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経済安全保障で体制整備

財務官  武内 良樹 氏

――先ず、福岡市で開催されたG20財務大臣・中央銀行総裁会議の成果は…。
武内 日本は議長国として、高齢化問題や質の高いインフラ投資など、日本らしいテーマを掲げて、狙い通りの有意義な議論が出来たと思う。大きなテーマだった「デジタル課税」については、OECDを中心に議論されてきた「物理的な拠点(恒久的施設)が無くとも売り上げを出した国で適切に課税できるように国際課税原則を見直すこと」と、「国際的な最低税率を定め、軽課税国に利益が移転されている国が課税できるルールを導入すること」という2つの柱を含む長期的解決策の作業計画をG20で承認することが出来た。また、グローバル・インバランス(世界的な経常収支不均衡)については、二国間の貿易収支ではなく、経常収支の背景にある構造的な問題点を是々非々で議論すべきという合意を得ることが出来た。日本がかねてから問題視していた途上国債務の問題も、民間部門を含め貸す側と借りる側それぞれの立場で融資実態をきちんと把握・管理する必要性を議論することが出来た。さらに、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ強化の重要性に関するG20共通理解をコミュニケに盛り込むことが出来たことは、日本が議長国であったことの成果だと思う。10月には議長国として最後のG20がワシントンで開催される。その時はもう一度今回のフォローアップに務めたい。

――Facebookが開発している仮想通貨「リブラ」について…。
武内 G20の1カ月後、7月にフランスのシャンティイで開かれたG7財務大臣・中央銀行総裁会議の主なテーマが「ステーブルコイン」と「国際課税」だった。Facebook等が開発しているステーブルコイン「リブラ」には確かにいい面もあるのではないかと考える。世界中で17億人の成人が銀行口座を持たない状況にあり、例えば、多くの国民が銀行口座を持たないような国では、リブラによる金融サービスへのアクセスがフィナンシャル・インクルージョン(金融包摂)として役に立つだろう。また、海外へ送金する際の高額手数料や時間の煩わしさも無い。しかし、資金洗浄や脱税、金融政策、通貨主権、個人情報保護、競争政策などの問題を放置したまま見切り発車されると、取り返しのつかないことになる。例えば、通貨主権については、政権が安定していない等の理由で自国通貨の信用が低い小国で、国民が自国通貨の代替として「リブラ」を活用するようになった場合、その国のマクロ経済の構造や経済政策の選択肢に重大な制約が課せられることになる。また、小国だけでなく、大国に対しても「リブラ」の通貨バスケットや裏付け資産を通じた国際通貨システムの機能への影響が考えられる。G7では各国大臣が「リブラ」に対し異口同音に警戒感を表明しており、「リブラ」が実施される前に先述のような課題に対処すべきとの合意について議長総括が公表されたが、現在、「リブラ」を含むステーブルコインにおいてどのような問題点があり得るのかG7で調査しているところだ。このような課題に対し、今回、先駆けて議論できたことは重要な成果だったと思う。

――「国際課税」については…。
武内 フランスは先行して、2つの課税対象サービス(プラットフォーム、オンラインターゲット広告)で一定の売上高がある企業を対象に、当該サービスによるフランス国内での収入に3%を課税する制度を導入した。これは国際的な共通ルールが出来るまでの制度だとしている。一方、G20で目指す2020年までの国際ルールの合意にはまだ検討すべき論点が数多くあり、容易ではないだろう。たとえば、課税対象を限定企業にするのか、或いは、企業全体にするのかといった点での規定や、課税権の分配方法や恒久的施設の概念をどう見直すのかといった点についての議論がある。また、2つ目の柱については、法人実効税率の下限を何%にするのかという議論もある。この議論はデジタル課税に限られないが、法人税の引き下げ合戦を避けるという点で有意義な議論だと思う。いずれにしても、国によって大きな損失が出るようなことがないよう、バランスをとる必要がある。

――「リブラ」も「国際課税」も、経済のグローバル化やIT化が進んでいることの象徴だ…。
武内 今の時代はモノ以外のところでお金が回っている。Facebookも会員になること自体はただ同然だが、その結果得られるデータで利益が生じているという事が重要であり、「国際課税」も「リブラ」も、時代の流れによる今ならではの課題と言える。「リブラ」等のステーブルコインにおける課題についてはG7だけでなくG20まで一丸となり知恵を出し合い、「国際課税」についてはBEPS包摂的枠組みに参加している約130国を巻き込んで進めなくてはならない。また、それ以外の問題として、貿易摩擦の中で世界経済がどうなっていくのか、それに伴って為替レートがどのような動きになって行くのか、我々が常日頃から行っていた業務も、米トランプ大統領の登場以前には存在していなかった新しいファクターもあるため、より慎重に見ていかなければならない。

――今年はFATF(金融活動作業部会)による第4次対日相互審査も予定されている…。
武内 日本企業による海外での活動が制限されてしまうことにならないよう、この審査で、日本がきちんとFATF勧告に対応していることを示すことが重要だ。引き続き、金融庁など関係省庁と連携しつつ、大小全ての金融機関をはじめとする特定事業者にも、関連法令等の遵守を図っていくつもりだ。

――段々と保護主義的圧力が強まり、軍事衝突になりかねないことが世界各国で起きている中では、経済安全保障的な考えをもっと強め、建設的に構築していく必要もある…。
武内 それは自国を守るためにイギリスもヨーロッパも米国も普通に行っていることだ。なぜ日本だけやらないのかという話になって当然だろう。相手がどの国であれ、守るべきルールはきちんと守らなくてはならない。基本的には日本への投資はウェルカムなのだが、本来規制されてしかるべきものが、手を変え、品を変え規制を逃れてきては困るため、きちんとしたケアが必要だと考えている。米国などの国家安全保障上の規制を見習いながら、日本としても色々なパターンに対応できる体制を整えていきたい。政令改正のパブリックコメント(8月24日締切)も出しているところだ。一方で、韓国との輸出規制の見直しは輸出管理を厳格にすべきという観点からの措置であり、経済安全保障的な考えからという訳ではない。ルールの網の目が正しいかどうかという話だ。

――これからの抱負は…。
武内 一つの事に気を取られることなく、全体的にまんべんなく目を光らせておくことが大事だと思っているが、それが一番難しい。しかし、このポストに就いた以上、各国と連携しつつ、相手の言い分をきちんと聞きながら、同時に日本の意見をしっかり伝え、建設的な議論をしていきたい。特に気を付けていくことは、例えばG7での話し合いの問題についても、G7以外の国の事まできちんと考えながら、お互いの協力姿勢を確認しあって話を進めていくことだ。色々な国と情報を密に交換しあう事で、お互いが満足できるような解決策が見つかっていくものだと信じている。そういった仕事の進め方を心掛けていきたい。(了)

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