金融ファクシミリ新聞社金融ファクシミリ新聞

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銀行でも証券でも大手超えへ

SBIホールディングス  代表取締役社長  北尾 吉孝 氏

――「地方創生プロジェクト」における地域金融機関との関係性は…。
 北尾 地域金融機関に対するシステム提供の他、今まで地銀では取り扱っていなかったような当社の製品サービス全てを提供するなど、極めて広範囲な提携を進めている。例えば08年に設立したSBIマネープラザでは地域金融機関と共同店舗を運営し、地方顧客に対して多様な金融商品を提案・提供している。現在は8行8店舗だが、順調に拡大しており、増設を進めているところだ。また、SBI生命の団体信用生命保険やSBI損保の保険商品等も提供している。地元密着型の地域金融機関は一つのところに留まっているため、地方経済が衰退していけば、その地域の金融機関も同じように駄目になってしまう。しかし、地域という発想を捨ててインターネットを使い全国展開すれば、そのような問題は解決できる。我々はそのためのツールを提供している。実際に、2007年に住友信託銀行との合弁で設立した住信SBIネット銀行は、現在約5兆2000億円の預金を保有するまでに成長し、地銀との比較でもトップ30位以内に入るほど躍進している。また、証券業界においてもインターネットを利用することでコストを減らすことに成功し、我々は野村証券の23分の1の手数料を実現している。インターネットの力は本当に大きい。

――「顧客中心主義」がSBIグループの最も大切とする考えだと…。
 北尾 我々は設立当初から「いかに顧客に利するか」を標榜してきた。それが定着し、結果として大和証券の口座数を抜くことができた。野村証券の口座数も、この一年程度で抜くことになろう。そうなった状況でも、株式の売買委託手数料についてはもっと引き下げていこうと考えている。また、小口の送金手数料なども限りなくゼロに近づけていきたい。「地方創生プロジェクト」では、その他にも例えばインターネットを利用し、ふるさとローンやふるさと預金を提供する等、まだまだ我々が協力して出来ることはたくさんある。ただ、地域金融機関が個別でこのようなことを行おうとする際に直面する問題が、定期的なシステム更新時に莫大なコストがかかるということだ。そのため、地銀同士が共通のシステムを使ったり、共通化されたプライベートクラウドを利用するというような考えが必要になる。今はそれを進めている。

――全国に存在する地銀をひとまとめにして、第4の銀行を作るというイメージか…。
 北尾 「地方創生プロジェクト」については、先ずは一緒に知恵を出し合って活性化していくという、いわゆる「互助の精神」から始めたものだ。現在のマクロの経営環境では、短期的に見ても、日銀のネガティブ金利政策下では利益が出ず、フィンテックも自前では導入できない。数年後には地銀の6割が赤字になると言われている。経済は衰退し続け、人口減少が続くなかで、生き抜くためには、全国展開してシステムの共有化を図り、我々がもつ運用ノウハウを利用して、協力し合いながら地域活性化を図るしかない。それは、決して我々が経営を牛耳るという訳ではない。各地銀の経済状況や経営方針をみながら、我々もしくは共同持株会社から資本を入れたり、業務提携を行ったり、それぞれに適した対応を行っている。とにかく「みんなで知恵を出し合う一つの共同体を創っていく」というのが私の考えだ。

――例えば「共同持株会社」のケースでは、御社が50%の資本を持つことになるのか…。
 北尾 共同持株会社となれば約50パーセントを当社が持ち、残りの約50%は、地銀の他、メガバンクや海外の投資機関や国内のベンチャー企業からの出資もあろう。長い間、地銀株の持ち合い解消という流れにあったメガバンクだが、中には「この共同体の中に入りたい」と考えるメガバンク経営者も出てきている。或いは、フィンテックのような最先端技術の領域で投資をすすめる我々を見て、メガバンクに焦りや危機感が生じているのかもしれない。例えば送金についていえば、もはや、全銀ネットやSWIFTといった従来からあるシステムに膨大なお金を払い、これだけに依存するような時代ではない。米Ripple(リップル)社の分散型台帳技術(DLT)を用いれば低コストで送金できる。既にRipple社のネットワークには中銀を含む200行以上の銀行が参加している。また、これまでとてつもない時間がかかっていた貿易金融では、米R3社のテクノロジーによってスピーディー、且つ、低コストでのサービスが提供されている。こういった新しい技術に我々はいち早く着目してジョイントベンチャーを作ってきた。基本的に我々がこれまで行ってきたことは、金融機関に友好的で、且つ無駄な時間やコストをセーブできるものだ。もはや、メガバンクといえども我々の事を侮れない状況になってきたのではないか。ただ、我々は現存するメガバンクに対抗するものを創り出していく訳ではなく、あくまでも「互助の精神」という新しいコンセプトのもとに、運命共同体のような意識を持つ第4の銀行連合をつくろうとしているだけだ。そのためにお互いが知恵を出し合い、アライアンスを強化していく。そういう信頼関係を得るために3年の時間を要し、ようやく今、資本関係をもてるようになった。もちろん我々は民間企業であり、公的資金を投入している訳ではない。経済合理性は十分に考えて行動している。

――低迷を続ける投資銀行について思う事は…。
 北尾 リーマン・ショック後、米国では投資銀行が完全になくなった。かつてのゴールドマン・サックスやモルガン・スタンレーの力は急激に衰え、もはや過去のような冒険は出来ず、商業銀行のビジネスに乗り出したり、商業銀行の傘下に入るなどしている。旧インベストメントバンカーがリテールに進出したとしても無理だろう。今のインターネットの世界は「WINNER TAKES ALL」だ。顧客基盤が出来上がっているところとそうでないところでは、顧客獲得コストが全く違ってくる。例えば、沢山のセールスマンや支店を抱える野村証券のような大手は手数料を高くしなければ全てがまわらない。かつてインターネット専業証券として、ジョインベスト証券を作ったものの、損失を出して撤退する結果となった。

――次のステージでは大手との競争に突入していく…。
 北尾 もはやオンライン証券との競争は終わった。次のターゲットは野村證券や大和証券といった大手総合証券会社であり、我々は、これまで培ってきたリテールマーケットを土台にホールセールマーケットに力を入れていく。本来リテールとホールセールは車の両輪だ。これからホールセールの枠を広げていくという希望に満ち溢れている我々に対し、リテールでの顧客を失った大手には厳しい現実が待っているだろう。私はこの20年、パリバショックやリーマン・ショック、地政学リスクなど、世界的に色々な出来事が起きる中で、企業生態系の構築が不況抵抗力を高め、飛躍的な成長を可能にするという考えのもと、利益を生み出す戦略を常に練りながらここまでやってきた。55人からスタートした会社は今や6500人を超え、時価総額は約6000億円にまでになった。さらにこれからの10年は、これまでの20年よりもはるかに成長できると確信している。先日発表したヤフーを傘下に持つZホールディングスとの提携もZフィナンシャルの金融事業の強化に資するだけでなく、我々の顧客基盤をもっともっと強力なものにするためにも役立つだろう。そういったアライアンスはこれからも目白押しに用意している。そうした顧客基盤と最先端の技術をもって、今後も成すべき活動を続けていくつもりだ。(了)

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