金融庁 監督局長 栗田 照久 氏
――検査・監督の一体化の進捗状況は…。
栗田 検査・監督の一体化はすでに進んでいる。特に地銀に対しては、検査の際に金融仲介機能の発揮状況も合わせて見ているなど、オンサイト・オフサイトの一体化は浸透しつつある。また、検査マニュアルの廃止については、これまで別表でやっていた実務の扱いが問題とされていたが、いろいろな方々の意見を取り入れた案についてパブコメを募集しているところで、この結果をもって検査マニュアルを廃止する予定としている。
――一方で、現状の大規模緩和政策が続くと再び不良債権問題が起きる懸念はある…。
栗田 もちろん信用リスクは気をつけなければならない。我々は銀行に対し、担保に依存するのではなく、目利き力を活かし、財務諸表に現れない企業の将来性などの強みを評価し、貸し出すことが望ましいということを再三申し上げている。これは、無闇矢鱈(むやみやたら)に貸すべきだということではなく、財務諸表の内容が悪く、将来性を見通せない企業には、リスクに応じた金利とする、あるいはリスクに応じた担保を取ればよいという考え方だ。つまり、「ゼロ」か「1」か、という話ではないということだ。バブル期はなんでも貸せという「1」の流れにあり、バブル崩壊後は担保がないと貸さないという「ゼロ」の流れにあったが、現状はそのゼロと1の間で、銀行がよく考えていくことが必要とされている。
――そうはいってもマイナス金利で地銀のビジネスモデルは厳しい…。
栗田 まさにその通りで、銀行の典型的なビジネスモデルは、預貸の差で稼ぐということなので、預金金利がほとんど下に張り付いて、貸出金利も下がっていると当然、利ざやが減り、銀行業として非常に厳しくなる。そこは間違いない事実だ。とはいえ、厳しい言い方をすれば、泣き言ばかり言っていても仕方がない。当たり前のことだが、企業の経営は常に良い環境の時ばかりではないため、今どうすべきかを経営陣は考えなければならない。やり方としてはいろいろある。経費を削減し、総資金利ざやを取れる形にするというやり方、あるいは融資に付加価値をつけることによって金利を上げるやり方、あるいはその付加価値を独立させて別途手数料をいただくというようなやり方など、この環境下で利益を上げる方法を考えていただく必要がある。どれも容易ではなく、金融機関の方々が大変だというのもよく分かるが、何もしないで泣き言を言っていても仕方がないというのも事実だ。
――他業態をやりたいという声も出てきているが…。
栗田 いろいろなやり方を模索しているうちに現行の銀行業の厳しい業際制限では上手くいかないところもあるというのは一般論としては理解している。そのため、具体的にどういう必要性があり、どういう業務をやるべきなのかということを言っていただければ検討していくことも吝か(やぶさか)ではない。とはいえ、なんでもやっていいという話でもない。やはり銀行業としてまったく性質が異なるリスクをとってもらっては困る。この点、銀行業にとって何かしら役に立つのでリスクを取るということであれば十分に話は分かる。つまり、なんとなくやりたいというのでは困るという話だ。
――地銀に対するBIS規制を緩和するということは…。
栗田 それは難しいだろう。国内基準行の自己資本比率規制の水準は4%となっているが、実際はもう少し高く積んでいる。全体的に昨今は、自己資本比率が低下しており、注意しなければならない状況になっていると考えている。自己資本比率は、リーマンショックなど何かしらの悪い状況が発生した際に、一時的に低下することは仕方がなく、そのために積んでいるものだ。ただ、現状は極端に悪い事象もないのに低下基調にあり、むしろ用心すべき局面にある。仮に大きな打撃を受けた際に、最後に防御策となるのは自己資本であるため、的確に備えられているかどうかを常に見ている必要がある。
――地銀再編は合併を含めていろいろな方法がある…。
栗田 我々が常に言っているのは、経営統合も経営の一つの選択肢であり、また各金融機関の判断であるということに尽きるということだ。そのため、金融機関の選択を否定することはない。規模の経済が働くことからある程度の大きさも必要だ。しかし、それだけが生きる道ではなく、反対に小さくなり、コア業務に集中することも選択肢の一つだ。決断つかずで時間だけが過ぎるというパターンは一番よくない。
――地域ごとに共同運用機関を設けては…。
栗田 実際問題として、銀行ごとにポートフォリオが異なっているため、一筋縄ではいかない。預貸と有価証券運用を合わせ、全体的としてリスク管理している銀行もあることから、有価証券運用だけを切り出して、委託するというのはなかなか難しいという意見も出ている。ただ、小さい銀行が今のやり方でうまくいっているのかといえば、必ずしもうまくいっているわけではない。ある程度の有志が集まり、共同運用機関を設けるのもいいが、そういったやり方ではなくとも、地銀の運用アドバイザリーなどに任せる、もしくは人を送って勉強させるといったような難易度が低い方法から実施し、その先に共同的な運用機関の必要性を判断したらそれを構築するという段階を踏むことも良いだろう。
――顧客本位の業務運営と利益のバランスについては…。
栗田 基本的な発想は、顧客本位で営業しなければ結局は顧客に見放され、利益うんぬんよりも存続にかかわってくるということである。顧客本位の対応にはコストがかかるかもしれないが、それにより顧客の信頼を得れば、将来的に金融機関の利益になる。銀行は信用商売であり、信用を失ってはやっていけない。この点、かんぽ生命については、現在、検査、調査中であるため結論がましいことは言い難いが、重大な問題であることには間違いない。同社の場合、まだ仮説にすぎないが、具体的な方策がないのにも関わらず、厳しい目標を課していたことが原因の一つだと考えられる。あるいは過度なインセンティブが原因とも考えられる。いずれにせよ顧客本位という観点からよく検証する必要がある。
――その他の課題は…。
栗田 いろいろあるが、新しいデジタライゼーションの流れをどう取り込むかも大きな課題だ。この世界は今後数年で大きく変わっていく可能性が高く、それをうまくキャッチアップできなければ非常に辛いことになる。新しいことをやりたいという事業会社は、自分が得意とする分野だけをやればいいのだが、既存の金融機関は今までやってきたことがあり、規模も大きいため中身を入れ替えるというのは非常に大変な作業となる。ただ、それをうまくやっていかなければ時代に乗り遅れ、漂流化しかねない。顕在化しつつある重要な課題であるが、誰も先を読めない中で対応は決して容易ではない。
――STO(セキュリティ・トークン・オファリング)がその一つだと…。
栗田 STOはまさに目先の話として、法律も成立したし、協会も設立し、自主規制規則も策定していただく流れにある。こういった新しいマーケットがうまく成長していけばいいが、詐欺的な事案など、最初から問題が生じるとよくないため、いろいろ考えてやっていかなければならない。