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ハイブリッド型総合証券Gに

大和証券グループ本社  代表執行役社長CEO  中田 誠司 氏

――環境が厳しい中では工夫が必要だ。御社の戦略は…。
 中田 経営環境が良いと既存のビジネスがそれなりにうまくいくため、新しいことや工夫する意識が希薄になりがちだ。しかし、金融界全般が大きな過渡期で、向かい風が吹いている現在、どのような工夫をしていくかで将来に大きな差が出てくる。当社の戦略は、基本的には伝統的証券ビジネスが柱であるが、その分野での買収は当面行うつもりはない。現在進めているのはいわゆる「ハイブリッド型総合証券グループ」としての新たな価値の提供で、リスクプロファイルが違う業態への進出だ。例えば、2009年に不動産アセット・マネジメントビジネスに参入し、2011年には大和ネクスト銀行を開業した。これは、伝統的証券ビジネスがマーケット環境に左右されてしまうため、その変動率を下げるための事業領域の拡大だ。また、本年度には高齢者向け介護事業を展開するグッドタイムリビング(旧オリックス・リビング)を買収した。同社が保有する施設を当社グループのヘルスケアリートに加えることができれば、不動産リートビジネスの拡大にもつながる。施設を利用する富裕層のお客様に対する相続関連ビジネスでのシナジーも見込まれ、まさに伝統的証券ビジネスを補完する形になっている。昨年度における当社の経常利益は831億円となったが、その内の約18%はリスクプロファイルのために手掛けた新事業領域での利益だ。今後5~10年先までに、伝統的証券ビジネス以外の利益が全体の経常利益の30%程度になるまで伸ばし、マーケット環境に左右されにくいビジネスモデルを作り上げたい。

――日本郵政グループとの協業の検討やクレディセゾン等との資本業務提携については…。
 中田 当社だけではカバーできない顧客基盤をアライアンスによって取り込んでいくことも現在の戦略の一つだ。本年5月に当社グループは、日本郵政グループと資産形成分野における新たな協業の検討に合意した。言うまでもなく日本郵政グループのネットワークは広範で日本最大の顧客基盤を有している。今後、最適なポートフォリオを提案する投資一任サービスの提供を検討している。本年9月に資本提携したクレディセゾンは、グループとして約3,700万人のクレジットカード会員を保有し、20~40歳代の顧客も多い。当社の主力顧客層が60歳代以上で、且つ、当社がカード決済ビジネス領域を保有していないことを考えると、両社のコラボレーションによって得られるメリットは大きい。デジタルネイティブ世代へのアプローチについては、コネクトというスマートフォンに特化した金融サービスを提供する新ブランドにより、今後、取組みを強化していく予定だ。若い世代の人たちがいずれ50歳、60歳代になり、相続や資産継承などで大きな資産を持った時に、大和証券グループという存在を身近に感じてもらえるよう、今のうちからプロモートしている。

――このような金融情勢の中で、取扱商品については…。
 中田 基本的には、資産形成層にはNISAを中心とした積み立て型の投資商品がフィットしていると思う。また、投資信託も業界的には販売が苦戦しているが、当社のコア商品であることに変わりはない。ファンドのテーマは目まぐるしく変わる。特に現在のように日進月歩で変化する世界情勢では、独自で的確に状況を捉えて売買するのは至難の業だ。そうすると、やはり長期的な国際分散投資や、運用のプロがリアロケーションを行うファンドラップ等が適しているのではないか。この点、当社のファンドラップは様々なサービスを先行して用意している。例えば、「ファンドラッププレミアム」ではお客様に相続が発生した場合、返還資産のお受取人をあらかじめ指定しておくことができる「相続時受取人指定サービス」やご家族への生前贈与を確実・簡単に行なうことができる「暦年贈与サービス」などのサービスを付帯している。お客様のニーズに沿ったソリューション型の商品となっており、ご好評をいただいている。このようなオーダーメイド型の投資一任契約は今後さらに拡大していくだろう。

――金融規制が厳しくなったことでコアの投資銀行ビジネスはやりづらくなり、同時にネットによる取引が拡大しているが、その辺りの影響は…。
 中田 リーマン・ショック以降、バランスシートを使ったビジネスについては相当規制が強化されているが、当社は幸い欧米において当該ビジネスをそれほど大きく展開していない。これからもその方向性を変えるつもりはないため、規制強化に対する影響は非常に軽微だ。アンダーライティングのビジネスでは、このような金利環境下で資本コストの高いエクイティによって調達することは少なくなっているが、株主構成を見直すために売り出しを実施する事例はある。一方、デッドファイナンスのビジネスは相当量ある。強化すべきはIPO及びM&Aでのビジネスだ。最近のIPOで日本から出てきたユニコーン企業はメルカリくらいだと言われているが、ポストユニコーンとして期待されている企業は多く存在する。それが実際に上場するかどうかは別の話だが、この2~3年で日本のベンチャー気運が大変盛り上がっているのは事実だ。ベンチャー企業の成長をサポートしてマーケットに送り出し、さらにそのマーケットで成長を加速させていくために付き添っていくことが我々の使命の一つだと考えている。

――御社のM&Aビジネス戦略については…。
 中田 M&Aに関しては、日本だけでなく世界を見ても、今後、恒常的に経営戦略のツールとして存在するものだ。兆円単位のメガディールから数十億円規模のものまで色々ある中で、我々がビジネスとして狙っているのは取引金額5億米ドル以下のミッドキャップにおけるグローバルM&Aであり、そのクラスで世界トップになるべく陣容も大幅に拡大している。そのために、当社では10年前に英クロース・ブラザーズを、また、2年前には米国のセージェントとシグナル・ヒルを買収し、北米、欧州、日本、アジアというM&A4極体制を作り上げた。全世界にバンカーを抱え、グローバルネットワークを有しているが、ミッドキャップを中心に扱う会社の中でこれだけしっかりと世界にネットワークを作っているのは当社だけだと思う。今後もM&Aビジネスを補完するための拠点拡大やバンカーの補強については惜しまず積極的に注力していくつもりだ。ただ、こういった買収や新規ビジネスの結果が出てくるのには時間がかかる。大和ネクスト銀行や不動産アセット・マネジメントビジネスも、今でこそ大きく成長したが、現在に至るまでに約10年かかっている。つまり、現状、先行的な投資をしていても、そのリターンや実績は5年~10年後であることをご理解いただきたい。

――冒頭、リスクプロファイルの展開についてお話しいただいたが、今後、新しく進出しようとお考えの分野は…。
 中田 我々がまだ進出しておらず、且つ、我々のノウハウが生かせる事業領域はたくさんある。また、すでに進出している分野でも、その地域を広げていくやり方もあり、可能性は大きい。ただ、経営資源には限りがあるため、先ずはこれまでにまいた種の芽をしっかりと出すことに注力していきたい。例えば、昨年立ち上げた農業・食に関する子会社大和フード&アグリでは、アグリテック等を利用した大規模、かつ、効率的な農業のビジネスモデルを作り上げている専門家に参画してもらった。今は、熊本県のベビーリーフ栽培会社と提携し、同社が開発した高効率の生産方式でベビーリーフの生産、出荷を始めている。また、九州地方はじめ各地でアグリテックを使った自社による大規模栽培も考えている。時間はかかるが、先を考えれば、安定的な収穫が見込めて確実な販売が出来るようになり、そこでキャッシュフローが回るようになる。そうなれば、我々証券会社としてのノウハウを使い、証券化してファンディングに繋げることも出来るようになるだろう。日本の農業は課題であるとともに、日本の食が世界のキラーコンテンツにもなっている。グループ横断的にSDGsへの取り組みを進めているが、課題解決型の事業をビジネスチャンスにつなげ、時間をかけながら蒔いた種の芽が出てくるのを確認しつつ、常に新領域の開拓も検討していきたい。

――10年後が楽しみだ…。
 中田 今年の日経平均株価は2万円割れからスタートし、現在約1割のパフォーマンスは出ているものの、ボリュームは減少傾向だ。特に今年の4~6月期はアベノミクス以降、個人投資家の売買代金が最低だった。そういう意味でも伝統的証券ビジネスの環境は極めて厳しい。但し、創業以来117年間、伝統的証券ビジネスを続けてきたが、この分野への参入障壁は高く、ここを大事にしていくことは言うまでもない。将来的には、蒔いた種が予想していた以上に大きくなる可能性もあり、大和証券グループが、「日本唯一の伝統的証券ビジネスをコアとしたハイブリッド型総合証券グループ」と言われるようになるかもしれない。大和証券グループでは大和証券を核としたエコシステムを構築していくという事になろう。

――アジアの資本市場については…。
 中田 以前はインドネシアやマレーシアにも拠点を置いていたのだが、現在は撤退し、シンガポールで両国をカバーしている。アジアの拠点は香港とシンガポールを中心に、韓国、オーストラリア、インド、台湾、フィリピン、ミャンマー、中国、タイ、ベトナムにもあるが、資本市場が発展途上で、国によって規則も違い、市場も整備されていないという各国の現状を踏まえると、今の段階では現地の証券会社や金融機関とパートナーシップを組むことがベストな戦略だと考えている。もちろん、世界の状況を見ると、中国を除くアジアの成長率は平均して約5%で、向こう数年間この数字は確実に続くだろう。人口動態から見ても、今後、世界の人口の7割がアジア人とアフリカ人になると言われており、成長していくフィールドであることは間違いない。その成長を少しでも取り込んでいくことは大事だと認識している。(了)

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