金融ファクシミリ新聞社金融ファクシミリ新聞

金融ファクシミリ新聞は、金融・資本市場に携わるプロ向けの専門紙。 財務省・日銀情報から定評のあるファイナンス情報、IPO・PO・M&A情報、債券流通市場、投信、エクイティ、デリバティブ等の金融・資本市場に欠かせない情報を独自取材によりお届けします。

ASEAN統合は日本に好影響

日本アセアンセンター  事務総長   藤田 正孝 氏

――アセアン経済が成長を続けており、その存在感が高まっている…。
 藤田 アセアンが伸びてきているというのは歪みのない事実だ。全体的な指標を見ても世界中で最もダイナミックな成長を遂げており、また、相対的に見ても貿易や投資、金融の流れといった経済分野でアセアンの重要性が抜きんでている。今のアセアンは投資を受け入れるだけでなく、投資する側にも回ってきている。例えば、アセアンへの対内直接投資の世界総額における日本からの割合は20年前の約16%から近年では約10%となっているが、日本におけるアセアンからの直接投資のシェアは20年前の7%から近年では約15%と2倍に増加している。この双方向での投資がアセアンの存在感を強めている一つの要因だ。

――アセアン首脳会議が先月タイで行われた。その成果は…。
 藤田 アセアン・サミットは年2回行われている。議長国が毎年変わる中で、何が議題に上るのかでその傾向を見ることが出来よう。これまでアセアンに課せられていた「コネクティビティ」や「サイバー犯罪」について引き続き取り組みを進める一方で、今年の議長国であるタイは、アセアンの中心的役割を担う機関や施設をタイに設立することに注力している。すでに、今年のテーマである「Partnership for Sustainability(持続可能な社会のためのパートナーシップ)」に沿った形で「ASEAN Centre for Sustainable Development Studies and Dialogue(ACSDSD・持続可能な開発の研究と対話のためのアセアンセンター)」が設立され、アセアンにおける持続可能な発展をさらに進めることとされている。タイはアセアンの中でも資金力があるため、このような施設費用なども率先して提供しながらイニシアティブをとっている。また、タイにはサイバーセキュリティ問題の最先端を扱う「ASEAN-Japan Cybersecurity Capacity Building Centre(AJCCBC・日ASEANサイバーセキュリティ能力構築センター)」 も設立されている。これは日本が原資協力しているものだ。その他にも、2040年~50年にフィリピンを除くアセアン全体が直面するであろう高齢化社会に備えた「ASEAN Centre for Active Aging and Innovation(ACAI・アクティブ・エイジングとイノベーションのためのアセアンセンター)」も作られている。特にタイではすでに少子高齢化問題が表面化しており、そのスピードは日本を追い抜くと言われるほど速く進んでいる。このように、タイが今年アセアン・サミットの議長国になる事を見据えて、その先の計画を着実に具体化させるための土台をしっかりと実現させようとしていることも、アセアン全体の成果として注目すべきポイントだと言えよう。

――RCEP(東アジア地域包括経済連携)の進捗について…。
 藤田 RCEPの交渉は2012年に始まり、以後毎年のように公約に掲げられているが、なかなか妥結に至らない。いくつかの事項では合意に至っているのだが、一番重要な関税の議論がまとまらない。全アセアン域内の関税は2018年にはすでに完全撤廃されており問題はないのだが、RCEPには中国やインドなど大国が加わっているので難しい。加えて、アセアンはRCEPについて自分たちで主導権を握りたいという意識があるため、妥結へのコミットメントは強いが、今のままの状態では妥結は難しい。例えば、RCEP16カ国全てを必ず包括するという概念を捨てて、分野毎にRCEP・マイナスXにして合意するといった工夫も必要なのではないか。アセアンの中でも経済格差がある。このような柔軟性を持ちながら少しでも合意に近づけていく姿勢は重要だと思う。

――米中の覇権争いで世界情勢が不透明な中、日本はアセアンとどう付き合うべきか…。
 藤田 米中ともに譲らない部分もあり、この状態がいつまで続くかわからない。中国を巻き込んだサプライチェーンが確立している国は影響も大きく、それはどうしようもない。ただ、当センターではグローバルバリューチェーンのリサーチを実施しており、それによると、2018年の中国からの輸出における外国に帰属する付加価値は約13%と少なく、一般的な産業での中国におけるバリューチェーンは、ほぼ形成されていない。しかし、電子産業などは別だ。ファーウェイのスマートフォンを例にとってみても、全商品の3分の1は中国の製品を使っているが、次に多く使われているのは日本の製品だ。アップルのiPhoneはもっと日本製品を含め外国製品を使っている。つまり、中国が輸出規制をかけられた場合、同時にそれだけの輸入量も必要ではなくなるので中国の主な輸入相手国である米国や日本や韓国、アセアンも影響を受けることになる。一方で、2018年のアセアンからの輸出における国内での付加価値額は9,530億米ドルで、外国に帰属する付加価値額は5,309億米ドルとなっている。つまり35%超が外国に帰属する付加価値だ。このように、アセアンにおいてはバリューチェーンが形成されているため、経済統合によって一番便益を受けるのは日本企業や米国企業だと言えよう。

――日本はサプライバリューチェーンが出来ているアセアンとの貿易にシフトしていったほうが良い…。
 藤田 中国とアセアンの関係はどちらかというと点と点であり、面にはまだ至ってないが、日本とアセアンとの関係ではすでに面と面の関係になっているため、アセアンの経済統合は日本により良い影響を及ぼすと考えられている。また、アセアンは10年もたたないうちに日本のGDPを抜くと言われている。ビジネスを行う上で、成長している地域に投資していくという事は当然だ。

――日本アセアンセンターの今後の活動について…。
 藤田 貿易、投資、観光、人物交流などを通して日アセアン間の交流を深めていく事が当センターの活動目的だ。そして今の時代、すべての事業において重要な要素となるのはサービスだ。ソフトの力が全ての製品の競争力を決めていると言っても過言ではない。しかしながら日本もだが、アセアンのサービスの生産性は非常に低い。今後、その辺りを考えていく事が活動のポイントになってくるだろう。また、グローバル化の進んだ現在において自国やアセアン地域の問題に限らず他の色々な地域の影響を受けることは避けられない。今回G20でも採択された環境問題などにおいても、新興国にとっては、うまく対応していかなければ成果が出る前に潰れてしまうという可能性を含んでいる。この点、日本は過去に多くの公害被害があり、それを克服してきたという歴史がある。その経験を上手く伝えていくこともできると思う。さらに、気候変動や高齢化社会など、日本でもまだ手探り状態の問題を、アセアンのイノベーションによって突破する方法を一緒に探っていくことも一つの方法ではないか。アセアンに限らずアジアの問題は、主に資本や労働などの生産要素の投入に頼りすぎた成長を遂げてきたことだ。今後、少子化時代を迎えて成長し続けるためには、このような成長では限界がある。イノベーションをいかに起こして生産性を高めていくかが重要となろう。

――最後に抱負を…。
 藤田 私が事務総長に就任した2015年は国連サミットでSDGs(持続可能な開発目標)が採択された年だ。そして、私は当センターのすべての活動にSDGsを主流化した。また、日本が過去20年間低迷の時代だった間に、アセアンは随分と変わり、経済構造の変化も起きている。そういった部分を見逃すべきではない。アセアンは日本の重要な戦略的パートナーだ。しかし、多くの国で研究開発にかける費用が非常に少ない。かつての日本が研究開発に力を入れていたように、アセアンもこの部分に力を入れることで大きなイノベーションが起こるだろう。逆に言えば、研究開発に力を注がない限りイノベーションは起きない。1977年に当時の福田赳夫総理が打ち出した福田ドクトリンにあるように、日本とアセアンが「心と心の触れ合う信頼関係」を構築し、「対等なパートナー」として良好な関係を保ち続けることが出来るように、当センターでも関係構築を深めるための活動に今後も力を注いでいく。(了)

(c)2018 株式会社金融ファクシミリ新聞社
▲TOP