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6分野すべてで世界一に

アラブ首長国連邦大使館  大使  カリド アルアメリ 氏

――UAE(アラブ首長国連邦)について…。

アルアメリ UAEは1971年、中東で初めての連邦国家として建国した。それまで中東地域で連邦国家として発展した成功例はなく、中東の人々の考え方や情勢の中で実行するにはとても難しいコンセプトだったが、UAEは他の中東の国々とは少し考え方が違っていて、それが幸いして成功し、今に至っている。背景にはUAE建国当時の指導者であるザイード初代大統領や、彼に続くシャイフ・ハリーファ現大統領の強いリーダーシップがある。今年で建国47年の若い国であるUAEは国を率いる首脳陣も若かった。その若きリーダー達を信じて国民がついて行った結果、完全に砂漠状態だった国が半世紀もたたないうちに、高層ビルが立ち並び、たくさんの観光客が訪れる現在の状態にまで発展していった。特にアブダビとドバイは今や中東地域のハブとなっている。

――さらに発展させていくために、今後、力を入れていくことは…。

アルアメリ 建国時の目標は経済、幸福度、福祉、治安、教育、医療、全てにおいて世界ナンバーワンになることだ。さらに50年後、100年後の国家ビジョンがそれぞれあり、それに沿った国家戦略で動いている。UAEの規模自体はそんなに大きくないが、インデックス指標の目標数値に向かって着実に進んでいる最中だ。すでに中東地域内での幸福度インデックスは1位になっており、数年前に行った中東の若者に対するアンケートで「どこに住みたいか」という問いに対して70%がUAEと答えていた。UAEは7つの国からできた連邦であるため、色々な文化を尊重して共存・共栄していこうという考え方が根底にある。実際に今、UAE内には約200国籍の人々が共存しており、文化、宗教、言語、習慣が違っても皆が安全で幸せに暮らすことが出来ていることを証明している。むしろ違うからこそ面白い、もっと知りたいと考える人たちがUAEには多く住んでいると言えよう。

――中東と言えば紛争が絶えない地域というイメージが強いが、UAEへの影響は…。

アルアメリ もちろん、中東地域内で起こっている紛争の影響を受けていない訳ではないが、UAE自体は経済的、政治的、社会的にも安定している。中東のテロと戦争の撲滅は世界中の課題だ。米国で9.11事件が起こった時、世界中がアルカイダというテロ組織を許せないと思い、撲滅のために立ち上がった。しかし、当時アフガニスタンで活動していた小さなアルカイダ組織は、今ではイラク、シリア、リビア、イエメンと世界中に組織を拡大させている。9.11後のテロ対策は失敗しており、テロを利用するために、今でも政治的に、メディア的に、金銭的にサポートしている人たちがいるということだ。

――テロを支援する人たちとは具体的に…。

アルアメリ 中東問題に詳しい人はすぐにわかると思うが、テロ組織をサポートしている最大の国はイランだ。イランの軍人がイラクやシリア、イエメン、パレスチナ、レバノンなどあらゆる国の政府組織の中に入り込み、自国以外でのイランの存在感を高めようとしている。例えば、レバノンではヒズボラ、パレスチナではハマスといった組織だ。特にヒズボラという組織はレバノンの政党として政治に絡まっている。その政党が掲げるものはレバノンという国への愛国心ではなく、イランへの忠誠心だ。ハマスも同様で、さらにイラクやイエメンにもそういった政党を作る動きがある。イエメンにはイランの影響だけではなくアルカイダとISも含まれている。次のイラク、次のシリア、次のレバノンが集まってイエメンに新たな巨大組織が出来つつあるということだ。イランは1979年に起こったホメイニーを指導者とする革命後、全てが変わった。革命のコンセプトはシーア派の考え方を世界中に広める事だ。イラン以外の国の国民も、シーア派の考え方を持っていればイランがその活動を支援してシーア派の考え方を世界中に拡大させている。どんなに米国やEUや日本が協力して軍事的にテロ組織で戦う人たちを殺すことが出来たとしても、その思想は殺すことが出来ない。考え方というものは若い頃の教育に始まる。若者には教育の先にある希望を与えて、選択肢を与えなければならない。私が中東で一番危ないと思うのはそれらがないという事だ。だから、洗脳されてテロ組織に入ってしまう。この問題を解決しない限り中東は安定せず、経済も発展しない。経済が発展しなければ、希望も選択肢もない。

――イランの核兵器問題について…。

アルアメリ イランが核兵器を保有すれば、次の日にサウジアラビアが持つ。それは当たり前の流れだ。中東地域の人々にとってそれは大変危険なことであり、トランプ大統領がイラン核合意から離脱した時にもUAEはその懸念を伝えた。イランへの経済制裁が無くなり再び莫大なお金がイランへ入るようになったとして、そのお金がイランの発展のために使われるのであればUAEにとっても喜ばしいことだが、イラン国内外にあるテロ組織のサポートと核兵器開発とミサイル開発のために資金が使われたらどうなるか。実際にテロ組織は拡大している。このままの方向で進み続ければ中東は崩壊してしまう。

――UAEのように成功した例を見せることで、中東の若者に希望を与えることが出来る…。

アルアメリ 実は10月29日にUAE初の国産衛星を日本の種子島から打ち上げた。2020年には火星探索衛星の打ち上げも予定している。このようにUAEでは宇宙開発プログラムも作っている。こういった活動をUAE内の若者だけでなく中東地域すべての若者に示すことで、若者が戦争やテロ活動に走ることなく、他にたくさんの選択肢があるということを知ってもらいたい。UAEは小さい国なので、それがどこまで届くかわからないが、メディアはそこに重要な役割を果たしてくれると信じている。そして、1971年建国時に決めた「世界ナンバーワンになって、その成功例を中東に示す」というコンセプトをしっかり守って進んでいきたい。そのためにも、他の国からのサポートは必要不可欠だ。特に日本は平和や教育を重んじ、科学技術や経済の発展という面において実際に成功モデルを示すことの出来る重要な国だと考えている。

――UAEと日本の現在の交流について…。

アルアメリ 現在UAEに住む日本人は約5000人で、これは中東と北アフリカを合わせた中でも一番大きなコミュニティだ。中東のイメージにありがちな女性差別もUAEにはほとんどなく、タクシー運転手にも女性が活躍している。閣僚評議員(大臣クラス)の人数も33人中9名が女性であり、国会議長も女性だ。政府関係の仕事は女性の割合の方が多いかもしれない。一方で日本に住んでいるUAEの人数は120人くらいでその内の約100人は学生だ。UAEは国の人口自体が少ないため100人は多い方で、その留学生たちは「UAEの金の卵」と呼ばれている。日本とUAEは3年ほど前から「包括的・戦略的パートナーシップ・イニシアティブ(CSPI)」というプロジェクトを進めており、今年4月には安倍総理大臣がUAEを訪問し、このプロジェクトに基づいた両国間における経済、文化、安全保障、防衛すべてを含めた長期的な協力戦略に関する共同声明を発表した。具体的には、両国がそれぞれの地域情勢を考えた時に、政治的、経済的にどのようなランドスケープを望んでいるのかをお互いに共有することだ。その望んだ形を実行に移すことができれば、UAEと日本の関係はさらに素晴らしい方向に向かっていくだろう。

――日本のマーケットに対する要望は…。

アルアメリ 私自身、日本に初めて来たのは高校を卒業してすぐのいわゆる「金の卵」組の一人で、日本で成長してきた。だから日本人が大変素晴らしい考え方や文化、そして技術を持っていることを知っている。しかし、その素晴らしい文化や技術を日本の外に出そうとした時に、国外に適応させることが少し難しいような気風がある。それが残念で、もっと柔軟性があればよいのにとか感じている。もちろん、時代や世代とともに徐々に変化はみられるが、日本と考え方の似た国の中から本当に信頼できるパートナーを見つけて積極的に世界に出ていけば、もっともっと良い結果につながると思う。その可能性はとても高く、我々UAEだけでなく、UAEをハブとしたインドやアフリカ等、これから成長していく国へのアプローチのチャンスがたくさん待っていることだろう。(了)

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