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チベットの文化や愛国心を抹殺

日本チベット仏教会  宗務長  ウゲン・ラマ 氏

――現在のチベットの状況は…。
 ラマ 本当にひどい。中国がチベットを侵略し始めてから今に至るまで、チベット自治区内にいるチベット人は、文化や宗教、交通など様々な事において自由がなくなり統制されてしまっている。習近平氏が中国共産党総書記になってからは、さらに厳しくなっている。私が今年チベットに行った時にも、東部カム地方からチベット自治区に入るまでの道のりの中で何度も検問にあった。外国人がチベット自治区内に入ることが難しいのはもちろんだが、チベット人でさえ移動が制限されている。中国共産党は「貧困を撲滅し、すべての人を豊かにする」というスローガンを掲げてチベット人を取り込もうとしているが、実際に行っていることは、チベット人の文化やチベットに対する愛国心を捨てさせ、新たに中国への愛国心を植え込むことだ。それに反抗しようものなら罰せられることになる。私がチベットに行っていた間にも、700人程のチベット人が中国人に連行されて、約10日、中国の愛国教育を受けさせられていた。彼らは高い塀に囲まれた建物の中に連れていかれて、持ち物はすべて没収され、敷物もない床に座らせられ、そこで朝から晩まで中国共産党の教書のようなものを教育されたという。それは拷問で、まるで地獄のようだ。食事もツァンパ(大麦で作ったチベットの主食)しか食べられず、家族がおかずなどの食事を届けに行っても、見張り番の中国人に没収されてしまったそうだ。

――チベットの若者にも、中国の文化が教え込まれている…。
 ラマ 今、チベットの子供達は18歳になるまでチベット仏教と一切かかわってはならず、かわりに朝から晩まで中国共産党が主導する学校に通わされている。そこでは食事も用意され、ほぼ監禁状態で中国語や中国の歴史など中国愛国教育が行われている。しかも、その学校に行かなければ罰金を払わなくてはならない。結局、中国共産党がチベットの子供達を親から引き離し、徹底的にチベットの文化や宗教や習慣に触れさせないようにしているということだ。また、仏教施設自体も迫害を受けている。例えば、チベット族自治州のバイユ県にあるヤチェン・ガーでは、チベット各地から寺院で修業をするために1万人以上の僧侶や尼僧が集まり、そこで共同生活を行っている。その僧院が中国当局によって強制的に取り壊され、これまでに7000人以上の修行僧らが強制的に退去させられている。チベット高僧達の必死の抵抗によって、現在、一時的に取り壊しや強制退去は停止しているが、中国当局の監視は続いており、この地域の出入りは厳しく管理されている。すでに追放された人たちの多くは、チベット当局に拘留されて、中国共産党による再教育を強いられているという。僧衣も奪われて軍服を着せられ、食事も、仏教徒として殺生した肉を口にしないという僧侶への配慮もなく、無理やり肉や魚を食べさせられているそうだ。そういった監禁教育が3カ月ほど続き、その後家に戻ることになるのだが、すでに名簿登録され中国当局の管理下にあるため勝手に村を出ることなども許されない。

――そのように厳しく管理されている中で、ご自身はなぜこのような事態を把握することが出来たのか…。
 ラマ 私は今では日本国籍を持つ日本国民だ。本来ならばチベット自治区には入ることが出来ないのだが、私がもともと住んでいたカム地方東部は、現在、中国四川省に組み込まれていて、チベット自治区と隣接している。このため、そこには入ることが出来、そこにいれば自ずと情報が入ってくる。普段は日本で生活し、チベットの政治について話をしたり、活動するようなこともなく平和に過ごしているのだが、今年ばかりは私も我慢できないほど、チベットの人たちが迫害を受けていることを知った。今の中国やチベット内では、インターネットによる情報はすべて管理されており、共産党による監視は非常に厳しい。中国共産党側に不都合な情報がネット上に載れば即座に削除され、その情報を流した人物はすぐに特定されて警察に連れていかれる。私の祖父母は、中国が最初にカム地方を侵略に来た時に、拷問されて殺された。何も悪いことはしていない。普通の商人の家で、日々普通に仲良く暮らしていた。ただ一つ、中国共産党の考えには賛同できなかったというだけで、土地も家畜も全て没収され、母親も拷問を受けていた。酷い話だ。

――中国はなぜチベットをそこまで迫害するのか…。
 ラマ 中国共産党は党結成当時から、他の国を侵略して自分たちの土地を広げていくことを目的としているのだと思う。チベットは昔から平和な国で軍隊も持っていなかった。殺生することなく、環境を破壊しないという仏教の教えを守りながら牧畜や農作物を育てながら生活をしていた。そこに、最初は「中国はチベットの発展を支援する」と言いながら中国軍隊が入り込んだ。疑う事を知らないチベット人たちは、その言葉を信じて中国を迎え入れたのだが、結局、途中から牙をむかれ、そうなった時に軍隊によって対抗するような術を持っていなかった。そのため、宗教であるチベット仏教をチベット人の心の拠り所として、中国共産党の圧力にひたすら耐えながら、ひたすら静かにこれまで通りの生活を続けようとしていた。というのも、ダライ・ラマ王の考えが「話し合いによってこの問題を解決する」というものだったからだ。チベット国民はそれに従っている。しかし、中国側は、その宗教を根本からなくしてチベット文化を中国共産党の考えに変え、すべてを中国の支配下に置こうとしている。もはや今のチベット人には宗教の自由も、言論の自由もない。人権がない。このような報道が外国で漏れないようにマスコミの統制も行われている。

――最初に中国がチベットに進出してからすでに何十年も過ぎている。もはや話し合いだけでは前に進まないのではないか…。
 ラマ 中国はすでに世界各国との関係を築いているが、チベットは小さい自治区だ。米国はチベットの味方になってくれているが、他の国々は、残念ながら日本も含めて、チベットの現状について見て見ぬふりをしているところが多いのが現実だ。私は、中国という国が共産党の利益のためだけに、これまで真面目に一生懸命コツコツと生活してきたチベットの人たちに対してこのような人権を無視した暴挙を行っているという事実を、少しでも多くの人達に知ってもらいたい。チベットの人たちは、今、パスポートも没収されて海外に出ることもできない。自分たちで声を発することも出来ない。そんな中で、中国共産党は計画的にチベットの文化や民族を抹殺し、土地を奪おうとしている。中国数千年の歴史の中で行われてきたことは、このような侵略の繰り返しだ。このような実態を世界中の多くの人に知ってもらうことで、何かしらの解決策が見つかれば良いと願っている。(了)

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