木村 三浩 氏
対談
木村 三浩 氏×本紙 島田 一
島田 今の日本に必要なのは米国からの本当の意味での独立だ。過去の安保闘争時には独立気運が非常に高まっていたが、その後の高度経済成長期を経て、国が豊かになるにつれて、日本の多くの人は、独立を求めることを忘れてしまっている。米国がこれまでのように世界ナンバーワンの地位を維持できるのであれば米国従属でも構わないが、どう見ても今の米国は斜陽局面にあり、このままでは日本も一緒に沈んでしまう。一方で、中国は世界中で勢力を伸ばし、北朝鮮も核ミサイルを持つような時代へと変化している。国民の中には米国従属に疑問の念を抱く人も増えてきている。
木村 池田勇人政権では所得倍増計画を打ち立て、富国を目的に経済を強くすることに力を入れてきた。そこに独立という目的も包含されていたと思う。そして、実際に高度成長を遂げたところで、ある意味、独立が達成されたと皆が思ったのだろう。しかし、経済と政治は違う。政治面での米国従属という構図は戦後から変わっておらず、特に東西冷戦終了後、日本政府は米国寄りの姿勢をより強化させてきた。そして、最近のトランプ大統領と安倍首相の関係性を見ると、その傾向はますます強くなっている。日本と近隣諸国との間には北朝鮮との拉致未解決問題、中国・韓国との軋轢や価値観の違いなど問題が山積しており、そこで安倍政権としては米国に頼りたいということなのだろうが、米国は米国の問題を抱え、自国の国益に基づいて動いている。ここで日本が取るべき行動は、日本の問題を米国に頼るのではなく、自国で解決するという強さを示すことだ。
島田 周辺諸国について言えば、中国が南沙諸島を軍事基地化しつつあるが、その先の戦略として南シナ海を支配すれば日本は中東からの石油輸入はもちろん貿易も滞ってしまう。中国は長期的な視点で太平洋の半分を支配する目的で、着々と行動している。このため、我が国もそういう視点をもって、フィリピン、台湾、インドネシアやベトナム等のアセアン諸国と一緒に、南シナ海を守るための軍事協定を結ぶ必要がある。米中覇権争いによって中国経済は当面停滞し国力が低下していく。その間に日本がやるべきことは、アセアン諸国と一緒に対中安全保障網を構築することだ。
木村 西沙諸島や南沙諸島において中国が領有を主張している島は20を超えている。域内の島の約半数を中国の領有だと宣言され、実効支配されているという現実をしっかり認識しなくてはならない。幸い日本とアセアン諸国は非常に良い関係を保つことが出来ている。今の段階でこれらの地域との外交関係をさらに強化し、一緒に「地政学戦略」のようなものを作り上げるようなことも必要だろう。地域のバランスをどう見るかという情報交換は地域内で頻繁に行うべきだ。また、中国にはウイグルやチベットといった民族問題があるが、そういった所に人を派遣するような事も考えた方が良い。目先の日中関係を損ねるかもしれないが、長い目で見た日本の国益を考えればそういったことも必要だ。同時に、今の香港や台湾がこの先どのような状況になって行くのかも注視すべき問題だ。香港に至っては、中国が敢えて手放し、それによって香港が経済的に疲弊していく様を世界中に知らしめるという戦略を持っているという話もある。台湾については来年4月の台湾総統選挙に相当神経質になっているようだ。そのようなごたごたの中で、安倍政権は来年、習近平国家主席を国賓として迎えようとしている。それが国家百年の大計に沿って行われている戦略であればよいのだが、目先の総選挙対策のためだけであれば、それは天安門事件の後に、中国の国際社会の復帰を日本が手助けした二の舞だ。
島田 中国は口では日中友好と言いながら、尖閣諸島の件では毎日のように脅しをかけている。そうであれば、日本も香港や台湾を支援するなど二枚舌外交が必要だ。また、安倍政権は北朝鮮の中短距離ミサイル発射について、米トランプ大統領の主張に合わせて問題ない旨の発言をしているが、日本の原子力発電所を狙われたら一体どうするつもりなのか。そういうことを勘案して日本もしっかりとした防衛網を持つことが必要であり、米国産のF35戦闘機を購入するだけではなく、ハヤブサを製造した高度技術を持つ日本の国産ミサイルを早く開発すべきだ。米国が日本を守っている限り日本は軍隊を持たないし創らないという考えのままでは、米国が弱体化した時に狼のように突然中国が日本を占領しにかかるという事をしっかり認識すべきだ。
木村 トランプ大統領が駐留経費を払わなければ日本から米軍をすべて撤退させると言っていることに対して、「いいですよ。それでは日本は日本国が守ります」くらいのことを言ってほしいものだが、日本政府はその言葉を言えないでいる。ただ、防衛省の中でも心得がある人達は、自分たちで国産の防衛を作り上げなくてはならないという意識は高い。そもそも日本は日米安保条約によって米軍に基地を提供している。「米軍に守ってもらっている」という不平等感も是正しなければ日本は他の外国諸国から見下されてしまう。少なくとも是正していくという決意を示し、実際に行動しなければ、結局いつまでたっても日本は米国の属国だと思われても仕方がない。中国からしてみればむしろ日本が米国軍の配下にいる限りは強い軍隊は持てないと安心しているため、そこで中国に舐められないためにも日本独自での防衛整備は欠かせない。また、中国は米露との中距離核ミサイル協定に入ろうとしないため、日本独自のミサイル防衛構築には正面から反対しにくく、今が好機だ。安全維持装置を他国に任せっぱなしにするのではなく、自分で開発して自国でコントロールする。これが本当の意味での独立国家だ。
島田 今の防衛力のままでは米国が手を引いた途端に、日本の国土が中国とロシアによって占領され3分割されてしまう可能性すらある。これに対し日本の防衛の専門家はほぼ全員が「米国軍は絶対に撤退しない」と断言しているが、将来における出来事に絶対はあり得ない。戦争の主戦場が従来の局地戦からミサイルや宇宙に変わりつつある中で、高いお金を払ってまで米軍を日本基地に留めておく価値は以前に比べて相当低下している。中東から手を引きつつあるトランプ政権の姿勢や、今後の米国の衰退、兵器技術の発達等を勘案すれば、意外に早く米国軍は日本から撤退するかもしれない。この点、私はJAXAにかなりの規模の予算をつけるべきだと以前から言っている。
木村 日本の宇宙開発もよくやっていると思うが、他国と比べれば資金力が全く違う。宇宙開発について言えばロシアはかなり進んでいるが、プーチン大統領はいつも「日本には主権がありますか」と言っている。つまり、日本が自主外交出来る国だと思っていないという事だ。北朝鮮や中国も日本の事に関しては米国を納得させればよいと考えている。さらに、韓国が国際条約を勝手に破るのも、米国さえ味方につけておけば日本に対しては何をしてもよいと考えている証拠だ。この点、ロシアとの間でもこう着状態が続いている北方領土問題では、まずはお互いの国がビザなしで北方領土へ行けるようにするなどして、両国間の付き合い方を仕切り直し、平和条約の前段階となる善隣協定を結んでいけばよいのではないか。一方で米国との関係では日本の真の主権を取り戻しながら、ロシアにそのような提案をすれば、ロシア側だって同意するはずだ。もっと言えば、プーチン大統領の後継体制を見据えた戦略を考えておくべきだろう。
島田 軍隊も国防も外交も1週間ではつくれない。30年、50年、100年と綿密な長期計画を立てて国家の復権を着実に進めていくことが重要だ。その際に必要なのは、先を見通し、創造する力なのだが、今の学校教育では暗記教育ばかりで将来を予測する力が育たない。「過去の事ばかり考えるのではなく、これからの日本には創造教育が必要だ」と日本人が全体的に急速に意識を変えない限り、もはや国は守れない。
木村 国家百年の大計を考えた時に日本に重要なのは、国民のための食料の安全確保、領土をしっかり守ること。そして、そのための技術を創り出す人材を確保し、的確な教育を施すことだ。少子高齢化を通り過ぎ、無子高齢化となった時代から、再び子供を産み育てる社会を創りあげると同時に、教育のひずみを正していく。もはや、画一的で詰め込みだけの教育や、主権、防衛、食料、人材といった国家を支えていく全てを米国だけに頼ってきた時代ではない。巨像が倒れるのは早い。米国が本当に倒れて動けなくなってしまう前に、独立の志に基づいた国家百年の大計を立てていかなくてはならない。(了)