金融ファクシミリ新聞社金融ファクシミリ新聞

金融ファクシミリ新聞は、金融・資本市場に携わるプロ向けの専門紙。 財務省・日銀情報から定評のあるファイナンス情報、IPO・PO・M&A情報、債券流通市場、投信、エクイティ、デリバティブ等の金融・資本市場に欠かせない情報を独自取材によりお届けします。

安全安心を確保し未来に挑戦

三重県知事  鈴木 英敬 氏 

――ゴルフツーリズムを始められたきっかけは…。
 鈴木 三重県の観光振興基本計画の一番大事な指標を我々は観光消費額に置いている。入り込み客数も大事だが、それだけではなく、地域にいかにお金が落ちるかということを最も重視している。三重県は空港も新幹線の駅もなく、それでいて長期滞在や富裕層に来てもらうことなどお金を遣ってもらう方策はあるのかを考えたなかで、出てきたのがゴルフツーリズムだった。例えば、三重県はゴルフツーリズムが盛んなタイのパタヤと連携協定を結んでおり、ゴルフ目的でパタヤに訪れる、そこの地域・国以外の人は600万人くらいで、それだけお金が落ちる。ゴルフという特性上、来たら連泊をする人や富裕層の人が多く、またその家族は観光もする。また、ゴルフツーリズムは国内では北海道と沖縄でしかやっておらず、本州でやっているところはないということで、1つは観光消費額、1つは差別化という理由でゴルフツーリズムを行うことにした。観光消費額は今年度に5000億円というのが1つの目標だったが、おかげさまで18年度は5338億円、その前年も5200億円くらいと、目標を達成しており、順調に進んでいる。

――今年は上皇・上皇后陛下の伊勢神宮参拝が話題となった…。
 鈴木 今回は平成最後の行幸啓として2泊3日で随行させていただいたが、上皇陛下は13回目のご来県であり、本当にありがたく思う。象徴天皇として国民に寄り添っていただいたお姿に対する日本国民全体の感謝の気持ちが表れたご訪問だったと感じる。おかげでこのゴールデンウイークの伊勢神宮参拝客数が88万人と昨年の倍になり、三重県全体でも300万人を突破した。今の上皇陛下が最初に被災地を訪問されたのが60年前の伊勢湾台風の時の三重県で、皇太子殿下の時に当時の昭和天皇の名代として伊勢湾台風の被災地を視察され、行程にはなかったが避難所に行かれたいというご意向で避難所にも行っていただいた。今の上皇陛下のお姿で感動することの1つが、被災地に何度も足を運ばれていることや平和を大切にされているということであるなかで、その原点が三重県にあったというのは光栄なことだ。今年はちょうど伊勢湾台風から60年となり、その伊勢湾台風の年には上皇陛下が美智子様とご結婚され、さらに伊勢神宮の祭主を務めている黒田清子様の50歳のお誕生日が今回行幸啓された4月18日だった。ご家族水入らずでお食事をされておられたなど、単に平成最後の行幸啓ということだけではなく、様々な機会も重なって、大変意義深く、我々の心に残るご訪問だった。

――災害の予算を3年間で1000億円取っているが、このあたりについては…。
 鈴木 実は私が知事になったのは11年4月、東日本大震災の翌月だった。知事になって5カ月目には紀伊半島大水害という、和歌山県と奈良県と三重県で80名を超える人が亡くなった台風があった。私は全国知事会の危機管理・防災特別委員長というのもやっており、防災・減災は政治家としての原点でもある。この私の3期目は、東日本大震災から10年の節目を迎えるうえ、南海トラフの懸念や確率も高まっているため、防災・減災対策を集中的に仕上げていかないといけない。昨年の西日本豪雨では、860万人に避難勧告等が出たにもかかわらず、実際に避難した人は最大で4万2000人であり、そういったソフト面の対策もしっかり行う必要がある。それに加えてハード整備や病院とか中小企業のBCP(事業継続計画)の策定などを行い、リスクに備えることを我々は「防災の日常化」と呼んでいるが、そのためには集中的に一定予算をかけないといけない。今回、国が財政負担の少ない起債の制度を作ってくれているため、それを活用する。今年は伊勢湾台風から60年、昭和19年の昭和東南海地震からも75年という節目であるため、こういった節目をとらえ、今集中的にやろうと考えている。

――財政は全国的に見て少し公債費比率が高いが、財政政策についてはいかがか…。
 鈴木 17年度決算で、全国の公債費比率の平均が11.4%、三重県が14.2%と、財政健全化法の基準からは10%程度下回っているが、確かに少し高い。これの要因の1つは、東日本大震災後や紀伊半島大水害後の公共工事であり、もう1つはリーマン・ショックのときに三重県の県内総生産の下落率が全国一位であったことだ。三重県はものづくりが盛んで、特に電気電子や半導体、あと自動車や石油化学系など輸出に頼る産業が多く、今も一人当たりの製造品出荷額は全国2位であるなど、リーマン・ショックで輸出ができなくなり経済が落ち込み、その時にさまざまな経済対策を打ったことで県債を発行し、公債費が高くなっている。とはいえ、今は健全化を進め、選択と集中で投資をしてきたため、22年度くらいには当初の予想額より184億円くらい減額できる見込みまできている。私自身の3期目として、新しく行財政改革のプランを作り、財政健全化の道筋をさらに明確なものとしていかなければと考えている。また、スマート自治体といったものにも手を付けたい。以前、事務処理ミスが重なったことがあった一方で、行政の人員は減っているなかでの働き方改革もあり、正確性とスピードと生産性を実現するには一定のテクノロジーを活用する必要がある。単純に時間外労働を減らすことや長時間労働を是正することだけではなく、本当に定型的なことは機械にやってもらい、企画立案や県民への直接サービスなどに集中する、質的な面での働き方改革をするために、スマート自治体にも取り組む。これを柱にしたプランを来年の4月からスタートできるように今年度中に計画を作りたい。

――三重県は子育て支援にもしっかり取り組んでいる…。
 鈴木 今の日本には、子どもの権利擁護といった視点が欠けていると考えている。例えば三重県では、性的虐待を受けた女の子に対し何度も事情聴取をしないで良いよう、児童相談所や警察、検察が一気に共同で面接をして、子どもの負担を減らすといったことを行っている。また、虐待を受けて施設に入った子どもがそのまま施設に残るのか、里親のところに行くのか、あるいは里親と一回会ったが、子どもはどう思っているのか、子どものためにどうしてあげたらいいかということを一番に考えていく、そういう施策を展開していきたいと考えている。もちろん待機児童をなくしたり、保育の質を高めたり、あるいは子育て家庭を応援するイクボス(仕事と家庭の両立を応援する上司)といったことなども進めており、あるNPOの調査では、全国イクボス自治体ランキングで三重県が一位となった。また、12年に四日市でゼロ歳児の子が児童虐待で亡くなる事案があり、そこからはもう絶対に子どもの命を奪わせないとして、その時の検証で子どもの安全を優先に一時保護するというのをややためらったのではないか、という結果が出た。これを受け、判断をためらわない、属人的に判断をしないためにリスクアセスメントシートというものを作った。一定項目チェックが付いたら、子どもの安全確保を最優先に、虐待があるかないかわからなくてもまず命を確保する、その後、親と話をして状況を聞き取り、虐待がないようであれば戻す、ということをやってきた。加えて、児童相談所も人手不足で経験者から経験がない人への継承が難しくなっているため、リスクアセスメントツールの運用により蓄積された約6000件のデータとAIを使うことにした。具体的には、AIを搭載したタブレットを持って行き、家庭訪問の様子をその場でチェックし、チェックした項目数やチェックした傾向などで過去のデータを元に十二分に判断し、迅速な一時保護や、人手不足や経験の継承という課題をなくすための取組を行っている。

――今後の重点施策などは…。
 鈴木 2つの観点がある。1つは三重県で暮らしていく、三重県に希望を持ってもらうには、安全安心がしっかり確保されていなければいけないという点、あとは果敢に未来に向かって挑戦をしていく点だ。安全安心の部分では、防災と医療、それから健康づくりやがん対策だ。三重県は女性の健康寿命が全国2位、75歳未満のがんの死亡率が下から5位、自然死の割合も全国でトップクラスと、健康に関するポテンシャルがあるところだ。一方で、人口10万人あたりの糖尿病治療を受けている人の割合は全国で1番であるなど、今後のことを考えれば全体的に健康ではなくなる可能性もあるため、この健康づくり、がん対策や医療、こういったところに力を入れていきたい。昨年にみえ県民意識調査で1万人に最も重要な政策分野に関するアンケートを行ったが、1番が医療、2番が介護、3番が防災、4番が教育だったため、まさにそれに沿ってトップ3をしっかりやっていくということだ。三重県は県内総生産が過去最高となり、今年度の税収の伸び率も全国1位となるなどマクロ的な経済が良くなってきている一方で、中小企業や個人事業主の方々は事業承継の問題や人手不足の問題など、課題をたくさん抱えている。そのため、中小企業施策の練り直しなどきめ細かな支援に力を入れて、経済の分厚さを増していく。特に今、我々が力を入れているのは事業承継のマッチングだ。三重県に本店を置く金融機関が地銀3つと信用金庫4つ、合計7つあり、その方々と我々と人材プラットフォームの企業で包括協定を結び、移住や経営人材、M&Aを含めて事業承継を行うためのプラットフォームを作っている。これらの金融機関の方々に力を借りて資金供給しながら、中小企業の部分を分厚くしていきたい。

(c)2018 株式会社金融ファクシミリ新聞社
▲TOP