金融ファクシミリ新聞社金融ファクシミリ新聞

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ブロックチェーンは時期尚早

証券保管振替機構  代表執行役社長  中村 明雄 氏

――株券もペーパーレス時代になり、御機構がますます重要な組織になっている…。
 中村 当機構は資本市場のバックオフィスのインフラだ。個々の取引は取引所で執行されていても、結局、最後の株式決済は当機構の口座間で行われている。そのため、当機構はマシンセンターにあるメインサーバーの他にバックアップセンターにサブサーバーを置き、トラブル防止のための2重3重の策を講じている。また、東京証券取引所との結びつきは強くBCP(事業継続計画)も一緒に考えている。2020年にはオリンピックを控え、サイバー攻撃も大きな問題の一つとなっているが、当機構は基本的に専用線を使用しているためインターネット経由のハッキングは心配ないと考えている。ただ、USBなどを通してウィルスが入ってくる可能性もゼロではないため、予めUSBを使えないコンピューターを使用するなどセキュリティ対策には色々な工夫をしている。つまり、システムについては、かなり保守的に作られていると言えよう。株式の時価総額600兆円の金融資産を扱う当機構は安定したシステムしか使えない。最先端の技術を率先して使用して、失敗を重ねながら成長していくことなど許されない。

――分散式台帳システム、つまりブロックチェーンがあれば、保振も取引所もいらなくなるという見方もあるが…。
 中村 将来はわからないが、現段階の技術では、取引所取引のほうがスピーディであるという事と、取引所取引では最終的なネットの金額だけを、クリアリングシステムを使って一日の終わりに清算するため、多額の資金を用意する必要がない。こういった点で、まだブロックチェーンの先を行っていると考えている。クリアリングの方法はマーケットの知恵だ。ブロックチェーンに限らずグロスベースで一件ごとに決済することは株式の取引では難しい。また、そもそもブロックチェーンとは共有台帳であり「暗号化されているから他人には見られることがない」と言われているが、それをどれだけ信じられるかという部分もある。本当に信頼出来るのであればマーケットは変わっていくだろうが、まだまだ問題点が多く、これからの技術だと思う。

――決済期間の短縮化は…。
 中村 国債取引はすでに「Tプラス1」になっているが、国内の株式取引は今年7月16日に「Tプラス3」から「Tプラス2」に変わる。しかし、株式は国債と違って銘柄数が多く値段もそれぞれであるため、さらに「Tプラス1」にすることは難しいと思う。

――御機構の技術的課題における取り組みについて…。
 中村 2020年後半を目標に新システムへ切り替えるための開発作業を行っている。これまでは株や債券など商品ごとの縦割り状態で、そのまま電子化も進めていたのだが、新システムでは、新たに参加者の情報など横割りの基盤を加え、より利便性の高いシステムになるよう開発を進めている。当機構が保有する情報は市場参加者の共有財産だ。それをどのように利用していくかは参加者と相談しながら進めていくことになるが、例えば、証券口座におけるマイナンバーの利用は今後の新たな取り組みの一つになろう。当機構で一括してマイナンバーを管理出来れば業界横断的な株主関係の業務も一層容易になる。今年3月に税制改正法案が通ったことを踏まえ、実際にどのような方法で利用していくかを検討しながら、来年4月以降の導入を目指している。

――利用者サービスについて、手数料を下げるといったような考えは…。
 中村 コンピューターを使う事で省力化が可能になり、手数料を下げてきたが、今は新システムの開発にむけて資金を投入しているところだ。まずは新システムをしっかりと完成させることが重要であり、それがきちんと立ち上がった時に、以降の料金体系を含めた利用者サービスについての具体的な内容を、市場関係者のニーズを聞きながら、よく議論して進めていきたい。

――日進月歩で世の中は動いているが、フィンテック絡みの課題等は…。
 中村 フィンテックは基本的にBtoCの世界で利用されている。当機構はBtoBの取引で、しかも専用線を利用しているため、今の段階ではフィンテックが当機構のシステムの中に入ってくることは考えられない。銀行でも少額の送金の世界であれば絡んでくることはあるだろうが、当機構では少額の取引はなく参加者も限定的だ。もちろん、株券という概念をベースにした今の会社法が変われば、また状況も違ってくるかもしれない。株主名簿が会社に対する対抗力になっており、その仕組みがある限り、誰がその株を持っているのかを確定しなくてはならないからだ。話は少し広くなるが、私はAIやビッグデータを使ってグローバルなマーケットが出来るとは考えていない。その理由は、そのデータが誰のものであるかは国によって違うからだ。プライバシー保護の強い国のデータは、プライバシー保護の弱い国に持っていくことがこれからは難しくなると思う。実際にEUの一般データ保護規則(GDPR)はそういう考え方に基づいている。そういった意味で、デジタル化というものが技術的に可能であっても、それが社会的に受容されるかどうかは国によって違いが生じてくると思う。

――最後に、今後の抱負を…。
 中村 経営者の仕事は組織マネジメントだ。従業員が仕事に取り組みやすい環境を作ることが最大の任務だと認識している。現在の従業員は約220人。今、その4割強がシステム要員だ。人的エラーを減らすためにもシステム化は不可欠だと考えている。民間会社ではあるが、業界の共通インフラを担う組織として、取引所や日銀とリンクしながら資本市場のバックオフィスの一部として、しっかりとその重要な役割を果たせるようマネジメントしていきたい。(了)

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