金融ファクシミリ新聞社金融ファクシミリ新聞

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「日本の犯罪多発に知恵で対応」

クローバー・ネットワーク・コム
代表取締役社長
吉田正敏 氏

――日本でも外国人が増えていることもあり犯罪が増えている…。

 吉田 外国人犯罪は確かに増えている。特に最近深刻化しているのが、海外からのフィッシング詐欺や口座の売買を利用したマネーロンダリングなどだ。当社では官報から収集した破産者データの取り扱いも始めたが、近年、破産者やお金に困った人が銀行口座を開設し、それを一口座5万円程度で売却している例が増えており、それがマネロンの温床にもなっている。外国人の犯罪者は、日本人よりも手口が巧妙で悪質なケースが多く、対策を世界基準に引き上げる必要がある。実際、AI技術を利用した詐欺被害も急増しており、AIによる自動翻訳や自動案内音声を巧みに操り、口座の変更通知を装った電話でパスワードを聞き出され億単位の資金が奪われる事件も起きている。今のところ、こういった事案では銀行が保険で被害額を全額負担しているが、犯罪件数が増加すれば保険料が高騰し、最終的に利用者の利益に影響が出ることも懸念される。また、不法在留などを含め外国人がこれだけ定着して街を構成するようになると、犯罪ありきの街を前提に考える必要も生じてくる。

――こうした犯罪を防ぐため、具体的な対策は…。

 吉田 私たちは、不正口座開設防止のために独自の「電話番号履歴サービス」を提供している。これは、電話番号の利用状況からリスクを評価する仕組みだ。不正口座を作ろうとする人は長期間継続的に利用されている電話番号を使用することは少なく、頻繁に利用者が変更されている番号や、使用期間が短い番号は疑わしいということがわかる。当社のサービスを利用すれば、不正口座を早期に発見することが可能だ。当社は元々、初代社長の長嶋克佳が派遣事業会社として立ち上げたが、バブル崩壊後に派遣先が激減し経営危機に直面した。その時期は通信販売や訪問販売が活況で、業者が顧客宛に送るダイレクトメール(DM)の不着が頻発していた。そこで顧客の電話番号を定期的にチェックし、住所変更の兆候を把握する「電話番号クリーニング事業」を始めた。このサービスはDMの到達率を大幅に向上させ、以来25年分の電話番号使用履歴のデータが蓄積したことで現在の不正検知、リスク回避サービスの基盤ともなっている。

――電話番号の履歴で不正を回避すると…。

 吉田 加えて、本人確認の代行をするeKYCというサービスも行っている。インターネット上での口座開設などの際に、免許証にある顔写真と、スマートフォンのカメラの前にいる本人の顔とが一致しているかを確認するのだが、様々な角度に顔を向けさせることで生体確認行う。目の前にいる人間は写真ではなく生きた人間であるという判断をする仕組みだ。2027年からはマイナンバーカードのICチップで認証を行うJPKI(公的個人認証サービス)に切り替わっていくので、当社もその対応を進めている。JPKIでは生体認証が不要なので、不正な口座開設のハードルが下がってしまうため、このeKYCがそのリスクヘッジになる。また、特殊犯罪などで簡単に人が殺されてしまう時代になっている今、口座からの引き出しに際しても生体認証を必須にしておけば、パスワードを教えた瞬間に殺されてしまうといったリスクを軽減し、被害者の生存確率を上げられると思う。システムの利用を簡便にすることも必要だが、それを提供する側にもそれなりの責任があると思う。当社も法制度の変更によるビジネスチャンスは掴みたいが、どうしてもマイナンバーのパスワードのみで認証させるのは心配だ。

――金融庁の姿勢はどうか、また金融機関での導入状況は…。

 吉田 金融庁は一番使いやすいのはマイナンバーだと、今はそこにしか目が向いておらず、免許証よりもう一段安全性が高いものになるということで満足感を得ているようだ。やはり顔認証をつけるとシステム上は少しコスト高になるため、信金や信組などは対応が難しくなってくるといった問題もあることは確かだ。その点、当社では前述の通り顔認証システム以外に電話番号の使用状況のシステムもあるので、それをマイナンバーと組み合わせて不正を排除するという選択肢も提供可能だ。しかし、金融機関に提案してみても法律を遵守しているので大丈夫といった認識の方が多く、なかなか理解を得るのが難しい。また、銀行組織は縦割で、新規口座開設部門と不正対策部門が別々になっており、新規獲得を優先するあまり、不正防止策が軽視されがちだ。加えて、不正対策部門は予算が限られているため、なかなか当社のようなサービスの導入に至らないのが実情だ。

――SMSを利用したサービスも提供しているとのことだが具体的には…。

 吉田 郵便料金の高騰や携帯電話の普及で郵送からSMS(ショートメッセージサービス)通知への切り替えが進んだため、2012年から当社でもSMSの一括配信サービスを開始した。導入検討時には50文字で100円と非常に高コストだったが、通信会社との交渉で月間数百万通の利用を約束することで単価を下げ、顧客に対して15円での提供を試みたが、収益化には苦労した。しかし、SMSに個人認証サービスを付加することで請求書や督促状の送付を行うことが可能になり、現在ではこれが当社の主力事業になっている。従来の郵送は未開封や紛失が多く非効率だったが、携帯電話は常時携帯しているため、確実に本人にメッセージが届くので認知されやすい。SMSにはコンビニ支払い用のバーコードを添付することができ、24時間いつでも支払える仕組みで、支払った直後に請求元に通知が届く。未払い者が「もう払ったよ」といった嘘の通らないサービスとなっている。また、電話番号の使用履歴のデータにより誤送信を防止する機能も付加している点も評価され、現在では通販会社や滞納家賃の回収を行う賃貸管理会社などを中心に約100社で利用されており、増加が加速している状況だ。ただ、このサービスはどの企業にも提供できるわけではなく、コンビニ側の審査を通る必要がある。コンビニとしては手数料の利益率が高いのでどんどん増やしたいところだが、顧客層により店舗でのトラブルを起こす可能性が高いと見る業種には慎重になっているようだ。

――今後の取り組みや展望については…。

 吉田 詐欺行為を行っている人物のデータベース(不正情報DB)の構築に取り組んでおり、ノンバンクの大手五社以上に集まってもらい協力体制を模索しているほか、AI技術を駆使した不正申込排除の仕組みづくりにも挑戦している。外国人による犯罪や、電話やネットを使った詐欺・不正が急増している中で、今後も知恵と工夫を凝らしながら社会の安全に貢献できるサービスを提供していきたいと考えている。[B][HE]

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