物を高値で売ることが出来た。しかし、その後、農業の技術革新や規模拡大等によって増産されたり、海外からの輸入農産物が増え安い商品を求めた直接取引が始まり、徐々に生産物の値段は下落してきた。生産者は自らの創意工夫で付加価値をつけたり、コスト引下げを行うことを迫られたが、農協は農家の側に立った農業資材価格等の引下げ努力が不十分だった。そういった背景から農協から離れていく生産者が出てきて今に至る。もちろん、地域によっては素晴らしい対応をしている農協もあるため一概には言えないが、生産物の価格が下がった時に、きちんと生産者の事を考えてくれる農協であってほしいと願う。

――農協、農業法人、個人農家という3つの農業形態がある中で、一番将来性があるのは、やはり農業法人なのか…。
 山田 昔のような農協対法人経営という図式は随分と変わり、今では資材の事や労働力問題等も一緒に検討するような関係になっている。また、法人と個人の関係も地域によって様々だ。実際に「こと京都」も小さな農協みたいなもので、ネギ生産者40名ほどのグループで営むネギ専門農協と言える。このように地域毎の特性を活かし、最適な形を見つけられれば良いのではないか。現在、農水省は食料自給率の向上を目的とした食料・農業・農村基本計画の見直しを行っており、来年3月には新たな計画が閣議決定される予定だ。それにむけて、農地集約の他、金融面では災害への対応となる保険制度の見直しといった政策提言を行い、これからの日本の農業を引っ張っていくつもりだ。(了)

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