金融ファクシミリ新聞社金融ファクシミリ新聞

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向かい風の時こそチャンス

佐賀共栄銀行  取締役頭取  二宮 洋二 氏

――頭取に就任されて5年。振り返ってみて…。  
 二宮 頭取に就任して2年目の15年度末に先々の見通しを立ててみたところ、17年度からコア業務純益が赤字になるという予測になった。貸出金利息収入が減少していく一方で、それに見合った形でコストを下げることはなかなか難しかったからだ。そこで、「貸出金利息収入を増やすためには貸出金のボリュームを増やす」というそれまでの考えを止めて、金利をきちんといただくという方向に貸出態度を転換した。これまでは、営業先で他の銀行に肩代わりされそうになると、すぐに他行の最低レートまで貸出金利を下げるという行動を続けていたのだが、私がある顧客のところに行き、佐賀共栄銀行の考え方やこれまでの実績などを説明したところ、そのお客さんが納得してくれて、一部は他行への肩代りがあったものの、予定借入金の80%程度を当行のレートそのままで借り入れてくれた。それをきっかけに行員の中に「金利を維持することは可能だ」という感覚が芽生え、そこから流れが変わり、貸出金利息収入が上向き始めた。銀行としては、貸出金利と貸出量はトレードオフの関係にあり、両方をとることはできない。そこで、「我々としては、量を失うお客さんがいても良いから、金利を優先させる」というメッセージを明確に送り、かつ、新規顧客の開拓に力を入れることで、収入が伸びていったということだ。そして、支出においては、販管費、とりわけ物件費を削減させた。当時は「約3年で2億円程度を減らすことが出来ればよい」と考えていたのだが、それから3年経った現在、5億3千万円を削減できている。一方で、システム経費が3年前に比べて2億1千万円増加しているため、費用削減に早めに取り組んだことは本当に良かったと思っている。また、人件費も削減した。銀行は資金量1000億円に対して行員100人が適正と言われている中で、私が就任した当時の当行は資金量2000億円、行員400人と多すぎたため、300人まで減らした。支店数も11店舗を削減して現在25店舗となった。一方で、一人当たりの報酬は上げたが、コア業務純益は、結果的には3年後の赤字突入予測を回避できて、2017年度にプラス転換し、2018年度は8億円の黒字となっている。

――やろうと思っても実現させることは難しい。うまくいっている秘訣は…。  
 二宮 銀行に限らず仕事における基本動作はほぼ同じだ。その基本動作をひたすら真面目にやる人間の数を増やし、その割合を多くしていく事が大事だと思う。また、人事評価については360度多面評価にして、皆が納得する人が昇進するシステムにしている。不公平な評価では行員のやる気も無くなるだろう。そして、私が就任してから皆にお願いしていることは「とにかく徹底してやること」だ。営業先も行きやすい所だけを回るのでなく、顧客先全てに行く事。そして、実権を持つ代表者に会う事。あきらめずに徹底してやり続けることで、一つ一つ成功体験が増えていく。それが重なり実績がついてくるものだと思う。私自身としては、人任せにせずに自分でやる事を心掛けている。有言実行で実績がついてくれば、周りもついてきてくれるようになるだろう。基本的には「発する言葉と行動は、限りなくイコールでありたい」というのが私の考えだ。色々なアイデアや中期経営計画などはもちろんあるが、言葉が先に踊りだすようなことは避けたい。そのため、いつも4カ年の予測数字を作り、その数字に言葉を肉付けしている。一般に、大体の人は、達成できなかった時にどのようなペナルティがあるか、それだけを考えてしまう。しかし私は、出来なければ出来なかったで、また数字を修正すればよいという考えで、「とにかく徹底してやってみる」という事を言い続けた。そうしたところ、かなりの事が達成できた。常に修正していきながら、最終的に元来の目標にたどり着けばよいと考えている。

――つい最近、郵貯でのノルマ問題が騒がれていたが…。  
 二宮 当行でも貸出金利息収入をいつまでにどれくらい増やすといったような目標を各支店に振り分けることはある。それが計画なのかノルマなのか、言い方にもよると思うが、目標達成にむけた計画は、年度初に本部が作るが、それに対して更にどの程度上を目指すかどうかは、各支店の自由意思で作ることになる。それは合意のもとであり、自分たちで決めた数字に対しては一生懸命になれるものだと思う。しかも、それが誰にも達成できないような数字ではなく、支店の6割程度が達成できるようなもので、さらに地域ブロック毎でも助け合えるようなことも行っている。さらにその達成率がボーナスにも影響するような仕組みも整っている。基本的にトップは大原則を掲げるが、その他の細かい事は、すべて現場をよく知る各支店に任せている。営業時間や店舗のレイアウトなども、支店毎にベストなやり方があると思うので、各店それぞれに決めてもらっている。

――地銀の経営に金融庁は頭を悩ませているが…。  
 二宮 地銀の中でもそれぞれに特徴がある。ある銀行は持続性に長けていたり、ある銀行には強い問題意識を持ったトップがいたり、金融庁としてもその辺りの色分けはしていると思う。言えることは過去の栄光ばかりを振り返っていたり、昔の良き時代の再来を夢見てばかりいるようでは、経営不振もすべてマイナス金利を理由に「しかたがない」で終わってしまうということだ。私としては、「向かい風の時こそチャンスがある」という考えを大事にして、5000社という取引事業社件数の今年度末の達成を目指し、さらに、1件あたりの貸出金額を増やすという事、そして、事業先1件1件とのパイプを太くし、利益をきちんと確保していく事に努めていく。銀行業の内容はとてもシンプルで、お客様との関係がいかに成熟するか、その信頼関係がすべてだと思う。だからこそ行員は魅力ある人間でなければならない。地方の方がそういった点における密度は濃いのかもしれない。

――今、地方銀行に求められていることは…。  
 二宮 お客様が何を求めているかにもよるが、高齢化社会の今において、事業承継や相続のノウハウ等、かつてとは違い多様化したニーズがある。そういったアイデアや蓄積したノウハウをお客様に提供していくことは必要だと考えている。一方で、迅速な決済を行い、短期間で答えを出すことも重要なポイントとして求められている。しかし当行では、事業者が一番低い金利の銀行を選ぶために、複数行の相見積もりをとるようなケースでは太刀打ちできない。だからこそ、企画競争入札のように良い企画を持っていけば選んでもらえるような環境をお客様と共に創り出し、そういった環境の中でさらに深い信頼関係を築き上げていく事が大事だと考えている。

――他行との合併や業務提携などについての考えは…。  
 二宮 頭取就任の挨拶の時、最初に「独立独歩でやっていく」と宣言した。当時の経営状況はかなり悪かったし、冷ややかな視線も感じたが、独立独歩でやっていくには、もっと中身をよくしなくてはいけない。もちろん、先々そういった話が出た時にどうするかを考えない訳ではないが、仮にどこかと一緒になるとしても、自社のところで利益が出ていなければ誰も見向きしてくれないだろう。自社の強みをしっかり持っている銀行にしておく事は大前提だ。幸い九州の第2地方銀行はすべて同じシステムを使っており、今年5月に加わった沖縄を含めて7行が常に太い連携の中にある。今はそのメリットを生かしてコストダウンを図ることが出来ている。今後もそういう環境の中で出来る限りの効率性を求めていくつもりだ。

――当局に対する要望は…。  
 二宮 日本銀行に対して一番思うのは、有価証券運用として保有すべき日本国債がないという事だ。10年債さえマイナス金利で、そんなものを買える訳がない。それを外債にしようにもリスクがあり、株式ではさらに高リスクになる。そういうことがわかっていながら金融政策としてマイナス金利を続けるのはどうかと思う。マイナス金利の日銀への預託よりもゼロ金利の国への預託を選択する金融機関もあるが、それはおかしい。貸出は低金利で収入が少なく、預金と貸出の差としての有価証券運用は、マイナス金利の国債では運用できない。さらに株価が下がり政策保有株等が減損になったり、各支店がキャッシュフローや収益が乏しく減損の対象になったりすると、そこで何千万、何億円という損金も出てくる。日銀のマイナス金利政策が色々なところに大きな影響を及ぼしていることを、日銀をはじめ、金融庁ももっと認識してほしい。(了)

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