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プロパガンダの新司令塔を

外交戦略研究家  初代パラオ大使  貞岡 義幸 氏

――日本は韓国のプロパガンダに圧倒的に負けている…。
 貞岡 日本と韓国のプロパガンダ(政治宣伝)の違いは、国民性に起因するところが大きい。島国で単一民族である日本には「沈黙は金」、「忖度」、「空気を読む」、「以心伝心」、「阿吽の呼吸」といった諺があり、「言葉で伝えなくてもわかるだろう」という思いや、「自分は正しいことを考えているのだから相手も当然同じような意識を持つはずだ」という考えを持つ人が多い。一方で韓国は、半島国家の宿命で周辺大陸から蹂躙されてきた歴史を持ち、色々な民族と接触する機会も多かったため、自分の考えを明確に表現し、賛同してくれる支持者を出来るだけ多く募ることに長けている。つまり、日本は攻撃的に自分の考えを表明する韓国とは真逆の事を行っている。しかし、世界の世論を取り入れるためには、当然韓国のプロパガンダ手法が有利であり、世界の中で一番重要視される米国の世論でも、団結力の強い韓国系米国人の声が大きく浸透しているのが現状だ。

――韓国系米国人と日系米国人のプロパガンダの差は…。
 貞岡 第二次世界大戦時の米国では、日本人は収容所に入れられてしまった。そういった歴史のトラウマから、日系人は団体で政治的活動を行うことを避けるようになった。一方で、韓国系米国人の多くは、戦後、日本人や中国人よりも後に米国へ移ったため、すでに固まっているコミュニティーの中で、韓国人同士が団結して自分たちの利益を主張するという意識が強かった。米国の連邦下院議員に「マイク・ホンダ」という人物がいたのだが、彼は日系三世であるにもかかわらず、従軍慰安婦問題の対日謝罪要求決議の代表提案者として主導するなど、長い間反日活動を続けてきた。その背景には、カリフォルニア州でアジア系の票を核としていた彼にとって、団結したがらない日系米国人は票にならず、団結力の強い韓国系米国人の肩を持つようになったという理由がある。そういったところにも、日本と韓国のプロパガンダの違いは影響している。幸い、彼は昨年の中間選挙で落選したため、少しは米国における韓国のプロパガンダの勢いも治まってくるのではないか。そう願う。

――安倍政権は戦後初めて韓国に対する経済制裁を行った。それに対して韓国は反論のプロパガンダ勢力を強めているため、世界的に日本が悪者として扱われる心配もある…。
 貞岡 その心配は大いにある。戦後、連綿と続いた日本外交の特徴は「平和外交で喧嘩をせず、他人の悪口は言わない」というものだ。そのDNAが外務省には根付いているため、そもそも日本の外務省はプロパガンダに向いていない。プロパガンダを行ったとしても、その行動だけで満足して結果までは気にしない。北朝鮮がミサイルを発射した際にも「抗議をした」というアリバイ作りだけに止まっているのが良い例だ。実際に今、外務省が行う外交は専ら日本文化の宣伝だ。茶道や華道、歌舞伎や相撲など、日本の伝統文化を外国に知ってもらうのも確かに重要なことだが、本来ならば、それ以上に政策広報に力を入れ、日本の正当性を外国諸国にしっかりとアピールすべきだ。2017年にサンパウロ、ロサンゼルス、ロンドンの世界3都市に設置した「ジャパン・ハウス」についても、外務省は設立当初、「日本の文化だけでなく政策広報にも力を入れていく」と宣言していたのだが、現在そこで実際に行われているのは相変わらず文化の宣伝だけだ。それが、自分たちが返り血を浴びることのない無難な外交であり、そのようなことを行ってさえいれば良いと考えているのが日本の外務省という事だろう。

――外交機密費の使用が厳しくなったことも影響している…。
 貞岡 2001年に外務省の機密費流用問題が発覚したことをきっかけに、機密費の使途申請や報告義務が非常に厳しくなり、今ではほとんど機密費を使わなくなってしまった。それでは協力者を得ることも、情報を取ることも難しくなってしまう。そういう面では、今の日本外交の幅は以前よりも狭くなってきているのではないか。また、日本では外国とのかかわりにおいて、各省が独自に進めるのではなく、財務省以外はすべて外務省を通す外交一元化政策をとっているため、外務省の仕事は驚くほど多い。時間も人も限られている中で、プロパガンダまで手が回らないというのも正直なところなのかもしれない。

――日本は今後、どのような形でプロパガンダを進めていくべきか…。
 貞岡 先ず、司令塔には外務省ではなくもっと新しい発想を持った人を据えるべきだ。例えば、経済産業省や国家安全保障局などが中心となって全体計画を作り、実行部隊としては大使館を利用すればよい。また、プロパガンダの手法については、電通や博報堂などコミュニケーションツールの専門知識を持った民間の知恵を借りることも必要だと思う。現状の外務省が作成するプロパガンダの計画は、対象国と日本の現状の問題点、経緯、日本の立場などを小難しく書きあげ、その資料を該当大使館員に渡し、それを受け取った各大使館員が、それぞれ独自の切り口で実行に移すというやり方だ。そのような手法では意図する政策は全く伝わらないし、伝わらなければやる意味はない。さらに言えば、人権問題などに関してはもう少し女性を活用すべきだ。特に慰安婦問題では、河野太郎外務大臣など男性陣よりも、女性の話の方が説得力を持って聞いてもらえると思う。そもそも日本には女性の外交官が少ないが、男性では難しい部分を女性の政治家や評論家に頼ることも必要だ。そういった戦略を日本外交はもっと考えるべきだ。

――宗教や国民性を理解することも、外交には欠かせない…。
 貞岡 世界の中でプロパガンダを行う際には、イスラム、カトリック、プロテスタント、トランプ政権を支える福音派など、各宗派に対するプロパガンダ戦略を考えることも非常に重要だ。それぞれの宗教に的確にアプローチをすることで、庶民の中に自然に浸透していくというケースもある。そもそも日本人でそのような研究をしている人は少ないと思うが、現実には世界は宗教で動いている。宗教をめぐっての戦争も起こっている。政教分離を頑なに唱えるのではなく、世界の中での外交戦略として、宗教を熟慮したうえで作戦を練ることは今後プロパガンダを行う上で非常に重要だ。

――このほか、日本のプロパガンダ政策に必要なことは…。
 貞岡 日本政府は国民にもっと本当のことを話すべきだ。例えば先日、世界貿易機関(WTO)で最終判決が下された日本製のバルブをめぐる日韓の通商紛争において、日本政府は日本勝訴という認識のようだが、韓国側は韓国が勝訴したと主張している。そして、日本側は「勝訴したのだからプロパガンダを行う必要はない」という考えに対して、韓国側は「勝訴したのだから、もっとプロパガンダを行う」というように、全く逆の方向に進んでいる。そうすると、世界的にはプロパガンダが上手な「韓国の方が正しい」となってしまう。どちらが勝訴しているのかも含めて、政府は国民に本当のことを話し、さらにマスコミや経済評論家も一丸となって、それに応じたプロパガンダを進めていくことが今の日本には必要だ。残念ながら、今の外務省だけにその重要な任務を負わせるのは難しいのが現状と言えよう。(了)

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